密室! 秘密! 密談! ぎゅうぎゅうトイレ会議!?
サタケさんが説明を続ける。
「そう。ここにきて成長したんだ――敵の侵入を物理的に阻むようになった。触ることすらできない」
「ああ、だから入口に立ちふさがっていたのか。バリアみたいなものか?」
サタケさんは咳き込み、顔をゆがめる。
「それは……げほっ。エドガワ……話せるか?」
「あ、はい。その、バリアとは違うと思いますが、まだよくわからなくて」
ここで能力が開花したばかり。
まだ自分でも把握していないんだな。
俺はきりだす。
「あ、俺の仲間を入れていいか? 話を聞かせたくないなら待たせるけど……」
能力を知られたくないなら、しかたがない。
だが、状況の共有は皆でしたほうが効率がいい。
それに外は危険だ。合流しておきたい。
「えっと……」
エドガワ君がサタケさんを見る。
サタケさんは頷く。
「ああ、入ってもらおう。げほっ……。どうせもう聞いているんだろう?」
トイレの入口からトウコがひょこっと顔を出す。
そして悪びれもせず言う。
「ははっ! バレてたっスかー?」
困った顔でリンも顔を出す。
「ちょっとトウコちゃん……もう。……ハルコさーん?」
リンはハルコさんへと手招きしている。
「はぁい? 私も混ざっていいんでしょうかぁ?」
サタケさんが言う。
「エドガワ。こっちに来てくれ。彼らを通せ」
「は、はい」
エドガワ君が位置を変えて、皆を通す。
立ち位置はサタケさんたちと俺たちの間だ。
サタケさんは抜かりない。
ちゃんと自分たちの身を守れる位置だ。
全員がトイレの中に入った。
少し狭いな。
だがこれで安心して話が進められる。
「この二人が俺のチームメンバです。レンとトウコ。ハルコさんはさっき合流した異能者です」
トウコが一歩前に出る。ニヤニヤ顔だ。
「よろしくっス! あたしはトウコ――」
いったん言葉をきる。
そして拳銃を両手でくるくると回してポーズ。
「――拳銃使いのザ・ガンスリンガーっス!」
サタケさんが銃を持つ腕をピクリと動かした。
だが、銃を構えはしない。
俺はひそかに息を吐く。
ふう……冷静な人でよかった!
まだ信頼関係は完全じゃない。
急に銃を振り回したりしたら相手を刺激するからな!?
トウコはそれには気づかずにドヤ顔でポーズを決めている。
……。
妙な間が。
トウコがリンをひじでつつく。
「――さあさあ、つぎはリン姉っスよ!」
そういう間じゃないよ!
「わ、私もそういうのしないとダメでしょうか? その……」
リンはもじもじしている。
コミュ障に無茶ぶりはよせ!
あと、偽名な!
ハルコさんに偽名を名乗ったんだから、今は貫き通したいぞ。
「いや、普通でいいぞ、レン」
「あー、店長止めちゃうんスか! リン姉の名乗り、聞きたかったのにぃ!」
「にぃ! じゃないわ! 今は手早く話を済ませたいんだよ! 空気読んで!?」
「その。れ、レンです。魔法を使います」
リンは指先に小さな炎を出してみせた。
エドガワ君はそれを見て目を丸くする。興味津々だ。
「へー。魔法使いですかー!? さっきの炎はそういうことなんですね?」
「あ、ごめんなさい。熱かったですか?」
エドガワ君は首を横に振る。
「いえ! 大丈夫でした! おかげで助かりましたー!」
「よかったー」
つづいてハルコさんを紹介する。
「こちらのハルコさんは二階で合流した方です」
「……よろしくおねがいします?」
「あ、入口に壁を頼めるかな? 少し話をするので音もれを防いでほしいんだ」
「……は、はいぃ。できましたぁ」
トイレの入口が壁で埋まる。
半透明の壁、マジックミラーのようになっている。
サタケさんが感心したように言う。
「おお、壁が! そういう能力なんですね?」
「はい。映像だけですけど? あ、名前はアオシマハルコです?」
あ、苗字。アオシマか。
はじめて知ったわ。
三人の紹介がすんだところで、エドガワ君がこれまでの状況を話してくれた。
「ボクたちはダンジョンの反応があったということで、三階へやってきました。そのときはまだ、こんな感じにはなってなくて……」
サタケさんが助け舟を出す。
「そのときは領域は小さくて、一部だけだった。……続けろ」
「ボクたちが領域の端っこに入って調査しようとしてたんです。そしたら、急にヘンな感じがして……こう、耳がキーンって感じですね。それで、領域が広がっちゃったんです」
エドガワ君はたどたどしい説明を続ける。
うーん。
コミュ障ばっかり増えていくぞ!
