開けダンジョン! わが意思に従い闇と光の狭間より来たれ!
引き続き、管理者権限でできることをチェックしていこう!
「あとはダンジョンの命名と、メッセージ機能と、転送門の移動だな」
「メッセージ機能とか、どうでもいいっス!」
どうでもよくはないだろうよ!
「最後までチェックしたいと言っていたくせに、眠くなってきているだろ!?」
「面白そうなところだけ知りたいっス!」
お前……。ワガママ言いよる!
「転移門の移動はどうかな? 面白そうですよー。暴食さんが使っていたかもしれません!」
「あっ、それは気になるっス!」
なんとか盛り上げようとしてくれるリン。
別にトウコを接待しなくてもいい気がしてくるけどな!
「んじゃ、それ先にするか」
俺は画面を操作してメニューの転移門の移動をタップする。
頭の中に音声が流れ、画面に文字が表示される。
『転送門の移動はダンジョン外で行います』
『一日一回、任意の場所へ転送門を移動することができます』
『ダンジョン内に攻略者がいる場合には実行できません』
「おっ? これは説明があるぞ」
「これは説明なしじゃムリっスね!」
さすがに説明の少ないダンジョンシステムも、これくらいは説明してくれるんだな。
三行だけど!
「攻略者って、俺たちのことか?」
「ダンジョンの中に人がいてはダメなんですねー」
「じゃあやってみてほしいっス!」
「今か? ま、やってみようか」
ダンジョンを出て俺の部屋へ。
クローゼットの前に立つ。
で――どうすりゃいい?
「あー。外だとステータスウィンドウは呼び出せないけど……どうやるんだ?」
トウコがポーズを決めながら言う。
「そりゃもちろん――ダンジョンオープンと唱えるんスよ!」
「そうなんだー」
リンは素直にうなずいているが――そんなものあるか?
ステータスオープンはわかる。
……お約束だ。
でもダンジョンオープンは聞いたことないぞ。
「そんなお約束はないよな?」
「まあ、とりあえず叫んでみるっス!」
ここはダンジョンの外、アパートの部屋だぞ!?
パージされるか正気を疑われるわ!
「叫ばねーよ!」
「でも、やってみないとわからないっス!」
トウコはニヤニヤしている。
面白がりおって。
とはいえ、試してみないとわからないのは確かだ。
俺は小声で言ってみる。
「……ダンジョンオープン」
……ふむ?
転送門はクローゼットの中にあって変化はない。
リンが気まずそうに言う。
「なにも起きませんねー」
「う、うむ……」
なにも起きていないわけじゃない。
俺の正気度が減少したよ!
トウコが楽しげに言う。
しゅばばっとポーズを決めながら言う。
「呪文が間違っているかもっス! 開けダンジョンの門! わが声にこたえよ! が正解かもしれないっス!」
「そうな……の?」
さすがにリンもうなずかない!
「テキトー言うな!」
「そういえば、暴食さんはなにも言ってませんでしたねー」
トウコがおののく。
「無詠唱で門を開いただとうっ!?」
もういいわ!
俺はトウコをスルーする。
「暴食はあのタイミングで門を設置したんじゃないと思うぞ?」
「あ、そうですよねー。好きなときに出せるなら、もっと簡単に逃げられちゃいますよね!」
転送門は暴食の退路だ。
事件前に消火器ボックスに転送門を設置していたと考えられる。
一人残ってモンスターを狩っていたのは無事に帰れる自信があったんだろう。
「なら、もっと近くにしたらいいっス!」
「近くって、三階のどこかか?」
暴食のダンジョンの入口は駐車場への連絡通路にあった。
売り場からは少し遠い。
「売り場には設置できなかったんでしょうかー?」
理由か。
うーむ……。
「人目があるからか?」
「ちょうどいい箱がなかったのかもっス!」
消火器ボックスのような、普段誰も明けない密閉空間。
たしかに、条件に見合う箱はそんなに多くない。
脱線したおかげで、ひらめいたぞ!
「あ、箱か! 転送門の移動先を指定しなきゃいけないんだ!」
「そうかもしれませんね!」
トウコはきょろきょろと部屋の中を探す。
なにか見つけて、キッチンを指さしている。
「じゃあ、そこの冷蔵庫でどうっスか?」
「トウコちゃんのダンジョンとおそろいですねー」
ダンジョンの場所をおそろいにしてもうれしくはないが……まあ、箱だ。
ダンジョン化した実績もある。
「お、トウコにしてはまっとうな意見だったな!」
「で、呪文はこうっス! 世界に禁じられれし異界の門よ! 契約の名のもとに封印を結びなおす――」
トウコは一小節ごとにポーズを変えている。
なんか長そうだ。
これ以上、俺の正気度は危険にさらせない。
俺は冷蔵庫を指差して言う。
「そこの冷蔵庫へ、ダンジョンオープン。……ふむ。無理だな」
「ああっ!? まだ途中っス!」
トウコがヘンなポーズのまま固まる。
「今度にしようね、トウコちゃん!」
「次はないけど! ……ふむ。なにか見落としてるか?」
管理コンソールが示した条件は三つ。
――転送門の移動はダンジョン外で行います
――一日一回、任意の場所へ転送門を移動することができます
――ダンジョン内に攻略者がいる場合には実行できません
ん……これって――
リンがおずおずと言う。
「えーと……分身さんが中にいるから……?」
あ、リンはわかってたパターンだ!
なら、やる前に言ってくれる!?
「……そうだな。自律分身が中にいるからだ」
「あたしはぜんぜん気づかなかったっス!」
ちょっと考えればわかる話だったわ!
トウコの中二病詠唱に気を取られてしまったぜ!
このやり取りはなんだったのか……。
俺の正気度に深刻なダメージ!
 




