ボス討伐報酬はどこにある? ちゃんとあるよね!?
トウコが拳銃弾を撃ち込むと、クモはあっけなく絶命した。
俺の刀やトウコの手に残ったクモの糸も塵となって消えた。
生成された魔石を引き寄せて回収する。
この魔石は素材に換えたい。
糸は強靭だし、粘着力もすごい。
これは素材として期待できるな!
リンがうれしそうな顔で言う。
「あっ! レベルあがりましたー!」
「俺はまだだ。もう引き離されちまったか」と俺。
「あたしも上がったっス! 追いつくっスよー!」
「さすが、成長が早いなトウコ!」と自律分身。
「スキルは戻ってから考えようか」と俺。
「ボスを倒したんだから報酬があるはずだぞ」と自律分身。
トウコがボスを倒したあたりを見てきょろきょろする。
「あれ? 宝箱がないっスね?」
「俺のダンジョンでは敵を倒しても宝箱は出ない。ボスでも同じだ」と俺。
ボスを倒しても宝箱はその場にドロップしない。
五階層のボスでもそうだった。
「じゃあ、どこにあるんスか? ボス報酬もらえるんスよね?」
「次の階層へ行く前の部屋に、設置式の宝箱があるはずだ」と自律分身。
リンがうなずく。
「分身さんが開けたら、自律分身さんがもらえたんですよね?」
「そうそう。お、あっちに扉があるぞ!」と俺。
デカい扉は見つけやすくていいね。
入り口と同じ、見上げるような大きな扉だ。
「開けるぞ。この扉の先に宝箱があるはずだ!」と俺。
「五階層と同じなら敵はいないけど、いちおう警戒な」と自律分身。
俺は扉に手をかける。
軽く押すだけで、自然と扉が開いていく。
その先に――あった!
宝箱だ。少し豪華な装飾。
「ちゃんとあったっスね!」
「いつもの宝箱よりちょっときれいですねー」
自律分身が俺を見る。
「なあ、これ俺が開けてみるか? それか、普通の分身に開けさせるか?」
「俺も悩んでたとこだ。またヘンなエラーが起きるかもしれないし」
前回は罠を警戒して分身に開けさせた。
宝箱を開けた分身に報酬を与えようとして、エラーが起きた。
俺たちに報酬を与えているシステムの判定が狂ってしまった。
そうして手に入れた【エラー】スキル。
【自律分身の術】だ。
これは役に立ってくれた。
【エラー】の正体は【上級忍術】だ。
当時は取得できないはずの上級スキル。
エラーのおかげで得をしたとも言える。
でも、デメリットもあった。
【エラー】スキルは成長できない。
強力なスキルとはいえ、育てられないのは不便だった。
「面白そうだから二号が開けたらいいんじゃないっスか?」
「面白がるな!」と俺と自律分身。
ハモったわ!
「ははっ! 二人で突っ込んでくるっス! おもしろー!」
「ふふっ」
あ、リンまで面白がってるし!
自律分身が宝箱を開けたらどうなるんだろう?
また【自律分身の術】を覚えたりして。
自律分身が術を使えたら戦術の幅が広がる。
夢が広がるな!
「いっそ、俺たちが開けないのはどうだ?」と俺。
「リンかトウコが開けるってことか?」と自律分身。
リンが首を振る。
「もしもゼンジさんがもらえなかったら困りますー! 私のときは、ダンジョンの持ち主しか受け取れないかもってことでしたよね?」
リンが報酬受け取れないとかわいそうだと思ったんだよな。
だけど、今回は俺にとって二度目である。
「うーん。リンかトウコが報酬を受け取れるなら、それでもいいんだけどな?」と俺。
「ああ、みんなで攻略しているわけだし」と自律分身。
誰が報酬をもらっても、俺たちは損しない。
困るのは空振りして誰ももらえないパターンだ。
トウコが手を上げる。
「じゃあじゃあ! あたしが開けてみてもいいっスか?」
俺はうなずく。
「ああ、いいぞ。俺のダンジョンだし、試してみようぜ」と俺。
「え、ゼンジさんはそれでいいんですか?」
「ダメならそれでいい。どうなるか気になるし!」と自律分身。
「受け取れたら、今度あたしのダンジョンのをあげるっス!」
お互いに報酬を交換できるなら、俺たちの間では問題ない。
深く考えるといろいろ問題はあるのだ。
だから調べたいと思っている。
つまり――他人のダンジョンの報酬を奪えるのか、ということだ。
俺たち以外にもダンジョン保持者はいる。
ダンジョンに侵入されて、宝箱を横取りされる可能性もある。
ストーカーはリンのダンジョンに入ることができた。
持ち主の同意は必要ない。
ダンジョン保持者であれば、誰だって入れる。
だから、ちゃんと試しておかないと今後も悩むことになる。
ちょっとした賭けにはなるけど、悪い結果にはならないだろう。
ダンジョンは報酬面でケチったりしない。そういう信頼感がある。
トウコは躊躇なく宝箱に手をかける。
こいつは悩みなんかなさそうでいいよな。
「んじゃ、せーのっ! ――あれっ!?」
いくら引っ張っても、宝箱のフタは開かない。
びくともしない。
「お? 開けられないパターンか!」と俺。
「納得の結果だな!」と自律分身。
トウコは納得してなさそうだ。
「ちぇー! ケチっス!」
リンはほっと胸をなでおろす。
「ふう。なんだか、安心しましたー」
俺も内心ではほっとしている。
ボス報酬の宝箱は奪えない!
トウコがニヤニヤしながら言う。
「じゃ、店長二号が開けてみて欲しいっス!」
「面白がりやがって……たぶん開けられると思うけどな」と俺。
「じゃ、開けてみるぞ。いいな?」と自律分身。
自律分身は律義にも俺に確認する。
お前も俺なんだから遠慮はいらない。
「いいぞ。開けてくれ」と俺。
「よしオープン! お、開いたぞ!」と自律分身。
宝箱のフタは抵抗なく開いた。
五階層では普通の分身でも開けられたんだ。当然開けられると思っていた。
天の声が頭に響く――
来た!
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