意外な事実が発覚……彼はすでに……!?
ハカセが調べたリアル・ダンジョン攻略記を検索した人の一覧――
その中にあった名前が俺の注意を引いた。
菅田理人。
二十三歳。職業はITエンジニア。
理人という名前は、マサトとかマサヒトとも読める。
だが、ハカセが調べた情報にはちゃんと読み仮名もある。
リヒト、である。
リンが俺に言う。
「リヒトさんって、ブログの管理人さんですよね?」
「ああ。よくある名前じゃない。偶然とは考えにくいよな!?」
少し変わった名前。
本名ではなくてハンドルネームだと思っていたくらいだ。
そんな名前がリアダンの関係者として出てきた。
これを偶然では片付けられない。
ハカセがうなずく。
「その点は俺っちも気になった。クロウっちの話じゃ、そのブログを作った人なんだろう?」
「ああ。掲示板上でやりとりもした!」
「でも彼は別人だろうねー」
「なんでだ?」
「時期がおかしい。彼が消えたのはクロウっちがブログを見るよりも前なんだ」
「どういうことだ……?」
俺は混乱した頭でハカセに問う。
「彼――リヒト氏が消えたのは二月ほど前だ。ぷつりと通信が途絶えている。これはパージされたときによくあることなんだ」
携帯電話を持ったままパージされればそうなる。
落としたり壊れたりしたとも考えられる。
でもその場合、充電したり修理するだろう。
現代人が情報と無縁に暮らすなんてできない。
電話でなくたっていい。
クレジットカードやアプリを使っただけでも、情報が動く。
「俺と掲示板上でやり取りするより前に、リヒトさんはパージされている……? 他人の携帯を借りて使っていたりしないか?」
ハカセは首を振る。
「ないね。彼が消えた場所のカメラ映像を分析したけど、見つからなかった。移動した形跡はない。彼は消えたんだよー」
「なら名前が似ていただけだと? ハカセはそう思うのか?」
ハカセは肩をすくめる。
「そう思うほかにない。彼がカメラに映らず現場から身を隠せるとは思えないからね」
ふーむ。
ハカセの立場ではそう判断するしかないか。
名前が同じだというだけなのか……?
リンが言う。
「でも偶然とは考えにくいですよねー?」
「それは俺っちも同意するよ」
情報をもとに考えれば、このリヒトは別人だ。
掲示板での名前なんて、どうとでも名乗れる。
俺も偽名でやりとりしていたし。
でも俺は偶然の一致なんて信じられない。
意味があるはずだ。
合理的とは言えないが、もう少し考えたい。
ちょっと切り口を変えてみる。
「異能やスキルでブログを作ることはできそうか?」
「ネット上にブログを作る能力ってことかなー? 電気を操るとか、キーボードを遠くから押すことはできるだろうね」
「それって、普通にパソコンを使ってるのと同じだよな?」
異能で操作してパソコンを使って通信している。
この方法では、普通のブログができるだけ。
「クロウっちが言いたいのは過程を飛ばしてブログを作って、特定の人だけに見せる能力だよね?」
「そうだ」
「そんな能力があるとしたら、俺っちは見つけられないねー。でもまあ、そんなのはナンセンスだよ」
ハカセは、ばかばかしいと言いたげに首を振る。
「どうしてだ?」
「その能力はどこに対して作用するんだろうね? 端末かな? サーバーかな? 相手の心なのかな?」
むむ。
ちょっとややこしいな?
「あー。対象が曖昧だからか?」
「異能にだって、ある程度のルールはある。対象が明確じゃないとおかしいんだ」
なんとなく発動する異能などない、ということか。
俺のスキルだって対象は決まっている。
【片手剣】は持っている武器にしか作用しない。
【入れ替えの術】なら、俺と同サイズの対象が必要になる。
リンが自信なさそうに言う。
「ええと……対象はブログで、お相手を選んで見せるのなら、おかしくないんですよね?」
「そうだねオトナシっち。ブログが実在して、その中の情報の一部を、特定の相手だけ読めるようにする。これなら、できそうだよねー?」
対象はブログだ。
つまりネットワーク上のどこかにあるファイル。
明確だ。
でも今回の場合はネットワーク上のファイルは存在しない。
ブログは存在しないからだ。
もう一つの対象は特定の個人。
俺やリヒト氏や、他数名。
明確だ。
でも対象はどうやって選んでいるのかがわからない
ネットワーク越しに相手を対象にできるのか?
ハカセの口ぶりだと、違うみたいに聞こえる。
俺はハカセに問う。
「できそうだけど、できないんだな?」
「そうだよ。サーバー上のファイルって、電子データだよね? あー、専門的な話をしても伝わらないだろうから省くけど、これはハッキリした対象とは言えない。特定の個人がアクセスしたかを異能で判定するっていうのも難しいよね?」
電子データの扱いか。
物理的に存在するとは言えない。
記録媒体の上に電子的に刻まれたゼロとイチの組み合わせで……。
うーむ。俺も詳しくは知らない。
「たとえば俺がファイルにアクセスするとして、それを異能では感知できないのか?」
「それをするには、常時データを監視して、クロウっちのアクセスだと判断しなきゃならない。痕跡を残さずにそれをやる方法なんてない」
リンは考え込んだ顔のままつぶやく。
「うーん。難しいです……」
「俺もなんとなくしかわからないな。まあ、異能で電子データを追跡するのは難しいってことだな。ハカセ?」
「全世界の全端末を常時監視する能力だと考えてみて。無理そうでしょー?」
「ああ。そんな広範囲に能力をかけるなんて、無理だろうな」
スキルにはパラメータがある。
俺がスキル調整するときに変更できる値のことだ。
威力、距離、発動時間、効果時間、クールダウン時間、消費だ。
全世界に能力をかけるってことは、この全てが振り切れていないとできない。
俺の持っているスキルから考えてみる。
【自律分身の術】の場合、数時間、一体の分身を出す効果だ。
世界中に効果を広げるなんて、上級忍術でもムリだとわかる。
もっと上位のスキルがあるとしたら……可能か?
可能だとしても、相当に高度である。
そんなことができそうなのは――世界による認識阻害くらいか。
それを個人の異能者やダンジョン保持者ができるとは思えない。
ましてや、ブログを書くために使うのはナンセンスだ。
そんな能力、ありえないよな?
 




