自律分身は見た!? 十一階層のめまいを誘うあやしい秘密……!?
没タイトルシリーズ
■偵察結果! 効果時間の増加で効率爆上げ!?
自律分身の記憶――
自律分身は洞窟を全力で走っている。
――くそ、もうすぐ術の効果時間が切れそうだ!
――せっかくここまで来たんだから間に合え!
――拠点へと走り込む。セーフ!
――間に合っ……!?
――俺とリンが仲睦まじく抱き合っている!?
俺は意識の再生を中断してツッコむ。
「って、さっきのシーンからかよ!?」と俺。
「ど、どうしたんですかゼンジさん?」
リンがびくっとする。
突然虚空に向けてツッコみだすとか、驚くよな。
「ああ、ごめん。こっちの話だ。続き見てくる」
「そうですかー」
【意識共有】は印象が強いところが残りやすい。
偵察結果より、こっちの印象が強いか。
そりゃそうだ。
軽い寝取られ感と喪失感、そして嫉妬。
ついでに喜びを感じる。
ついでかよ!
再び記憶をたどる――
自律分身は松明を手に、十一階層に足を踏み入れる。
――見た目は洞窟風か。暗いな。
――道幅は広い。
――松明の明かりは天井まで届かない。結構高いかな。
広い通路が続いている。
うねるように続く洞窟は先が見通せない。
――む。羽音がするな。
――これは……コウモリか。まだ遠い。
自律分身は洞窟の壁面に寄り、盾を持ち直す。
そのまま前進して、開けた場所へ出る。
――ここは明るい。松明なしでもなんとかなるな。
洞窟の壁面の一部が崩れて、光が差し込んでいる。
崩れている位置は高く、ここからはよく見えない。
――あれは……?
――なにか、いる?
自律分身の目が、光の中を横切るなにかを捉える。
ひらひらと変則的に飛んでいる。
――コウモリとは違う。一匹じゃないな。たくさんいる……。
羽音は小さく、ほとんど聞こえない。
コウモリのようなばさばさと羽ばたく音はしない。
――壁面にもいるな。
翅を広げて壁面に張り付いている。
――こいつは……蛾か!?
大きな蛾だ。大きさはモンスターのコウモリよりやや小さい。
俺の前腕――ひじより先くらいのサイズ感。
胴体はぶよぶよとして毛深い芋虫みたいだな。
羽は茶色、背中に鮮やかな赤い模様がある。
模様はまるで目玉みたいだ。
そして後翅の一部は長く伸びている。
まるで尻尾のように、ゆらゆらと揺れている。
――尾状突起だ。これを参考にマフラーを作ったんだよな!
――ピロピロしてるな。へえ、実物はこんな感じなのか!
自律分身はもっとよく見ようと、身を乗り出す。
だが体がよろめき、壁に手をつく。
――む……? めまいがする……。
ぐらぐらと揺れる視界。視点が定まらない。
体が熱く、汗ばんでくる。
――これは……攻撃を受けている!?
座り込み、盾に隠れて壁に身を預ける。
だが、めまいは収まらない。
――くそ。このままここにいるのはマズい!
コウモリは、羽音が聞こえるだけで距離は離れている。
近くにいるのは頭上の蛾だけだ。
いや!? だんだんとコウモリの羽音が近づいてくるぞ。
――や、やばい。めまいだけじゃない……体の動きが鈍くなってきた!
――このままじゃ、やられる!
自律分身は小瓶を出す。
そして黄色い液体を飲む。
状態異常回復薬である。
――効け! 頼む……!
揺れる視界の中、コウモリが姿を現す。
九階層のものより大きい!
――来やがった! くそ、まだ見つかってないよな……!?
自律分身は壁と床の隙間、盾の陰へと身を隠す。
荒くなった呼吸をなんとか鎮める。
――大丈夫。バレないはず……。
――ここなら目立たないはずだ!
コウモリがお得意のエコーロケーションを使ったとしても、こうしていれば壁や床と判別できないはず。
数秒が長く感じる。
やや間を置いて、めまいが収まってくる。
――よし、効果あったな!
コウモリには見つかっていないようだ。
羽音だけが激しく聞こえるが、こちらに寄ってこない。
――撤退する!
再び体調を崩す前に、じりじりと後退する。
階段までたどり着き、安堵の息を吐く。
――ふう。なんとか戻ってこれた。
――さっきのは蛾の攻撃だろうな。毒か……?
どういう攻撃を受けたのかははっきりしていない。
目に見えるような攻撃は受けていない。
――しかし深追いは禁物だ。
――十一階層の偵察はこれくらいにしておこう!




