鉄壁の防御! 粘液! 尻尾! 攻略法は地味……!?
物陰から顔を出すと、亀は水流攻撃を放ってくる。
火球よりは速いが、弾丸よりは遅い。
この速度ならコースがわかっていれば避けられる!
何度か見て、攻撃パターンもわかった。
姿を見せると、撃ってくる。
直接的に、姿を見せた位置を狙ってくるのだ。
連射は最大二発。
撃った後は数秒のタメがある。
ならば――
「分身の術! 分身の術!」
二体の分身を走らせる。
亀はそれを目で追い、水流を放つ。
分身が撃ち抜かれた。
「今だ!」
俺はそのスキに前進して、別の遮蔽物に隠れる。
「うららっ!」
トウコが顔を出して射撃する。
亀の頭部に着弾。だが、頑丈な頭部は弾丸を通さない。
ヒットポイントではなく、単純に頑丈なのだ。
これは厄介だな!
亀は首を引っ込める。
いや、もう攻撃は終わったけどな。
俺はさらに前進。もう刀の届く距離だ!
亀が首を伸ばしてこちらを見る。
「ファストスラッシュ! ――つぅ!」
硬てぇ! 手がしびれる!
亀の首へと振り下ろした俺の刀は、硬質の皮膚に弾かれてしまった。
それでもわずかに傷をつけた。
しかしこの程度のダメージでは、首を切り落とすのは難しそうだ。
俺は前腕の一撃をかわして、横へ逃れる。
その腕へトウコの銃弾が着弾。
銃撃なら多少のダメージはあるようだ。
犬塚さんは亀の指を何本か切り落としてたけど……ナイフでやったんだよな。
すげえわ……!
攻撃を受けた亀は手を引っ込める。
甲羅に入って防御態勢だ。
俺は横をすり抜け、背後へまわろうと――
「うおっと!」
尻尾だ!
俺は大きく跳んで空中へ逃れる。
太く長い尻尾が俺の足元を通り過ぎる。
着地して、さらに背後へ跳ぶ。
戻ってきた尻尾が目の前を横切る。
これは背後に回るのも難しいぞ!
なら、上へ!
俺は亀の甲羅に足をかけ――
す、すべる!
甲羅はべっとりとした粘液に覆われている。
さっき火魔法で攻撃したときに出た透明なやつだ!
つるつる滑る!
この粘液には背中に登らせない効果もあるんだ!
炎から身を守るだけじゃあない!
「店長! 危ないっス!」
バランスを崩しかけたところへ、尻尾の一撃。
「うおおっ! せ、セーフッ!」
からくも回避!
俺は棚の陰に隠れて、靴の裏についた粘液を拭う。
それにしても……亀って、そういう能力あったっけ?
ズルくないか、これ!
いや、モンスターだしな。亀に似ているだけで亀じゃない!
「うららあっ!」
銃声が連続する。
命中。
あたりまえだが、銃弾は避けられない。
弾丸が命中したあと、遅れて首を引っ込めている。
亀の動きはぜんぜん間に合ってない。
だけど、弾丸も効いてはいないようだな。
……なら首を引っ込めなくてもよさそうなものだけどね。
攻撃されると防御を優先するらしい。
ちょっと間抜けだ。
ふむ……?
亀が首を伸ばす。
これまでのパターンなら俺を狙って水流攻撃を放つはずだが……。
「……ちょっと試してみるか」
俺はペグを投擲する。
亀の頭部に命中。だが突き通るほどの威力はない。
ペグはからんと音を立て、むなしく床に落ちる。
だが――亀は攻撃を中断して首を引っ込める。
やはり、防御を優先する!
俺の投擲の威力は銃弾以下だ。
当然、ダメージは通らない。
また亀が首を出そうとする。
「ていっ」
ペグを投擲する。命中。
さっきより弱めに投げたが、やはり亀は首を引っ込める。
「おお……これ、楽勝じゃね?」
「おっ!? 弱点でもわかったんスか、店長!?」
「トウコ! 普通の拳銃でいいから、首を伸ばそうとしたら適当に撃て!」
「はぁ? テキトウってなんスか? どこ狙えばいいんスか?」
俺はペグをテキトウに投げる。
こつん、と亀の甲羅に当たる。
亀は首を引っ込めて縮こまる。
「だから、当たれば何でもいいんだ! 撃てば首を引っ込めるからな!」
「あー! リョーカイっス!」
もっと早く気づけばよかったけどな!
トウコが銃撃する。亀は首を引っ込める。
射撃。防御。射撃。防御。
亀はしょせん、亀。モンスターっぽくても亀である!
ちょっとつつけば、防御態勢を取るのだ。
「うまくいったようだな! その調子で頼む」
「ははっ! こいつ、アホっスねー!」
モンスターだし、暴食がスキルで呼び出した黒い影でしかない。
死体を操っているのか、食った生物を召喚しているのかはわからない。
ともかくコイツに知性なんてない。
モンスターの抜け殻みたいなものなんだろう。
なんなら亀以下の知性だ。考えて行動していない。
コイツの行動は自動的で単純だ。
これで無力化できた!
頑丈なのは厄介だが、倒す必要はない。
トウコの弾が尽きる前に、暴食のほうを片付けてしまえばいいのだ!
俺は亀を無視して、犬塚さんを囲む獣を始末していく。
俺とリンが加勢したことで、獣はどんどん数を減らしていく。
もう残り少ない!
「ありがたいねェ! ――さて、覚悟しなァ!」
「うろちょろと……しつこい連中め!」
暴食は身をひるがえして、狭い通路へと走っていく。
「って、逃げるのかよ!?」
「おい、待ちなァ!」
立ちふさがる獣を斬りはらって、犬塚さんが追う。
逃がすか!




