被害者が少ないのに規模は大きい……その理由!
御庭が言うには、ホテルに集まっていたのは異能者やダンジョン保持者たちだという。
ホテルの宿泊客でもなく、つながりもない人々だ。
彼らに共通点があるとすれば、異能かダンジョンを持っていることだ。
そして事件の黒幕の、なんらかの能力によって集められたと推測できる。
おそらく、ダンジョンは彼らを糧にして成長したのだろう。
しかし、異能者たちを集めるってことは――
俺は浮かんだ疑問を御庭に訊ねる。
「なあ御庭。なんで異能者やダンジョン保持者が集められたんだ?」
「私もふしぎでしたー。わざわざ強い人を集めちゃったら、邪魔されちゃいますよね?」
御庭は俺たちの言葉を聞いて頷く。
そして机の菓子をつまんでいるトウコに向けて問いかける。
「トウコ君はどう思うかな?」
「うぇ? そりゃ、強いほうがおいしいからっス! 経験値っスよー!」
経験値か。ゲーム的な発想だな。
でもこれは的を射ているかもしれない。
ダンジョンのモンスターでも同じことが言えるからだ。
「なるほどな。ザコ敵よりボスを倒したほうが経験値が高いってことか」
「そうそう! ザコの魔石はまずいっス! ボスのはおいしいっス!」
「味の話かよ!?」
「経験値が少ないとマズイっス!」
リンがうんうんと頷く。
「お水で薄めた牛乳はおいしくないですよねー」
ええ? なにその独特なたとえ!
「なんでそんなもの飲んだんだよリン!?」
「お金がないとき、ちょっと試したんですけど……」
そういや、リンは苦学生だったな。
最近は公儀隠密のおかげでお金に困ることはない!
御庭が言う。
「トウコ君、正解だよ! 僕ら異能者やダンジョン保持者は一般人よりも栄養があるんだ。ダンジョンにとってはね!」
「俺たちダンジョン保持者にはレベルがある。倒した場合の経験値も高いってわけか……」
「そうだね、クロウ君。異能者にはレベルの概念はないけど、経験値のような蓄積があるんだろう」
リンは眉をひそめている。
「じゃあ、私たちもモンスターと変わらないってことですか……?」
俺たち人間も、倒されれば経験値が奪われる?
つまりモンスターと同じ扱いなのか?
これは受け入れがたい話だ。
だが、そうなるはずだ。
なにしろ俺は身を持って知っている!
「ああ、人間も同じルールなんだろうな。ほら、死ぬとデスペナルティで経験値が減るだろ?」
「あ、たしかにそうですねー」
冷蔵庫で死ぬと、デスペナルティでレベルが下がる。
経験値が奪われているんだ。
その経験値がどうなるのかは考えなかったが……ダンジョンに吸収されているんじゃないか?
では、レベルが下がりすぎると、どうなるのか?
人間ではなくなる。変異する。
トウコは死にすぎた結果、ゾンビ化した。
そう考えると、経験値が俺たちを人間たらしめているのかもしれない。
逆に経験値が増えたことで、トウコは人間に戻った。
俺の経験値を食ったからだ。
ダンジョン保持者を倒せば、経験値の移動がある。
これは実証済なのだ。
御庭が言う。
その内容をナギさんがスクリーンに書き出していく。
「まとめるよ。ホテルの事件では異能者が集められた。手段は異能かスキルによるものと仮定する。事件の首謀者は栄養豊富な異能者たちを犠牲にしてダンジョンを広げた。一般客の被害はほかの事件より少ないけど、質でカバーしたんだろうね」
「首謀者が異能者を集めたとして……そいつはどこへ行ったんだ?」
「僕が送り込んだチームは、それらしい人物を発見していない。戦うことなく、首謀者は逃げおおせたことになるね」
一般人にまぎれて逃げたんだろうか。
あるいはダンジョンが広がったあとに姿をくらましたか……。
監視カメラに映らずに移動する方法はある。
暴食はダンジョンの転送門を使って移動していたようだしな。
俺は腕を組んで言う。
「うーむ。暴力を使わない敵ってことか。厄介だな……」
「狡猾な敵だね。ともかく、ダンジョンのボスを倒すことで、この事件は解決した。パージも起らなかったし、生存者も多かった」
「ボスを倒したのは公儀隠密のメンバーなんだよな?」
「そうだよ。かなり強力なモンスターだったそうだ」
「ショッピングセンターの事件と同じだとしたら……収穫はどうなったんだ?」
ウラドはかなりこだわっていた。
それが目的だと思うが……。
ボスを倒したのが公儀隠密なら、収穫はできないんじゃないか?
御庭が言う。
「それらしい出来事はなかった。ボスを倒しても特別な出来事はなかったと聞いている」
ふむ。
公儀隠密の戦闘部隊なら、ボスを倒したことはあるんだろう。
そのうえで、特別な感想を持たなかった……?
「なにか特殊なアイテムがドロップしなかったか? ダンジョンのタネとかさ」
「うーん。いつもどおりと報告を受けている。あとでもっと詳しく聞いてみるよ」
「参考までに、いつも通りってどんな感じなんだ?」
「ボスを倒せば魔石がドロップする。大鬼でもそうだったね。その魔石はダンジョンの外に持ち出せない。これもいつも通りだ。ボスの魔石はダンジョンの消滅と共に消えてしまったはずだ」
俺は首をひねる。
「魔石か……普通だな。特殊な品はナシか……」
「でも、ボスの魔石が消えちゃうのはもったいないっスね!」
「もったいないよねー」
これは昨日、俺たちが手にいれた魔石も同じ。
ダンジョン領域が消えたときに塵になってしまった。
持って帰れないのはちょっと悲しい。
自分のダンジョンと違って、魔石をためられないんだよな。
「消える前にクラフトの素材にしとけばよかったな」
「ゼンジさんの忍具は外でもなくなりませんでしたねー」
「ああ、忍者刀もペグもダンジョンの外で使えるんだな。意外だった」
ダンジョン領域が消えたとき、俺は忍具を収納していなかった。
それでも塵になって消えたりせず、手元に残った。
御庭が補足する。
「認識阻害の対象になるのは、目に見えて異質なものだからね。刀なら見た目は普通の品物だ。問題ないはずさ」
「へえ。それ、早く知りたかったな。まあ、銃刀法違反だけどな!」
外で刀振り回すわけにはいかないのだ。
「と言うことは、見た目がおかしい武器は消えちゃうんでしょうかー?」
「誰にも見られなければ、短い時間使う分には平気だよ。そういう武器を使う異能者もいるね」
へえ、それ興味あるな。
犬塚さんのナイフもそうなのかな?
今度、本人に会ったら聞いてみよう。
トウコが手の中に銃を出して、くるくると回す。
「あたしの銃も外で使えるっス!」
「トウコ君の銃は認識阻害されにくいだろうね。だけど本物の銃に見えてしまうことに気を付けてほしい」
ここは御庭の拠点だし、霊場だ。
見られて困る相手はいない。
トウコはきょとんとしている。
「うぇ? ホンモノに見えるなら大丈夫なんスよね?」
無自覚系主人公みたいなアホである!
普通にダメだろ、銃に見えたら!
銃刀法違反なんだよ!
「俺の刀と同じだろ! 通報されるかもしれないってことだよ!」
「気を付けてね、トウコちゃん!」
「あー、そっちっスね! リョーカイっス!」
トウコは心得たというように、胸を叩いて頷いた。
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