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社畜辞めました! 忍者始めました! 努力が報われるダンジョンを攻略して充実スローライフを目指します!~ダンジョンのある新しい生活!~  作者: 3104
四章 副業は公儀隠密で!

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声の呼ぶほうへ……! 血湧き肉躍る……!?

 俺は一人、うす暗いショッピングセンターを駆けていく。


 さっき倒したような大型の獣がうろついている。

 さいわい、数は多くない。


 大型になったかわりに群れていないという感じか。


 【隠密】でやり過ごそうとしても、匂いで気付かれてしまう。

 【消音】で音は軽減しているが、匂いは消せていない。


 鼻のきく動物から身を隠すのは難しい。


「グルル……」


 獣が俺の匂いに反応している。

 【隠密】だけでは隠れきれない。

 なら分身だ!



 分身を走らせて獣の注意をひく。

 獣は、それを追って離れていった。


「よし、つれた!」


 俺は戦闘音のするほうへと向かった。



 戦闘現場が見えてきた。

 まずは、物陰に潜んで様子をみる。



 戦っているのは獣と一人の男だ。

 男の口からは牙がのぞいている。


 生存者ではない。キバオの仲間だろう。


 両腕が太く盛り上がって、爪が鋭く伸びている。

 裂けた上着がぼろきれのようにまとわりついている。



 牙男が戦っている相手は大型の獣が二匹。

 一匹は体から血を流して弱っている。


 もう一体に傷はない。


「くそっ! キリがねえ! 欲をかかずにさっさと帰ればよかった!」


 ……帰る?

 なにか目的があってここに居ると思っていたが、用事は済んだってことか?


 獣が牙男に跳びかかる。

 男はそれを避けながら攻撃。


 二匹目の攻撃で、牙男は傷を負う。


「くそっくそっ! もう少し食えれば格上(かくあ)げだったのに! こ、こんなところで……!」

「ガウォ!」


 牙男は獣の攻撃をなんとかかわす。

 俺は気配を消して様子見を続ける。


 牙男に加勢しようと考えもした。

 だが、さっきの言葉で考えを打ち消した。


 もう少し食えれば――という言葉。


 それが意味するのは()()()()()()ということ。

 その証拠に、牙男は獣の血肉に興味を示していない。



 牙男は劣勢だ。

 被弾が続いて、もう動きが鈍くなっている。


 牙男がポケットをまさぐり、なにかを取り出した。

 手のひらに乗るほど小さい。


 牙男はそれを見つめて、迷いを見せている。

 獣は容赦なく男を襲う。



 からくも獣の攻撃を回避して、牙男が言う。


「く、っそ。使うしかない! カラダが持つか……!?」


 手のひらに乗せていたなにかを口に入れて飲み込む。

 薬か?


 牙男の傷が癒えていく――



 恍惚とした表情で、牙男が言う。


「おおっ! たぎる! みなぎるっ! いっちまいそうだぜ!」


 跳びかかった獣を手を振って打ち倒す。

 弱っていた獣が塵になって消える。


 もう一体が怒りの唸り声をあげて跳びかかる。


「ガウッ!」


 前足の一撃が、牙男の胸元を裂く。


 血が噴き出す。

 だが、その血はすぐに止まった。


「ははっ! 体が軽い! 間に合った! 足りたんだ……くそ、ならもっと早く使えばよかったぜ!」


 牙男は笑いながら獣へと攻撃を続ける。


 割かれた服から、なにかがこぼれ落ちる。

 小さい。

 ……例の薬か?


 俺のいる位置からではよく見えない。

 バレるリスクは上がるが、もう少し近づくか?



 牙男の胸の傷がふさがっていく。

 もう血も出ない。


 おいおい、なんて回復力だよ!?


 もともとの傷を治して、さらに胸の傷を癒した。

 回復効果が続いているのか!?


 ポーションだって、こうはならない。

 飲んですぐ効果を発揮するが、一度きりだ。


 俺の薬草丸には持続回復効果がある。

 だがこれは、けた違いだ!

 回復量が強すぎる!



 俺は慎重に、落ちている品物へ近づく。

 牙男と獣は戦っていて俺には気づかない。


 これ以上近づくと、さすがにバレる。

 ここが限界!


 ――【引き寄せの術】を発動!


 するすると、手元に牙男が落としたものが引き寄せられる。

 これは――カプセルか?


 市販の風邪薬よりは少し大きい。

 赤いカプセル。どろりとした液体が入っている。



「ははっ! ははハッ! 絶好調だぜェ!」


 男は笑いながら爪を振るう。

 残った獣を追い詰めていく。


 男の爪が獣の顔面をとらえる。


「ギャウッ!」


 獣の顔面に大きな傷ができて、赤い肉がのぞく。

 目玉がつぶれて、血のような体液が涙のように流れている。


 牙男はさらに追撃しようと腕を振りかぶる。


「はハハ! ――あ、ウウ!?」


 男ははっと、表情を変える。

 様子が変だ。


「く、クソォ……! だめダ! タりネエ! やっぱり、カクが足りてネエんダ!」


 牙男の顔に恐怖がはいあがる。

 そして、胸をおさえて片膝をつく。


 手には血がついている。


 さっきふさがった胸の傷が開いたのか。

 そこから、派手に血が噴き出す。


「ああァっ!」


 胸だけじゃない。

 腕からも血が噴き出している。


 太く盛り上がった腕の血管が、ふくれ上がってはじけ飛んだ。


 激しくけいれんして、傷口から肉が盛り上がる。

 肉はそのまま外側にはみ出すように成長していく。


 もはや腕とは呼べない。肉塊(にくかい)だ。

 膨れあがった肉が、()れすぎた果物のように崩れて()ぜる。


 おびたたしい血がまき散らされる。


 ぐ、グロい……!


「ぐはッ! うウ……ウォォ!」


 口からも盛大に血を吐いて、牙男が倒れる。


 そこへ獣が近づいていく。


 牙男はあきらかに弱っている。

 だが、獣が待ってくれるわけない。


 獣は大口を広げて飛びかかる。

 牙男は顔だけでそれを見て、目を見開く。


「ガアゥ!」

「くそッ……こんなァ――」


 牙男はそれ以上、言えなかった。


 大きな顎が閉じられ、果物を潰すように頭部が砕けた。

 獣はぼりぼりと骨をかみ砕き、肉を咀嚼する。


 獣の口元から血があふれて流れ出る。


 そして首を失った死体は、塵となって消えた。


「――グォォオッ!」


 獣が勝利の雄たけびを上げる。

 そして――血走った片目を俺の潜む物陰へと向けた。


 ……バレているな!


 戦うしかない!

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