もしや、万能武器なのでは……? 【スキル検証】【片手剣】【打撃武器】【ファストスラッシュ】【フルスイング】
五階層進めようと思ったら、クロウが進んでくれない……。
これがキャラが勝手に動くってやつなのか。
デコイにしていた分身が倒されて消える。
俺は新たな分身を生み出す。
【瞑想】のおかげで魔力は充分。
分身にランダム回避運動を取らせながら、ぶつからない程度に距離を置く。
コウモリ数匹を、分身が引き付ける。
俺を目指して飛んできたコウモリを正面から迎え撃つ。
「ファストスラッシュ!」
斬撃がコウモリを切り裂き、一瞬で塵へと変える。
ドロップした魔石を左手でキャッチすると、次のヤツが迫ってきた。
すかさず、右手を振り上げて――
「ファストスラッ……っとおおっ! あぶねえ!」
【ファストスラッシュ】を発動しようとして――できなかった。
目算のズレた俺の斬撃は間に合わない。
地面を蹴って、ナタを振るおうとした腕を振り子にして横へ大きく跳ぶ。
間一髪のところで、衝突を回避する。
【ファストスラッシュ】が発動しなかったのは再使用可能時間のせいだ。
うっかりしていた!
一部のスキルは連発できない。
【フルスイング】のときは、たいてい敵を一撃で倒して戦闘が終了していたからな。
【分身の術】や【壁走りの術】にもクールダウン時間はあった。
攻撃技にもクールダウン時間があって当然だ。
この観点がつい抜けてしまったぜ。
いや、今それを確かめているんだ。
ここで気づけて良かった!
ボス戦で隙をさらしたら死にかねない。
やっぱり本番一発勝負に出ないで正解だったな。
残ったコウモリを片づけて、魔石を回収する。
これで周囲に敵はいない。
探索を続けながら、クールダウン時間を計ってみる。
【フルスイング】と【ファストスラッシュ】を何度かカラ打ちしたところ、どちらもおよそ8秒。
少し長めだな。スキルレベルを上げればこれは短縮される。
【フルスイング】のクールダウン時間中に【ファストスラッシュ】を発動することはできた。
つまり、個別にカウントしているんだな。
「よし。これはいいぞ!」
アクションスキルを増やして、ローテーションで使っていけばいいんだ。
今は二つだから、交互に使っていけば四秒に一度どちらかの技を放てる計算だ。
管理がめんどうになるので、厳密にスキルを管理するつもりはない。
ボス戦では必要になるかもしれないな。
ちなみに、どちらの技も消費魔力は小さい。
【分身の術】レベル1よりも小さい。
攻撃一動作分の技だからか。
気軽に使っていけるな。
ナタについての発見もあった。
最初はバットを使って【フルスイング】を試していたが、スキルに合わせて武器を替えるのも面倒になってきた。
以前はバットと比べるとナタの威力とリーチを今一つと感じていた。
しかし、ナタは峰側で殴れば鈍器である。
つまり【打撃武器】だ。疑う余地もなくそうだ。前に確認した。
であれば、【フルスイング】も発動できる!
そういう気持ちで試してみたところナタでも【フルスイング】が使えるようになったのである。
うん。やはり信じることが重要なんだな……。
「ナタは便利な武器だな。いや、本来は武器じゃないか……」
それに、何と言ってもナタは丈夫だ。
バットの傷み具合も気になる……しばらく主武器の座はナタに譲ることとしよう……。
もちろん、いざという時の為に、相棒のバットは肌身離さず持ち歩くけどね。
安物のバットだけど、序盤を乗り越えた戦友であり相棒だ。もっといいバットは簡単に買える。
だけど、これを捨てるなんてとんでもない!
まあ、ともかく。
峰部分で攻撃するとき【打撃武器】として扱われる。
刃のついたほうで攻撃すれば【片手剣】扱いだ。
片手剣であり、打撃武器なんだな。
ならば、ミネ打ちなら【片手剣・威力強化】【打撃武器・威力強化】が両方乗るのか?
