分身の術で連携技を編み出そう! その名も漆黒の……!?(黒歴史)
【軽業】と【跳躍】のおかげで戦闘の幅も広がってきた!
俺のめざしたい忍者の方向性は、軽やかに飛び回るタイプだ。
奇術奇策や毒で罠にはめるタイプではない。
いや、そういうのもオツなんだが……自分でやるのはね。
俺には攻撃技が足りなすぎる。
移動系や隠密に振りすぎているんだな。
忍術も攻撃的ではない。
【分身の術】は陽動やおとりとして使っているし……。
「なんとか分身を攻撃に使えないものかな?」
分身の持つ武器はハリボテでバットもナタも攻撃には使えない。
バットを振り回して注意を引くような使い方はできるが、これで攻撃すると崩れて壊れてしまう。
では素手で攻撃すればいいわけだが、それだとパンチの反動を「拳」が受けることになる。
数発の反動で耐久力がなくなって、分身が消えてしまう。自滅だ。
「ん……まてよ? 実物の武器を持たせたらどうだ?」
予備の武器は持ってきていない。
でも、分身に持たせて使い捨てるのなら、たいそうな武器は要らない。
腰袋から五寸釘を取り出す。
これを握りこめば、即席の寸鉄だ。
手の内に収まるような暗器の一種だ。
尖った鉄棒だったり、刃物だったりする。
指をはめる部品がついているものもある。
人間の拳の打撃力よりも、金属の尖った棒のほうが威力がある。
持ち運びも簡単で、隠し持つこともできる。
ペン回しの要領で、五寸釘を指の間をくるくると移動させる。
【軽業】のおかげでこうした手わざも自在だ。
手のひらに挟み込んで、手の甲側を見せていれば、手の内はわからない。
もちろん手裏剣として投げてもいいし、急所を打ってもいい。
目や喉などの弱い部分を狙えば、十分な殺傷力がある。
「ううむ、暗器忍者も方向性としてはいいな……」
多彩な武器を使いこなしてこその忍者。
その場にある道具や環境を利用して戦う、実戦的な方向性。
おっと、脱線。
これを分身に持たせて戦わせるってことだ。
分身は生身で攻撃すると、その体に相手に与えたと同じだけの衝撃を受ける。
しかし武器を持たせれば違う。
寸鉄の鋭い先端を敵に撃ちこむとき、その反動は小さい。
鋭利な刃物ならなおのこと反動は小さくなるだろう。
クナイでも作りたいところだ。
だが、まずは即席の寸鉄でいいだろう。
「分身の術!」
分身を生み出し、五寸釘を投げ渡す。
分身の握りこんだ右手の小指側から、クギの先端が飛び出すように持たせる。
これを、腕を振り下ろすように叩きつける。
握りコブシの小指側の側面で敵を打つ。
いわゆる鉄槌打ちという打撃技だ。
正拳突きよりも手を痛めないらしいので、分身の保護にも丁度いい。
分身を操作して、鉄槌打ちを繰り出してみる。
うん、悪くない。
分身の身体能力は、素の俺と変わらない。
ステータスやスキルは適用されない。
ゴブリンくらいなら、当てることができるだろう。
コウモリに当てるのはちょっと難しい。
俺の操作のタイミングにかかっている。
自分が回避や戦闘しているなかで分身を操作するのは難しいから、混戦中は無理だ。
回避に攻撃を織り交ぜて、ラッキーヒットを狙うくらいだな。
ラッキーをあてにして戦術を組んではいけない。オマケ程度までだ。
分身の効果時間が切れるまでの間、練習を繰り返す。
横や斜めに振ってもいいし、バックハンドブローのように回転鉄槌もいい。
分身と俺が連携して攻撃すれば、分身も倒されにくくなる。
分身とぶつかったり、邪魔になっては意味がない。
分身の操作は、ある程度の攻撃モーションをセットとして操作する。
格闘ゲームの必殺技コマンドみたいな感覚だな。
たとえば「幻惑回避運動」「鉄槌」「回転鉄槌」「投擲」「腰だめ突撃」みたいな感じ。
腰だめ突撃は、武器を構えて鉄砲玉のように直進する防御無視の技だ。
キエーッとか叫んでツッコむと様になる。
分身はしゃべらないけど。
忍者たるもの任務のためには命を捨てることもいとわない。
分身ならね。俺は死にたくないから、やらない。
ゴブリンあたりに先手を打って攻撃するときは分身でも十分に殺れるはずだ。
「お、ゴブリン発見。4匹か。さっそく分身での攻撃を試すぞ!」
狭い足場のせいで、縦一列でやってくるゴブリン。
こちらも分身は壁を走ったりできないので、正面から出くわすことになる。
「ギギィ!」
「ウギギ!」
あいかわらず、ゴブリンは意味不明の声を発している。
こちらを指さして「見つけたぞ!」的なリアクションを取っているように見える。
今回は、見つかっても構わない。
正面からの戦闘で、分身による攻撃を試させてもらう!
