家に帰ってダンジョン攻略!
御庭が話をまとめる。
「さて、事件のまとめは以上だよ。他に何かあるかな?」
御庭は笑顔で話しているが、疲れが見えるな。
細かい話はいくらでもあるんだけど、そろそろきりあげるか。
でも最後に――
俺は懐から包み紙を取り出した。
それをナギさんが受け取る。
「これが報告しておいたカプセルだ」
「吸血鬼とみられる男が持っていたものだね?」
ここに来る前にダンジョンで調べておいた。
だが、【物品鑑定】でも【薬術】と【毒術】でも、詳しいことはわからなかった。
「そうだ。一応スキルで調べてみたが、はっきりとはわからなかった。興奮剤、らしいんだけど使った男の反応からするとただの薬じゃない。なにか魔法的な効果がありそうだ」
リンが心配そうに言う。
「これって、調べたりして大丈夫なんでしょうかー?」
「見た目には普通の品物だから、調べるだけなら問題ないだろう。クロウ君が報告してくれたように、体に変化が起きるのなら、危険かもしれないね」
トウコが顔をしかめる。
「パージされなくても、へんな体になるのが嫌っス!」
「誰かに飲ませて試したりしないから安心してほしい。成分を分析するだけだよ」
「ファンタジーな品物を科学的に調べるのか?」
「うん。ファンタジーな効果はわからないけどね。それに、未知の物質が検出されたりもしない。原料がわかる程度だと思ってほしい」
ファンタジーな品物を科学的に分析する……。
面白そうだな。
「へえ? たとえば俺の刀を調べたらどうなるんだ?」
宝箱から出た鉄鉱石と魔石、それにバットなどの現実の素材を混ぜた品だ。
これって謎の物質やエネルギーが含まれてたりしないのか?
「普通の刀と判定されるだろうね。仮に特殊な効果があるとしても、持つべき人が持たない場合は普通の品物になる」
俺の刀に特殊効果はない。
頑丈にしたり切れ味を鋭くしたりしたい。
【忍具作成】君にはまだ先があるはずだ!
中級や上級のスキルを取れば、できるはずだ。
やれるよな? 期待しているぜ心の友よ!
「興味のある話だけど……今度聞かせてもらうわ」
「ああ、気を使わせてしまったかな。そろそろ仕事に戻らないといけないね」
ナギさんが言う。
「……その前に少し休んでください」
「そうだね」
「んじゃ、俺たちは帰る。またな、御庭。ナギさん」
「ごちそうさまっス!」
トウコは打ち合わせ中ずっと食べていた菓子の礼を言う。
「失礼しまーす」
リンはトウコがそのままにしたイスをもとの位置に戻して、部屋から退出する。
帰り電車、流れていく街を眺める。
誰かの家、誰かの生活がそこにある。
みんなダンジョンのことなど知らずに暮らしているのだ。
電車に揺られている人々は、これから家に帰るんだろうか。
願わくば、彼らが何も知らずに普通に暮らせますように。
そのために俺たちはダンジョンを攻略しよう。
事件が起きたとき、対応できる力を養うんだ!
「ゼンジさん。どうしたんですかー?」
「たそがれてるっス!」
俺は気分を切り替えて笑顔を浮かべる。
「いや、なんでもない。帰りに駅前でケーキ買ってこうぜ!」
「いいですねー!」
「やたーっ! なににしよっかなー!」
食事を終えた俺たちはクローゼット・ダンジョンに入った。
装備を整えて、洞窟を進んでいる。
俺はいつもの忍者装束。
今日は深く潜るつもりなので装備は多めに持っていく。
「さあ、今日は俺のダンジョンを攻略するぞ!」
食事や風呂などの生活は、どうしたって草原になる。
でも俺のダンジョンだって攻略の楽しみは負けてないぜ!
「はいっ! 準備はばっちりです!」
リンは体の線の出るタイツ風のくノ一装束に身を包んでいる。
草原と違って食物は落ちないのでクーラーボックスはなし。
食べ物は【食品収納】に入れて持ち込んでいるらしい。
弁当が楽しみだな!
「店長のダンジョンは久しぶりっスねー」
トウコは丈の短い着物風だ。
帯のようにタクティカルベルトを巻いている。
弾薬は充分。前に攻略したものが残っている。
俺たちはゴブリンを蹴散らし、コウモリを撃ち落として一気に五階層に到着。
危なげなくボスコウモリを倒して魔石をゲット。
六階層からの迷宮ゾーンも難なく突破。
七階層からの罠ゾーンは、気を付けて進む。
もうマーキングしてあるから、ずいぶん楽に進めるぜ!
こうして八階層を抜けて、九階層へ!
 