ちょっと試してみよう。
……いた。ゴブリンの一団だ。
数が多いと面倒なので、接敵前に投擲で数を減らす。
二匹になったゴブリンの一方へ、分身を放って釣り出す。
もう一方へ距離を詰めて、肩あたりをナタの峰で強く殴る。
「ゴフッ!」
ゴブリンは肩を押さえて体勢を崩す――が、倒れない。
「うーむ。二重にかかっている感じではない――のか」
攻撃を回避しながら、考える。
ゴブリンは攻撃をからぶって、体を泳がせる。
その隙に、一歩距離を取る。
「いや、両方発動はしているが、加算はされていないのか」
過去に検証した【暗殺】と【致命の一撃】と同じケースだろう。
効果が似ている二つのスキルは両方とも発動する。
しかし、効果は二重に乗ることはない。
足し合わされて強くなるわけではない。
片方ずつスキルをオフにした場合も効果は同程度だった。
つまり、同程度の効果の場合は効果を増さない。
おそらく、効果の高いほうが優先される。
ゴブリンが距離を詰めてくる。
がむしゃらなその踏み込みはスキだらけだ。
峰で打つために逆刃の状態で構えたナタを振りかぶる。
走りこんできたゴブリンの顔面に向けて、大きく振り抜く――
「――フルスイング!」
「ギッ……グェッ!」
スキルが発動し、ノックバック効果でゴブリンが吹き飛ぶ。
派手に地面に叩きつけられて、ゴブリンは塵へ還る。
ナタで発動した【フルスイング】も、バットの場合と同じように効果を発揮する。
武器によって吹き飛ぶ威力が変わることもない。
まあ、バットのほうが遠心力が乗るから飛距離が伸びる気がしないでもない。
……なんとなく、バットを擁護してしまう俺。
本筋とは逸れたが【フルスイング】の発動条件がわかった。
バットのように両手で振る必要はない。
全力で横に振ることが発動条件なんだな。
強い踏み込みとか、そういう条件はない。
棒立ちで強く横振りしても発動できる。
棒立ちや崩れた姿勢だとたまに発動しない。強く振ることができていない場合だな。
まあ、戦闘中に棒立ちで強い横振り攻撃をしようと思うことはないから、たんなる検証の過程にすぎないけども。
ナタはリーチが短いから、正面の敵を打つには距離を詰める必要がある。
半身に構えてナタを前に出す感じ……体も回転気味にするといいかな?
【フルスイング】の発動としては、姿勢はどうでもよくて、振る力と横振りであること、そしてモーションの長さが必須っぽいな。
たとえ力を込めても小振りに横振りしてもダメである。
フルでスイングしてると言えないもんな。
「ん……まてよ? 姿勢がどうでもいいというのはなかなか応用の幅がありそうだぞ」
つまり、空中で発動することもできる。
壁から発動することもできる。
格闘ゲームで言う空中必殺技だ。
これはなかなか使い勝手がいいかもしれない。
壁を走りながら……つまり壁に立ちながら【フルスイング】を発動させる。
「……できた!」
地面から見て横振りと判定しているわけではない。
俺の体の軸に対しての横振りであればいい。
もう一体のゴブリンの攻撃が被弾して分身が倒される。
ゴブリンは一瞬きょとんとしたのち、勝ち誇った表情を浮かべる。
……なんかむかつく。
ナタを手に下げ、ゴブリンへ向かって走る。
ゴブリンの少し手前、相手の攻撃範囲に入る前に大きく踏み切る。
そして、壁を蹴っての二段ジャンプする。
そのまま【軽業】による伸身前宙――
「――からの! 空中フルスイングッ!」
「ゲエッ!」
【フルスイング】が発動する。
後頭部を強打されたゴブリンは勢いよく前へつんのめり、石の床に熱烈に口づけする。
そのまま塵と消える。
仮にスキルが発動しなくても、前宙のひねりを加えた打撃力なら十分倒せただろうが……あれは痛そうだ。
「……なぜか途中からフルスイングに浮気してしまったな。片手剣とファストスラッシュを試そうと思ったのに」
まあ、いいんだ。
気が乗ったときが検証のベストタイミングだ。
気になったことを調べていけば、気付きも増える!
そのあと【ファストスラッシュ】でも同じことができることを確認した。
壁でも空中でも発動できた。空中殺法の幅が広がるな。
「いろいろ捗ったな!ちょっと情報量が多いからまとめておくか……」
俺は地図用に持ち込んでいる小さなノートをめくって、分かったことを書き出しておく。
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【フルスイング】と【ファストスラッシュ】について
・クールダウン時間は、およそ8秒。
・クールダウン時間は、スキルごとにカウントされる。
・魔力消費は【分身の術】レベル1よりも小さい。
・【フルスイング】には条件がある。横方向への強い大振り攻撃であること。
・スキルは空中、壁面でも使用可能。
・ナタは【打撃武器】でも【片手剣】でも扱えるが【威力増加】は加算されない。
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「薬術も試したいが……クラフトは一度拠点へ戻ってからだな」
ああ、やる事が多すぎるぜ!
楽しくてしょうがないね。




