無表情軍人と無言幼女!?
「これが俺っちの調べたことだよ。ブログはネット上にない。検索した人はクロウっちを除いてみんな行方不明。スゲタリヒト氏がクロウっちとやりとりしていた相手とは考えにくい。以上!」
ハカセは話を打ち切るようにまとめてしまう。
俺はまだ消化しきれていない。
「うーん。まだ納得できないんだよなぁ」
「これ以上はわからないねー」
ハカセは肩をすくめる。
リンが言う。
「あの……ブログを作るんじゃなくて、心に作用する力だったらどうでしょうか?」
「テレパシーとか洗脳の類かな? そういうブログを読んだと思わせることはできるかもねー」
「俺がブログを読んでいたのは自宅だし、周囲に人はいなかった。それに読んだ後すぐにダンジョンに移動したりもしたし……」
「一応聞かれたから答えただけで、テレパスがクロウっちに怪電波を送ったなんて思わないからねー?」
リンが困ったような顔で言う。
「たしかに、そんなことする意味がないですよね」
「テレパスだとしたら直接声をかければいい。ブログを装う意味はないな」
すごくシャイだとか?
あるいは悪意?
わざと危険な情報を与えてパージされるように仕向けた?
いや、リヒトさんが悪意を持っていたとは思えない。
じゃあ、なんだ?
だめだ。考えてもわからん。
ハカセの言うように、わからないものはわからないのだ。
この場の情報ではこれが限界か。
「なあハカセ。現地調査はしてないよな?」
「してないよ。リヒト氏の家を調べてみるのかなー?」
お、話が早いね!
さっき住所を見たが、ここから遠くない。
「ああ。住所を印刷してくれるか?」
「いいよー。まだ電気料金や家賃は支払われている。部屋まだ契約されているよ」
彼はマンションで一人暮らしだった。
部屋はまだ引き払われていない。
なら、リヒト氏が失踪した状態のままだ。
なにか残っているかもしれない。
ハカセがプリントアウトした紙を渡してくれる。
俺は受け取りながら言う。
「助かる。あ、鍵がかかってるよな?」
ドアに鍵がかかっていたら、俺にはどうすることもできない。
ぶち破るわけにはいかないしな。
「御庭っちに手配するよう言っとくよー」
そう言うとハカセは素早くキーボードを叩く。
御庭に連絡してくれたようだ。
あ、腕時計に連絡が来た。
いわゆるグループメッセージだ。
すぐに御庭から返事があり、鍵を開けられる人を手配してくれた。
なんと、この後すぐに来てくれるそうだ。
「じゃ、行くか。ありがとうハカセ!」
「ありがとうございましたー」
ずっと気になっていたことへの手がかりをくれた。
感謝しなくちゃな。
ハカセはひらひらと手を振る。
「いいっていいって。あ、そういえばスナバっちが挨拶するって言ってたけど、会ったかな?」
「いや? 会わなかったぞ?」
「ふーん? じゃ、帰りに声かけるつもりかもねー」
そう言うとハカセは俺たちに背を向けて作業をはじめてしまった。
部屋を出ると、男が立っていた。
「ん……?」
ただ立っているだけに見えて、スキがない。
俺は少し身構えて男を見る。
男から敵意は感じない。
ここは御庭の拠点の地下。身内しか入れないエリアだ。
敵だとは考えにくい。
少し警戒を緩めて、男の動きを待つ。
俺より年上に見える。
髪は短く、ヒゲはない。
笑顔もない。
長身にコート姿。
きちっとした身なりだ。
軍人か兵士、あるいは暗殺者のような雰囲気。
なんにしろ訓練された人間だ。
男が口を開く。
渋い声。だが、はきはきとしていて聞き取りやすい。
「俺は砂場レンジ。公儀隠密メンバーだ」
俺は軽く会釈する。
こういう場合、握手を求めるべきなのか悩むが、やめておく。
「どうも。クロウゼンジです。ハカセが言ってた人ですね」
「はじめまして。オトナシリンです。よろしくおねがいしまーす」
スナバさんは無表情というか、そっけない表情だ。
彼はうなずくと、背後に隠れていた幼女の背をそっと押す。
「こちらはシズカ。口をきけないが、こちらの言うことはわかる。ほら、挨拶しろ」
幼女はもじもじとうつむいている。
せいぜい小学校低学年という年恰好。
リンは膝をついてシズカちゃんに微笑みかける。
「よろしくねー。シズカちゃん」
「……」
彼女はちらりとリンを見て、ぴょこりと頭を下げる。
俺も彼女に声をかける。
「よろしく」
彼女は小さくうなずくと、さっとスナバさんの後ろに引っ込んでしまう。
名前の通り、静かな子だ。
緊張しているのかな?
スナバさんが淡々と続ける。
「彼女も公儀隠密のメンバーだ。訳あって俺が面倒を見ている」
「そうですか」
訳アリ幼女か。
気になる。しかし追及していいのか判断できないな。
スナバさんが言う。
「挨拶しようと思ったんだが、今日はアソさんはいないんだな」
アソとは、トウコの苗字である。
誰も呼ばないから違和感あるな。
「ああ。トウコは今日は連れてきていない。知り合いですか?」
「いや。一方的に知っているだけだ。君たち三人とは前に任務で関わったことがあるが、そのときは声をかけられる状況ではなかった」
ふむ?
思い返してみても、彼に会った覚えはない。
彼の言う通り、一方的な関係なんだろう。
任務っていつのことだ?
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