十階層到着! 巨大な扉……行くべきか、行かざるべきか!?
階段を降りると、そこには広い空間が広がっていた。
リンが言う。
「敵の反応ありません!」
トウコが耳をすませる。
「音もオーケーっス!」
広いフロアで、松明が燃えていて明るい。
敵もいないようだ。
「ああ。ここはボス階層みたいだな。デカい扉がある」
五階層のものと似た、巨大な扉。
扉は閉まっている。
五階層と同じなら、扉を開けなければ敵は湧かないはず。
つまり安全地帯というわけだ。
トウコがドアを見上げて言う。
「これ開けたらボスっスよね?」
「ゼンジさん、どうしますか?」
ボスと戦うか?
引き返すか?
俺は二人に問いかける。
「それを決めるためにも、まずは状態を確認させてくれ。魔力と弾丸はどうだ?」
「魔力は少し減っていますね」
「弾はいっぱいあるっス!」
「んじゃ、魔力を回復するまでもう少し休憩しようか!」
「そうですねー。じゃあ、せっかくだからごはんにしましょう! 準備しますねー」
「やたっ! ごはん! ごはん!」
リンは収納から鹿肉を取り出す。
草原ダンジョンで狩りまくったので、売るほどある。
収納に入れとけば痛まない。便利だ。
トウコはすっかり食事に気がいっているな。
状況確認がまだだぞ!
「で、トウコ。弾丸の種類はどうだ? 数は足りるか?」
「拳銃弾はたくさんあるっス!」
ざっくりしているが、充分な数があるということだろう。
拳銃弾には弾切れの心配はない。
「ショットガンは?」
トウコは両手にショットシェルを乗せて、俺に見せている。
「バードショットばっかりっス!」
「コウモリが多かったからたくさん手に入ったか。スラッグ弾はあるか?」
「スラッグ弾はこれだけっス!」
トウコはショットガンを掲げる。
予備の弾はない、と。
「装填済みの二発しかないってことだな」
今トウコはショットガンを二丁出している。
片方はスラッグ弾。
もう一方はバードショットが装填されている。
さらに拳銃一丁、マグナム一丁。
銃まみれだな!
「マグナム弾はあるか?」
「バッチリ! 予備が十発もあるっス!」
弾倉に六発あるので、予備を含めて十六発。
「よし! 弾丸は充分だな!」
俺のダンジョンでなら、トウコは弾丸不足になりにくい。
トウコが逆に聞いてくる。
「店長の魔力はどうっスか?」
「減ってるけど、休めば問題ないぞ」
「あんなに分身出してるのに、よく平気っスねー?」
「スキル調整のおかげだな。コストを下げてるし」
「にしても、使いすぎじゃないっスか? 出しすぎじゃないっスか?」
「合間に瞑想して回復してるんだよ。今だってそうだ」
【瞑想】は休憩していれば効果を発揮する。
リラックスできる姿勢で休めばいいのだ。
しゃべっていてもいい。
今もじわじわと魔力と体力が回復している。
体力とは疲労だ。疲れが取れる。
さすがに歩いたり、体を動かしていると発動しない。
また、負傷を癒す効果はない。
「あたしも【瞑想】欲しいっス!」
「スキルリストに出ないんだろ?」
「ないんスよねー」
「ま、資質だろうな。トウコはじっと休んでられないだろうし」
【迷走】なら出るかもな。
「でも、あたしは【捕食】があるんで大丈夫っス!」
「俺も【捕食】欲しいけど、リストに出ないな。せっかく魔石食べてみたのに」
口の中に広がる塵の感覚……なんとも言えない。
「もっと食べてみたらいいっス! 続ければ身につくかもしれないっスよ」
「いや、遠慮するわ。毒ならちょっと試したけどな」
鹿肉に串を打っていたリンが、手を止める。
驚いた顔を俺に向ける。
「えっ!? だ、大丈夫なんですか!?」
「ああ、驚かせちゃったか。安全な状況で少量ずつ試したんだ。状態異常回復薬も用意していたから大丈夫だぞ」
リンは心配そうだ。
「そうですか……。でも、無理はしないでくださいね!」
「ああ、無理はしない」
リンの手前そう言っておく。
実際は、無理したけどね!
一階層で試したのだ。
自律分身を出して安全も確保している。
視覚阻害毒なので、死ぬおそれはない。
ゴブリンで実験して効果時間も確認した。
ちゃんと元に戻る。一時的に視覚を奪うだけだ。
しかし、目が見えなくなるというのはかなり恐怖がある。
効果時間は長くないので、少し待てば治る。
だが目の見えない時間は長く感じて、冷や汗が出た。
握りしめたリカバリーポーションを飲もうかと悩んだものだ。
「毒耐性を取ろうと思って試したんスよね? どうだったんスか?」
「耐性は身につかなかったな。スキルのリストにもない」
まあ、一回試しただけだしな。
毒を何度も試すのは勇気がいる。
だが、試しておかないと毒使いとして大成できない。
自分の毒でやられる間抜けにはなりたくない。
「もっと続けたら耐性が身につくかもしれないっス!」
「ああ、お約束だからな」
漫画や小説では毒や魔法を食らうと耐性スキルが手に入る。
そして危機を逃れて逆転するのだ。
俺は土壇場で運を頼ることはしない。
そうそう都合のいいことなんて起こらないからな。
自分の運なんて、たかがしれている。
だから事前に身につけておきたい!
「……」
リンがなにか言いたげに俺を見ている。
「いや、無理はやめておくよ」
一応、そう言っておく。
リンがため息をつく。
「……ゼンジさんはすぐに無理するから、心配ですー」
……バレてるかな?
 




