動物を食べる変異者……それを探す異能者!
運転席からウスイさんが言う。
「もう車を出していいでしょうか?」
「いや、俺はまだやることがあるから残る。先に出してくれ」
そう答えて、俺は車を降りる。
リンはにこにこ笑っている。
ラブラブ彼女発言のおかげで機嫌が直ったようだな!
「あれ、ゼンジさん? ここに、まだなにかあるんですか?」
「ああ、ちょっとな」
「じゃあ、私も一緒にいきますー!」
そういうと、飛びつくように腕を組んでくる。
あ、急に積極的!
トウコも車を降りる。
「なら当然あたしも残るっス!」
車からサタケさんが言う。
「じゃあ、またな。クロウさん。ハルコさんを送ったら俺たちは病院へ行く……げほっ」
「……ああ、お大事に。サタケさん」
収納からポーションを取り出そうとすると、いやな感じを覚える。
ダンジョン領域のときより激しい警告の感覚。
……やはりこれは、外では使えない。
俺たち三人を残して車は走り去る。
「で、やることってなんスか? ショッピングでもするんスか?」
「なわけあるか! 連絡しておいたから、そろそろ来るはずだ」
「来る? だれか来るんですかー?」
「お、来たぞ。――犬塚さんだよ!」
外へ出てすぐ電話しておいたのだ。
「え? なんで犬塚さんっスか? ナンパっスか?」
「ちげーわ! ダンジョンの中に入って、情報収集したって言っただろ? そこにいた奴が犬塚さんの仇かと思ってな」
犬塚さんの仇は、動物を殺して食べる変異者だ。
隠密使いだとも言っていたが……それは確認できていない。
あの暴食はいつでも腹を空かせている様子だった。
そうなると、外でも動物を食っている可能性が高い。
それに、吸血鬼のウラドのほうも。
ウラドは動物の血を吸いそうなキャラではなかったが、匂いが残っているうちに覚えておいてもらいたい。
いずれ居場所を知るべき時が来るはずた。
奴らはまた、こうした事件を起こすだろう。
「そのカタキがまだ中にいるんスか?」
「かもな。もし居なくても、犬塚さんなら判別できるはずだ」
ショッピングセンターに戻るのは危険かもしれないが、時間も経っている。
ウラドたちはもういないはずだ。
「匂いをかぐんですねー?」
「リン正解。ダンジョン領域内にどれくらい匂いが残るかはわからないけどな」
「どうなんでしょうね? 血や汚れは消えちゃいますよねー」
「犬塚さんは異能の匂いとかも嗅げるらしい。俺にも仇の匂いがついているかもしれない」
リンが俺に顔を寄せる。
「そういえば、ゼンジさんの匂い……なにかヘンです」
「あ、匂いを隠すスキルを取ったんだ」
よく気づいたね!?
スキルレベル二なので、外では効果を発揮しないはずだが……。
外でも少しは変化があるのか?
トウコも驚いたように言う。
「うえぇ? なんでまた、そんな微妙なスキルを取ったんスか!?」
「獣から隠れるには必要だったんだよ! 微妙とか言うな!」
俺もちょっと微妙だと思ってるんだ。
でも、必要だった。取るしかなかった。
取りたいスキルはほかにもたくさんある。
上級忍術も気になるし、中級忍術だってまだ少ししか取れていない。
もっとレベル上げなきゃな!
リンは頬を膨らませて言う。
「匂いを隠すなんて……だめです!」
「ダメって言われても……」
リンの反対理由は違う気がする。
そんな話をしていると、犬塚さんがやってきた。
早い。連絡してから三十分も経ってないぞ。
犬塚さんはバイクを歩道に無理やり止めると、走り寄ってくる。
「どうも。犬塚さん」
「ああ! よく連絡してくれたねェ! それで、どこだ!? どこにいるっ!?」
犬塚さんは俺につかみかからんばかりの勢いだ。
必死に探している仇の手がかりかもしれないんだ。無理もない。
「まずは俺の体についている匂いを嗅いでみてください。複数の異能者と接触しています。二名は味方で、ヤバそうな敵が二名」
犬塚さんが俺に近づく。
「ちょっと嗅がせてもらうよォ」
「どうですか?」
犬塚さんは目を見開く。
「――これは! この匂いはッ!」
犬塚さんは俺の服をつかんで凶悪な笑みを浮かべる。
ちょっと怖いぞ。
「――見つけた! ついにどぶ臭いこの匂いにたどり着いたねェ!」
「あたり、ですか?」
「ああ! アタリだ! どこでコイツに会ったんだい!?」
そう聞くってことは、周囲にこの匂いは感じていないということだ。
俺は建物を指さす。
「このショッピングセンターの三階で――」
「――よし! あとはアタシがやる! あんたたちは帰りな!」
最後まで聞くのももどかしいのか、犬塚さんは走っていく。
トウコがその背を見ながら言う。
「うわー、すごい勢いっスね!」
「どうするんですか、ゼンジさん?」
帰れと言われても、それはムリだ。
暴食は強い。
ひとりでは、むざむざやられに行くようなもの。
「俺たちも追うぞ! もしヤツに出くわしたら戦闘になるかもしれないからな!」
「はいっ!」
「りょ!」
俺たちは犬塚さんを追って再びショッピングセンターへと走る。
 




