ポーションは現実世界で使えるか――聞いてみた!
「魔法の回復薬だね? ダンジョンの中で手に入ると聞いている。希少な品だね」
「ちなみに御庭は使ったことあるか?」
御庭は悲し気に首を振る。
「僕は使ったことはない。なにしろ、手に入らないからね」
「え、そうなのか?」
「普通のダンジョンでは戦利品が手に入ると聞いている。でも僕は入れないし……」
「ああ、異能者だもんな」
それで悲しそうにしてたのか。
普通のダンジョンはダンジョン保持者しか入れないからな。
御庭は忍者の職業も取れないし、ポーションも使えない。
……同情するわ。
「僕たちは悪性ダンジョンしか入れないし、そこで手に入るのは魔石だけなんだ」
「素材とかのドロップアイテムはないってことだな」
異能者にとっては使い道のない魔石しか手に入らないってことだ!
働いても報酬がないだと!? 許せん!
悪性ダンジョン、マジで悪だな!
「その魔石も消えちゃうんスよねー」
「悪性ダンジョンって、なんだか残念ですねー」
ポーションの話をしてたはずが、魔石の話に脱線してしまったな。
まてよ?
素材が落ちないのはさておき、悪性ダンジョンだと魔石しかドロップしない、か……。
ふーむ。
てことは――
「なあ、御庭。ボスを倒しても魔石しか手に入らないんだよな?」
「うん、そうだよ。クロウ君が気にしているのは収穫の件だね?」
さすが御庭。話が早い!
「ああ。ウラドと暴食はボスを倒そうとしていた。つまり、収穫するのは魔石だったんじゃないかと思ってな」
奴らの目的はボスの魔石だったんじゃないか?
「ドロップアイテムがないなら、それしかないっスね!」
「でも、魔石は消えちゃいますよね? 持ち出せませんよー」
魔石を持ち出す方法はあると、俺は見当をつけている。
普通には持ち出せないとしても、形を変えればどうだ?
俺たちの言葉に御庭は頷いている。
なにか知ってそうな顔だな。
「いくつか方法はある。クロウ君はもう思いついているようだね?」
「ああ。すでに俺は形を変えて持ち出しているからな。トウコもだ」
トウコが驚きの声をあげる。
「うぇっ!? あたしっスか? 持ってないっスよ!?」
「ちなみに、俺が持ち出したのはこれだ!」
俺は収納からペグを取り出す。
アウトドア用品店にあった品物だ。
リンがそれを見て言う。
「これは忍具作成で加工したものですよね……? あっ!?」
「お、リンは気づいたかな?」
さすが助手! さんざん検証したアレだよ!
「ぜんぜんわかんないっス!」
さすが無自覚系! ぜんぜんわかってないね!
「まず、クラフトスキルだ。【忍具作成】だよ。魔石と品物から忍具を作る。加工すれば持ち出せるってわけだ!」
リンがポンと手を叩く。
「形は変わっちゃいましたけど、魔石だったものを外に出してますよねー!」
「あたしは収納もクラフトスキルもないっスよ! どういうことなんスかー? 早く教えてほしいっス!」
トウコが俺にすがりついてゆさぶる。
「ゆするな! 【捕食】だよ! ショッピングセンターでも魔石を食っただろ?」
「あー! たしかに食べたっス! おなかに入ってるってことっスね!」
「ま、そうだ。腹に入ったというより、魔力になって吸収された感じだろうけどな」
御庭が頷く。
「うん。その方法なら持ち出したと言えるね。他にも方法はあるよ。収納系のスキルや異能もそうだ。ナギ君の異能でも持ち出せるはずだ」
「え? ナギさんって収納系の能力もあるのか?」
「異能って一人一能力なんじゃないんスか?」
俺とトウコは同じ発想だ。
漫画やゲームでは、異能は一人一種類。
「え? そうなんですかー?」
リンは漫画的なお約束には疎い。
俺はリンに説明する。
「漫画だと異能は一つの能力しかないのがお約束なんだ」
「そうなんですねー!」
御庭が言う。
「現実には、異能は一つという決まりはないよ。だけど、そういう傾向はある」
「へえ、そうなのか」
ナギさんが口を開く。
ずっといるのに、微動だにせず立ってるナギさんである。
「私の異能は停止させること。それだけです」
「うぇ!? じゃあ、どうやるんスか?」
ナギさんは淡々と言う。
「魔石を停止させます」
御庭が笑顔で解説する。
「ナギ君が停止させた品物は変化を止める。だから魔石の塵化も防げる。そのまま外に出れば持ち出せるんだ」
「おお、そんな使い方もできるのか!」
「すごいですねー!」
「いえ……」
ナギさんはすまし顔だ。
なぜか御庭が喜んでいる。
「そうだろう? ナギ君の能力はすごいよ!」
「でもでも! 魔石を止めたら動かせなくなっちゃうんじゃないっスか?」
「止め方にもいろいろあります」
「ナギ君の力は、時間を止めるだけじゃないからね。運動エネルギーや状態変化、温度……なんでも止められるんだ」
「つまり……塵化だけ止めたり、変化することを止めるんだな?」
「そう。動きはとめません」
「衝撃の伝わりを止めたりすれば、攻撃を防ぐこともできるんだよ!」
ナギさんがジト目で御庭を見る。
「御庭さん……しゃべりすぎです」
「ナギ君の能力はバレても対応しにくいからね! つい自慢したくなっちゃったよ!」
御庭がにこやかに笑う。
ナギさんの口元も少し緩くなる。
「……そのくらいにしてください」
トウコがそれを見てはやし立てる。
「おおー! ナギさんが笑ったっス! これは尊いっ!」
脱線してポーションについては話せなかったな。
とはいえ、これはこれで気になる話だ!




