脱出と事後処理!? 偽名のヒットポイントはもうゼロよ!
俺は転送門へ飛び込み、三階の洋服店へ。
さらに走って二階へ降りるエスカレーターへ向かう。
飛ぶように駆けおりて、一気に一階へ。
「む、一階も領域になってるのか!」
たどり着いた一階にもモンスターが湧いている。
モンスターはダンジョン内や三階に比べると小型の群れた獣だ。
「でも、こいつらは相手にしない!」
分身と隠密で獣たちを置き去りにして走り抜ける。
戦う意味はない。
そろそろウラドたちがボスを倒すだろう。
ボスも強そうだったが、彼らが負けるとは思えない。
そうなればダンジョンは消えて、領域もなくなる。
モンスターも勝手に消えるはずだ。
道中、人がいないかを確認していく。
「やっぱり誰もいないな……」
これは、もう避難がすんだのだと思いたい!
出口が見えてきた。
正面玄関のガラスの自動ドアは、開きっぱなしになっている。
外は明るいが、様子は見えない。
おそらく領域はこの建物内までだ。外は普通の空間のはず。
ならば、このままの格好で出ていくのはマズいな。
ちょっと身支度だ。
収納に忍者刀。腰に手斧と手銛。
上着を脱いで腰に巻く。
これで一応、凶器は隠せたはず。
返り血などの汚れは塵になって消えている。
人目はひきたくないからな。
俺は 逸る気持ちを抑えて、ゆっくりと歩く。
ドアを通り抜けると――
空気が変わった!
やはり、ここが世界とダンジョンの境界線だ。
耳に車の騒音や人々のざわめきが飛び込んでくる。
ごく普通の街の光景に、俺は安堵を覚える。
無事に生きて出られた。
そして、外に問題はなさそうだ!
「……よし、外の人たちは異常に気付いてないぞ!」
認識阻害の力はすごい。強すぎる。
今は、騒ぎになっていないことが頼もしいのだが。
ケガ人がいたのか、救急車が止まっている。
おそらくは体調不良とか、転んだとか、そういうことになってるんだろうな。
でも……ダンジョン領域内で亡くなった人は行方不明か、そもそも存在しなかったことになってしまう。
……ひどい話だ。
イヤホンから御庭の声が聞こえる。
腕を見れば、スマートウォッチも電源が入っている。。
「――クロウ君! 無事だったね!」
「ああ。もう中に一般人はいない。それから、吸血鬼のような奴らがいて――」
簡単に報告をすませる。
細かい話はあとで、直接会って話すことになった。
リンたちは無事で、車にいるらしい。
よかった。
さて、合流しよう。
「あともう一件、連絡しておこう」
俺は電話をかけながら、車へ移動する。
リンが俺を見つけて手を振っている。
ほっとした表情だ。
「あっ! ゼンジさん! よかったー! 無事ですね!」
「おう! そっちも無事か!」
リンのすぐそばに車が止まっている。
中からトウコが顔を出す。
「こっちも無事っスよー。サタケさんは倒れそうっスけど!」
車の中にはサタケさんとエドガワ君、ハルコさんがいる。
サタケさんは顔色が悪いな。シートに背を預けて休んでいる。
「げほっ……ちょっと無理をしすぎたようだ」
「はやく病院に行きましょう! ボクも家に帰りたいです……」
俺は車に乗り込んだ。
「ふう。ただいま。三階に生存者はいなかったよ」
「そうですかー。なかなかゼンジさんが戻ってこなくて……その、心配で……」
リンは心配そうに眉をひそめている。
あ、偽名が……!
まあ、もういいか。
「うん。待たせてすまん。ちょっといろいろあってな」
「いろいろ? ……なにかあったんですか?」
リンの表情が曇る。
「今回の事件の首謀者らしきやつを見かけて、ちょっと情報収集してきた」
「えっ!?」
おっと! さらに心配させている!
安全アピールしておこう!
「――あ、バレてないから大丈夫! 危険はなかった! ぜんぜん!」
「そ、そうですか……?」
実際は危険だったけど!
バレなければ危険じゃないってことで!
「おー、さすが忍者っス! で、なにかわかったんスか?」
「それはあとでゆっくり話すが……」
ハルコさんもいるし、今は話せない。
危険な情報は知らせないほうがいいだろう。
ハルコさんは気まずそうに言う。
「あ、私がいると話せませんよね? なんだか、流れでついてきちゃいましたけど……」
「いや、いてくれてよかった。ハルコさんと話したいと思っていたんだ。異能やダンジョンについてとかね。ハルコさんは詳しくないみたいだし。それに、これからのことも」
「これから、ですかぁ?」
せっかく出会えた貴重な異能者である。
ハルコさんには公儀隠密に入ってもらいたいのだ!
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