手負いの獣は獰猛です!?
「――グォォオッ!」
片目の獣が咆哮を上げる。
ぎろり、と残った片目で俺をにらんでいる。
牙男がえぐった眼の穴は黒い空洞になっている。
だが、目の周囲……痛々しく切り裂かれたはずの顔の傷はふさがって、新しいピンク色の肉で埋まっている。
再生した?
まさか牙男を捕食して成長したのか!?
獣が俺に向かってくる
やはり獣に【隠密】は利きが悪いな。
一体なら、なんとかなるだろう。
囲まれる前にしとめるぞ!
まずは分身を放つ!
左右に出した二体の分身が、大きな獣へと躍りかかる。
「ガァァウッ!」
獣が狙ったのは右の分身だ。
前足が上から振り下ろされ、床に挟まれる。
左の分身はフリーのまま、獣の横に回り込む。
そこに術をかける!
「――入れ替えっ! くらえっ!」
瞬時に無防備な横腹へと、すれ違うように刀の一撃。
ヒットポイントが刃を滑らせる。
だが、かまわない!
そのまま刃を立てて後ろ脚あたりまで駆け抜ける。
さらに分身を出して、獣の尻側へ。
「グルルゥ!」
獣が身をよじって、すばやく体を半回転させる。
まるで暴風のようだ。
開いた大口が、半円状の空間をすくいとるようにして閉じる。
がちん、と音を立てて歯が鳴る。
獣は確かな歯ごたえを感じたことだろう。
だが、くわえこんだのはさっき出した分身だ。
獣はそれをかみ砕く。
その隙に俺は、わき腹に切り付ける。
今度は手ごたえあり。
刃は毛皮を裂いて肉まで達している。
もうヒットポイントはない!
獣から見れば、二連戦だからな。
牙男の削ったダメージは残っている。
休ませるな!
「さあ、かかってこい!」
俺はあえて声を出して気を引く。
「ガウッ!」
「おっと! 遅いぜ!」
くり出された前足の一撃をかわしながら、斬りつける。
浅いが、ダメージはある。
背後に回り込んだ分身で殴り掛かる。
これにはダメージは望めない。
でも、気は引ける。攪乱はできる。
さらに分身を増やし、攻撃の的を絞らせないよう立ち回る。
威力より手数。
攻撃よりも回避を優先した立ち回りだ。
俺自身の被弾はまったくない。
魔力もまだまだ残している。
獣は両足を前に出して、唸り声を上げる。
片目は血走ったようにぎょろぎょろと俺をにらんでいる。
「ググゥ……」
「お? 疲れたのか? 俺はまだまだいけるぞ!」
あえて挑発する。
休ませたくない。冷静になってもらっては困る。
愚直に襲ってきてくれる状況を続けたい。
獣はもう全身傷だらけだ。
毛皮は赤く染まって、ぽたぽたと血がしたたっている。
それでも倒れない。
リンたちと三人で倒したときの感覚でいえば、もう充分な攻撃を加えたが……。
前足に力をため、獣が身を低くする。
……くるぞ!
獣が跳ぶ。
前足での攻撃だ。体重をかけて俺を押しつけようとしている。
俺も跳ぶ。
【回避】の示す安全域へ。
速い!
獣の爪が俺の予想を超えて迫る。
爪が俺の体をかすめる。ぎりぎりだ!
そしてさらに、獣は大口を開けての連続攻撃。
これまでにない動き!
俺は地面に手をついて、アクロバットの要領でバネのように跳ぶ。
その下を獣の口が通り過ぎる。
獣は空中の俺を片目で追っている。
着地する前に、もう一撃を食らわせるつもりだろう。
「そうはさせるか!」
ここまで俺が小技で戦ってきたのは油断させるため。
相手が決めに来るスキを待っていたのだ!
俺は空中で身をよじって回転する。
空中での横回転――!
「フルスイングっ! うおりゃあっ!」
叩きつけられた刀の峰に、獣の顔面が跳ね飛ばされる。
そのまま勢いよく床へと顔面を打ち付けた。
「ギャウッ!」
「とどめっ!」
俺は刀を下に向け、落下の勢いと体重を乗せて喉元へ突き立てる。
刀がずぶりと喉元へ突き立つ。
よし、貫通した!
確実な一撃だ!
着地した俺は刀を抜こうとし――
「ガルアァ!」
「おっ……!?」
獣が身をよじる。そして大きく首を振る。
刀は首に埋まっている。俺は手を放して飛び退く。
獣の目が赤く光る。
「ゲホッ! グルルル……!」
「おいおい……致命傷だろ? まさか、持続回復か?」
獣はよろけているが、倒れない。
血にまみれているが、死なない。
いや、血に濡れてはいるが、出血が少ないぞ!?
さっきの動きも、ダメージの割には素早かった。
毛皮に隠れて皮膚の状態はよく見えない。
もしかしたら、これは……!
牙男を食うことで、回復能力を奪ったのか!?