「行け分身! 腰だめ突撃!」
別に口に出さなくても指示できるが、あえて声を出して目立っていく。
敵の気を散らせることで、攻撃が成功しやすくなることを期待している。
興奮して騒いでいるゴブリンへ、分身の寸鉄による刺突攻撃が命中。
ゴブリンの喉元に突き刺さり、血を吐くゴブリン。
攻撃は浅く、即死はしない。
「鉄槌!」
腕を引き戻した分身は、すかさず右手を振り下ろす。
のどを押さえてうずくまるゴブリンの頭部に突き刺さり、塵へと変える。
そのとき、二匹目のゴブリンが手に持ったナタを振り上げる。
「後退回避!」
分身は身をかがめるようにバックステップをする――
――が、遅い。ステータスの強化がない分身の速度では避けきれない。
「ギヒッ!」
勝ち誇ったような表情を浮かべるゴブリン。
振り下ろしたナタが分身の肩口に打ち込まれ――
――その攻撃が命中する前に、俺の投擲した二本の手裏剣が顔面に突き刺さる。
「ヒギッ! ギィヤァァァァ!」
顔面を押さえてのたうつゴブリン。
後ろのゴブリンは、前のゴブリンが邪魔でまごついている。
分身を操作して、先頭のゴブリンにとどめを刺す。
これで残りは二匹。
ゴブリン達は仲間がやられても動揺を見せない。
普通なら逃げたり怖がったりするんだろうけど、ゴブリンにはそういう知性すらないのかもしれない。
喜怒哀楽がないわけではないようだけど……。
せっかくの数の多さも、縦に並んでは意味がない。
縦に並んでもできる動きはあると思うが……。
うむ……? 縦に並んで攻撃か。
分身を使った技を思いついたぞ。
オリジナル技とは言えないかもしれないが、一度はやってみたいやつだ。
どうせなら強敵に使いたい気もするが、まずはお試しだ。
一体目の分身を下がらせて、ゴブリンから距離を取って仕切りなおす。
「分身の術!」
二体目の分身を生み出し、釘を投げ渡す。
戻ってきた分身一号の後ろに、分身二号が並ぶ。
そして、俺がその後ろにぴったりとつく。
漆黒の衣装を身にまとった三人の忍者が、直線に並んでいる。
これで、正面からはこちらの人数が増えたことはわからないはずだ。
さらに、最後尾の俺は【隠密】で気配を断っている。
「分身一号、二号、奴らに漆黒の三連撃を仕掛けるぞっ!」
分身一号に「腰だめ突撃」を指示して、ゴブリンへ突っ込ませる。
もう効果時間が残り僅かなので、一号は捨て石だ。
「アギャ!」
ゴブリンが振り下ろした棍棒を受けながら、分身一号がカウンターの刺突を決める。
ダメージにより、分身は塵と消える。
ゴブリンはよろめいている。
そこへすかさず分身二号が腰だめ突撃し、寸鉄を深々と打ち込む。
ゴブリンがくずおれ、塵となる。
分身二号は攻撃後の隙で動けない。
最後のゴブリンが、とっさにナイフを構えて分身二号に向かって迎撃をしかけようとする。
だが、遅い。
その時にはもう俺は壁を蹴って分身の頭上を飛び越えている。
伸身前宙に近い動きだ。
足を揃えて、体を伸ばした状態で跳ぶ。
分身二号の頭上を越え、さらに驚くゴブリンの上を越える。
スローモーションのような刹那の時間、ゴブリンと俺の視線が交錯する。
回転の勢いをナタに乗せ、ゴブリンの後頭部を強打する。
頭蓋を断ち割られたゴブリンが絶命する。
俺はゴブリンの背中側に着地して、魔石を空中でつかみ取る。
ひねりを加えているので、元向いていた方向と逆を向いている。
仮に仕留め損なっていたとしても、この後追撃を入れられる。
生き残っている分身二号との挟み撃ちの形にもなる。
「おお、できたぜ。伸身前宙一回転半ひねり! そして見たか! 三位一体の連携技を!」
……などと言っても、誰も見ていないのが残念だ。
分身と無表情で向かい合い、妙な空気が流れる。
分身は指示をしなければ何も動かない。
「……拍手っ」
パチパチ、と分身二号が手を叩いてくれる。
自分で自分に「いいね!」してるみたいな……。
これぞ忍法自画自賛!
うむ……。疲れているのかもしれん!
アクロバット楽しい。




