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社畜辞めました! 忍者始めました! 努力が報われるダンジョンを攻略して充実スローライフを目指します!~ダンジョンのある新しい生活!~  作者: 3104
四章 副業は公儀隠密で!

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時間稼ぎは長話で!?

 俺たちは逃げた暴食を追う。

 トウコは元の位置で亀をハメ続けている。


 通路の角で犬塚さんが立ち止まる。


「これから先はアタシの個人的な仇討ちだ。手出し無用だよォ」

「ああ……。だけど、危なくなったら出ていくからな」


「ホントにおせっかいなやつだね、あんたは」


 犬塚さんは小さく笑うと、角を曲がる。

 この先は駐車場へ向かう連絡通路だ。



「来たか!」

「待たせたかねェ」


 犬塚さんと暴食がにらみ合う。

 暴食の前には、ずらりと獣が並んでいる。


 通路の幅いっぱいだ。

 獣はうなり声をあげているが、距離を保っている。


 俺とリンは通路の角に隠れている。

 なにかあれば加勢するが、ここは犬塚さんの意思を尊重(そんちょう)して待機だ。



 暴食が言う。


「この通路なら、うろちょろと逃げ回ることはできないぞ!」

「はッ! 逃げてんのはあんた。追いかけてんのがアタシだろうよォ!」


 犬塚さんがナイフを投げる。

 暴食を守るように獣が動き、ナイフは防がれる。


 暴食は不思議そうな顔で犬塚さんを見る。


「……貴様はなんなんだ? なにが目的だ?」

「アタシが誰かなんてどうでもいい。あんたを殺す。理由が知りたいのかい?」


「理由だと? 貴様などと会ったことはない」

「会ったのはアタシの姉さァ」


「姉、だと?」

「覚えてないってかァ? 動物病院だよ。思い出せ! かわいそうな動物を食ったあと、アタシの姉に何をしたのかをさァ!」


「動物病院の女……? ああ、あいつか」

「思い出したか? あのとき出会ったのがアタシだったら良かったんだけどねェ!」


 犬塚さんの顔が怒りに染まる。


「邪魔をしなきゃよかったのになぁ。騒がなきゃ死ぬことはなかったんだ」

「騒ぐだとォ! ふざけんな! 自分の家で動物たちを殺されたら、誰だって騒ぐだろうよォ!」


 暴食は醜悪(しゅうあく)()みを浮かべる。


「思い出したよ。何をしたのか、だったな? あんまり騒ぐから、舌を噛み千切ってやったんだ。上から下から食ってやった。くくっ! たいして美味くはなかったなァ!」


「……下衆(げす)がァ! それがあんたが死ぬ理由だよォ!」


 犬塚さんが地を蹴って走る。

 速い。


 それに対して暴食は指揮(しき)するように腕を振り下ろす。


「お前が死ぬ理由はこれだ! かけらも残さず食いつくしてくれるっ!」


 獣が一斉(いっせい)に動く。

 狭い通路を埋め尽くす勢いで犬塚さんへ迫る。


「ちっ! こう数が多いと厄介だねェ!」


 犬塚さんは獣の攻撃から身をかわしながらナイフを振る。

 だが、狭い場所で多数の敵に跳びかかられて、小さな被弾が増えていく。



 手出し無用とは言われているが、やはり傍観(ぼうかん)はできない!

 俺は通路から出て、手斧を振りかぶりながら言う。


「いまだっ! 撃て!」


 俺は手斧を投げ放つ。

 リンがそれに続く。


「ファイアランスッ!」


 手斧と火球が犬塚さんの左右の獣を打ち倒す。

 これで、犬塚さんが動くスペースができた!


 犬塚さんは獣を斬り伏せ、蹴り飛ばし、暴食へと近づいていく。

 相手の動きを読み、攻撃にかすりもしない。

 的確に一撃で獣を塵に変えていく。



 暴食が勝ち誇った顔で言う。


「くだらんおしゃべりで時間稼ぎしていると思っていたが、無策(むさく)にただ突っ込んでくるだけか!」

「突っ込まなきゃ、あんたを殺せないからねェ!」


 犬塚さんが獣を蹴散らして前へと進む。


 あとわずかだ! 暴食に手が届く!

 近づいてしまえば、犬塚さんの距離だ!


 だが、暴食は余裕を崩さない。

 手をつきだして、言い放つ。


「こっちはもう、準備は整った! ――のみ込め! 大蛇よ!」


 暴食の足元から巨大ななにかがせり上がってくる。

 それは巨大な蛇。

 黒く禍々(まがまが)しい大蛇(だいじゃ)だ。


 会話しながら、暴食はこれを準備していたんだ。

 ボス級の個体を呼び出そうとしている。


「今度はヘビかい? なにを出そうが、ムダだねェ!」


 犬塚さんが背後へ跳ぶ。

 まるで、その攻撃を事前にわかっていたみたいに。


 暴食の姿が見えなくなる。

 大蛇は通路を埋めつくすほどに大きいのだ。


 そいつが口を開けると、天井まで届く勢いだ。

 鋭い牙からは毒液が(したた)っている。


 逃げ場はない!

 暴食へと攻撃する手段もない!



 大蛇がうねうねと身をよじらせて前進する。

 大口を開けて通路ごと丸のみにしていく。

 次々と、獣たちが大蛇の口の中へと消えて行く。


 だが、犬塚さんは背後に一歩跳んだきり、動かない。

 避けようとしていない。



 犬塚さんが小声でつぶやくのがかろうじて聞こえた。


「さて、このへんかねェ……?」


 ……諦めてしまったのか!?



 俺の【危険察知】と【回避】は逃げ場が()()()()()()()と示している。

 前方は完全な死地だ。避ける余地はない。


 犬塚さんは俺よりもだいぶ前に突出している。

 周囲全体が致命的な攻撃の範囲内だ。


 俺は声を張り上げる。


退()がれ! 死ぬぞ!」


 俺は背後へ跳ぶ。

 背後でリンが移動するのを耳で確認する。


 犬塚さんが言う。

 その声にあきらめの色はない。確信に満ちた力のある声だ。


「これでいいのさァ……頃合(ころあ)いだ!」

「あの世で姉と仲良くおしゃべりでもしてくるんだな!」


 大蛇が犬塚さんに到達する。

 巨大な口が閉じられ、犬塚さんがのみ込まれるかに見えた。


 だが――


 暴食が驚愕する。


「な、なにぃっ! 大蛇が消えた、だと――」

「アタシがどうして、あんたと不愉快な話しをしてたと思うんだい? ただ待っていただけだ。このときをね――」


 耳鳴(みみな)りに似た感覚。

 気圧が変わったようなこの感じ――


 ――ダンジョン領域が消えた、のか?


 そのおかげで、大蛇も消えた。

 ダンジョンの外にモンスターは存在できないからだ。


 だがこれは偶然ではない。

 会話で時間を稼いでいたのは犬塚さんの計算だ。


 タイミングを見計らって自ら攻撃を仕かけて、相手の大技を誘った。

 無駄撃ちさせたんだ。


 こんなこと、ダンジョン領域が消えるタイミングがわかっていなければできない。

 まさか、匂いか?


 匂いで、ダンジョン領域が消えるタイミングがわかっていたのか!?

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