再びのショッピングセンター!?
自動ドアをくぐり、建物の一階へ。
もう電力が通っている。つまり、ダンジョン領域ではない。
避難を促すアナウンスが鳴り響いている。
「あれ? まだ誰もいないんスね」
「さっきまでダンジョン領域にのまれてたからだろうな」
中に人はいない。
事前に避難して、その後ダンジョン領域になっていたからな。
認識阻害があるので、ダンジョン領域に一般人は入ろうとしない。
用事があるとか強い意志があれば入ってしまうが、外で避難を促しているので無理に入る人はいないはずだ。
店員や警備員すらいないのは、このためだ。
「もう少ししたら、人が入ってくるんでしょうか?」
「たぶんな」
話しながらエスカレータを駆け登る。
二階も正常だ。
犬塚さんは先に行き、もう姿は見えない。
一刻も早く仇を見つけたいのだろう。
三階へ向かうエスカレータには電力が来ていない。
「電気がついていない。三階はまだダンジョン領域内みたいだ。警戒しろ」
「リョーカイっス!」
「はい。……結構時間が経つのに、まだダンジョン領域が残っているんですねー」
「うむ……俺が脱出してから三十分くらい経ったかな?」
「ダンジョンが消えるのって、時間がかかるんですねー」
「さっさと消えてほしいっス!」
前の大鬼ダンジョンのときは、ダンジョンが消えるのにそれほど時間はかからなかったけど……。
でも、あそこはマンションの一室だ。
こちらは広いフロアが三階分ある。
規模が違う。
「たぶんだが……大きなダンジョンだと時間がかかるのかもな?」
「あ、きっとそうです! 広がった分だけ、戻るのが遅いのかもしれませんねー」
「そういえば店長。悪性ダンジョンって世界からポイされちゃうんじゃないんスか?」
「今回はその前に解決できたってことだろ。だからパージは起こらなかった」
ダンジョン領域が広がって、対処できないと世界はその領域を切り捨てる。
だが今回は、世界による切り離しは起こらなかった。
もしパージが起こったら、このショッピングセンターは丸ごと消え去ってしまったはずだ。
「ボスを、吸血鬼さんたちが倒したってことですよねー?」
偵察した内容は二人にも説明してある。
「ああ、ウラドと暴食がボスを倒したんだろう」
「そいつらって、まだこのへんにいるんスかね? 戦う感じっスか?」
トウコはきょろきょろと周囲を見回す。
「あいつらはたぶん、俺たちより強いぞ。なるべく戦いたくないな」
「そうなんですねー。無理しないようにしましょう」
「でもそれって、犬塚さんしだいっスよね?」
「そうだな。ずっと探してきたカタキだ。見つけてほしいとも思うけど、出くわさないことを祈ってもいるよ」
犬塚さんにとっては倒すべき仇だ。
これまで必死に探してきた相手。
見つければ戦いを挑むだろう。
犬塚さんが勝てる相手なのか、俺にはわからないが……。
復讐は止められない。
家族を殺されているんだ。
やめろなんて、部外者の俺は言えない。
「お、いたぞ」
ダンジョンの転送門がある洋服店に犬塚さんがいた。
あたりを嗅ぎまわっている。
「犬塚さん!」
「ああ、来たんだねェ。でもこれは、アタシの問題だ。無理についてくることは――」
犬塚さんは首を振っている。
だが、俺は帰るつもりはない。
「いや、放ってはおけない。奴らは危険だ。見逃せば、またこういう事件を起こす!」
「そうかい。じゃあ、気をつけな。そこら中からどぶ臭い匂いがするよォ!」
ダンジョンを出たなら、ウラドと暴食は転送門の周辺を通ったはずだ。
まだ匂いは残っていたんだな。
「仇の匂いがあるんですね? もう一人の匂いはどうですか?」
「もう一匹は吸血鬼だねェ。ま、今そっちはどうでもいいさ」
犬塚さんははっきりと断言する。
「うえぇ? 匂いだけで吸血鬼ってわかるんスか?」
「ああ。血の匂い。鼻持ちならない高慢ちきな匂い。それに日焼け止めクリームだよォ」
「その匂いはウラドと呼ばれていた男の匂いだと思う。日に当たらない服を着ていた。やっぱりあいつは吸血鬼だったか……」
「吸血鬼とか、会ってみたいっス!」
トウコは目を輝かせている。
「ええっ!? トウコちゃん、会いたいの? こわい人なんじゃないかなー?」
「吸血鬼は耽美! 甘美! エロス! しびれてあこがれるっス!」
「それは創作の話だぞ! 実際は人を食うバケモノだからな!」
犬塚さんは俺たちのたわいない会話を無視して言う。
「で、そいつらを見たのはどこだい? このあたりかい?」
「俺が奴らを見たのはダンジョンの中でした。そこの試着室に転送門があって――」
犬塚さんは試着室を確認する。
「もうダンジョンの入口は閉じているみたいだねェ」
俺は試着室を覗き込む。
もぬけのから。転送門は消えて、ただの試着室だ。
「てことは、もうダンジョンには入れないな」
中はもう調べられない。
ボスは倒されているってことだ。
「じゃあ、そろそろダンジョン領域も消えるでしょうかー?」
「そのはずっスね!」
「あんたたちはここに来るまで、敵に出くわさなかったみたいだねェ?」
「ああ。俺たちはここまで、吸血鬼にも暴食にも出くわさなかった。それに、普通のモンスターもいなかったな」
敵に出くわさず、三階まで一気にこれた。
三階にはモンスターがいるものと思っていたんだが……。
犬塚さんが言う。
「二階にあいつの匂いはなかった。このあたりからは新しい匂いがする! だから、まだこの辺にいるはずなんだッ!」
「二階に匂いがない……?」
三階に来るには二階を通るはずだ。
別のルート……たとえば駐車場から連絡通路で来た、とか?
リンが言う。
「ダンジョン領域が残っているなら、モンスターもいるんでしょうかー?」
「いてもいいはずっスよね? 消えるわけじゃないっスよね?」
この状況だと、敵はどうなるんだ?
ボスを倒したからって、すでに湧いていた敵は消えないはず。
いま、転送門は閉じている。
まだ領域は残っている。
「そうだな……。それに、もうモンスターは湧かないのか?」
犬塚さんが言う。
「いや、領域があるならモンスターは湧くはずさァ! でも、三階に敵はいなかった」
「うぇ? いるはずなのにいないんスか?」
「つまり……誰かが倒してるってことか!?」
「そうなるねェ!」
そのとき、遠くで戦闘音が聞こえた。
「犬の声が聞こえたっス!」
獣の叫び声。悲鳴。
そしてその声はすぐに途切れる。
「――この感じ……暴食だ!」
まだ奴は、このショッピングセンターにいる!
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