アクロバティック闘牛士! アウトドア忍者!?
獣は足を止めて、こちらをにらんでいる。
「グルルァ……!」
首のあたりを貫いた刀のダメージは大きい。
骨や神経を逸れたとしても、かなりのダメージのはず。
口から血をしたたらせている。
いやこれ、普通死ぬだろ……!
よく見れば、それ以外の傷はほとんど治っているようだ。
体毛に隠れているが、再生して盛り上がったピンク色の皮膚が見える。
「回復してるのかよ……面倒な!」
それに武器が奪われたのも痛い。
刀は獣の首元に深々と突き刺さったままだ。
予備の武器は持ち込んでいない。
この相手にウォレットチェーン分銅じゃあ力不足だ。
素手で戦うのは不利。
となれば――
「ガウォッ!」
「おっと!」
獣が跳びかかってくるが、俺は背後へ飛んで避ける。
相手の動きは鈍くなっている。
突き刺さった刀が動きに干渉して邪魔なのだ。
これくらいなら、俺のほうが速い。
俺は背後に飛んだ勢いを殺さず、さらに後転。
連続バク転で距離を稼ぐ。
獣は苛立たし気に追ってくる。
俺はそのまま、くるりと背を向けて走り出す。
「んじゃ、追いかけっこだ!」
「ウゥゥ!」
走る俺に追いつこうと獣は走る。
だが、刀が邪魔で追いつけない。
呼吸も苦しそうだ。
犬のような動物は持久力が高い。
普通なら、走って逃げても追いつかれるし、体力で負ける。
もちろん、無策に逃げているわけじゃない。
目的地はすぐ近く。さっき通り過ぎた店舗だ。
俺は店舗へ飛び込む。
アウトドア用品店である!
ここになら、武器になるものがある!
ナタとか! シャベルとか!
しかし、ゆっくり選んでいる暇はない。
追いかけてきた獣が棚へぶつかる。
棚や商品を跳ね飛ばし、なぎ倒しながら猛追してくる。
急げ。使えるものを探せ!
――あった! オノだ!
手斧を手に取って、試しに振ってみる。
おしゃれなデザイン。カーブが手になじむ!
獣が角を曲がって俺の前に姿を見せる。
「ガウゥ!」
「うりゃっ!」
とりあえず投擲!
重みのある手斧が回転しながら飛んでいく。
命中!
肩のあたりに食い込んでいる。
さらに棚からもう一本!
投擲! 命中! 投げ放題だぜ!
獣が向かってくる。
俺は場所を変える。
ここはテントコーナーだな。
テントに用はない。
だが、あれがあるはず――
あった! ペグだ!
でかいクギ、あるいは杭のようなものだ。
地面に突き刺してテントやタープを固定するのに使う。
大きく、頑丈そうなものを選んで手に取る。
スチール製の鍛造ペグだ。
三十センチほどで少し重い。
【忍具作成】で強度や先端の鋭さを加工したいが、そんな時間はない。
このままでも、なんとか武器に使えるだろう。
棚にぶつかりながら、獣がやってくる。
売り場はひどいありさまだ……。
俺は棚を蹴って上へ飛ぶ。
獣の体高より、さらに上へ。
獣が俺にかみつこうと首を向ける。
だが、首に痛みを覚えたのか、動きが鈍る。
「うおりゃっ!」
獣の傷口のあと――やわらかい肉を狙う!
すれ違いざま、空中からペグを突き出す。
ずぶり、と獣の体に埋まる。
「ギャウッ!」
獣が通り過ぎたところへ着地して振り返る。
打ち込んだペグが体から突き出している。
まるで闘牛士と牛。
アクロバット闘牛忍者である!
獣が反転して戻ってくる。
肩に食い込んでいた手斧が抜け落ちそうになっている。
「引き寄せの術! 投擲!」
斧を引き寄せ、再び投げる。さらに二本目も投擲!
うむ。やはり、投げモノがあると攻撃がはかどる!
離れれば投擲。近づけば刺突。
もう攻撃パターンはできた。
傷が再生しようが関係ない!
「グルル……!」
動きの鈍ってきた獣の突進攻撃をなんなくかわす。
そして、ペグを突き立てる。
何度かくり返して、もう獣はハリネズミのようだ。
武器が刺さって抜けないなら、逆にどんどん突き刺してやる!
「ほら、来いっ! 背中にテントを張ってやるぜ!」
攻撃をかわし、ペグを打ち込む。
手斧を回収して、ぶん投げる。
刀は引き寄せられない。
ガッチリと肉にかんでしまって抜けないのだ。
だが、引っ張るとちょっと痛そうだ。
ぐいぐい!
傷をえぐって、血が噴き出す。
「グ、グゥ……」
獣が倒れ込む。
もう充分に弱らせたな。
ならトドメだ!
「うおりゃ! ぶち割れろ!」
手斧を頭に振り下ろす。
獣は避けることもできない。そのまま倒れて塵となる。
ふう、タフなやつだった!
ボスほどではないが、なかなかの強さだ。
戦闘でだいぶ音を立ててしまったな。
敵が集まってくる前に退散しよう。
店内は、台風が直撃したようなありさま。
棚が倒れたり商品が散らばっている。
「うわあ、これはひどいな!」
ううむ。
非常時とはいえ、店への被害が……!
いや、悪いのはモンスターなんだけどさ。
ここに逃げ込んだ俺も関係ないとは言えない。
とはいえ、責任など負っていられない!
正当化するわけじゃないけど、気にして戦ったりできないんだ。
俺はレジカウンターにそっと、万札を数枚乗せる。
偽善的で意味のない行為だと思うが……。
まあ、おまじないみたいなもの。
あと、斧とか気に入ったし買っておこう!
手斧二本とペグ十本ほどの代金だということで!
<経験が一定値に達しました。レベルが上がりました!>
「おお!? こんなタイミングでか!」
ついにレベル二十到達だ!
 