サタケさんが補足する。
もう全部、この人が説明してくれたらいいのに。
長いセリフをしゃべるのはつらそうだから、しょうがないんだが。
「領域が広がって、俺たちは中に閉じ込められた。そして、脱出しようと移動を開始した……げほっ。エドガワ、続けろ」
「それで、エスカレーターまで行きました。そこにいた人たちは人間のふりをしていて牙が生えていて……み、ミムラさんが」
エドガワ君は声を詰まらせる。
目にはうっすら涙が浮かんでいる。
俺は耳をかたむけ、続きを待つ。
「ボクらを逃がすためにミムラさんは……や、やられてしまいました。そのとき、サタケさんもケガをして。ボクは……なにもできなくて……」
なぜかハルコさんがはっとした表情を浮かべる。
うつむいてしまったエドガワ君にかわって、サタケさんが言う。
「ミムラのおかげで俺たちはエスカレーターから撤退できた。奴は立派に戦った。だが、何人かの一般人もそこで殺された。ついてこれたのはこの二人だけだ」
憔悴した様子の一般人の男女が涙を流して頷いている。
エドガワ君が言う。
「ボクらは必死に逃げました。でも犬が追いかけてきて、もうダメだと思って。だけど、大丈夫でした。近づかないでと思ったら、その通りになったんです!」
仲間の死。
一般客も殺され、獣たちに追われる極限状態。
このとき、能力が成長したということだな。
本人も知らなかった能力が発動したんだ。
「異能のおかげだと判断して、エドガワを最後尾に撤退を続けた。おかげでここにたどり着けた」
この場所――トイレまで逃げてきたと。
やっと話がつながってきたぞ!
彼らをエスカレーターで襲ったのは、キバオたちかもしれない。
あるいはその仲間。
人間のふりをして、待ち伏せしていた。
そしてサタケさん達をだまして、襲ったんだな。
このときはまだ、二階まで領域が広がっていなかった。
だから守っていたのは三階のエスカレーターだったんだ。
いま聞いたできごとの後、キバオたちは移動したんだろう。
ダンジョン領域の端。出口……階段へ。
客を逃がさないためだ。
「サタケさん。エスカレーターで襲ってきたのはガラの悪い二人組でしたか? 一人は魔法を使うヤツでは?」
「そうだな……。たぶん、魔法だ。手から光を放ってきた。この胸も防弾服じゃなければケガじゃすまなかったかもしれない。もし奴らに会ったら逃げるんだ――」
「あ、そいつらならさっき倒してきたので、安心してください」
俺がそう言うと、サタケさんが目を見開いて驚く。
「え? あれを……倒しただって!? あ、痛てて!」
傷が痛むらしく、胸をおさえる。
エドガワ君も驚いている。
「あの怪物を倒したんですか!? す、すごい!」
「クロウさん。あらためて、感謝する。助けに来てくれただけでなく……ミムラの仇まで討ってくれていたとは! ありがとう!」
「いやそんな……」
大仰な感謝の言葉に、俺は手を振って――
トウコが胸をそらして言う。どや顔だ。
「ははーっ! やってやったっス! アイツは泣きわめいて死んでいったっスよ!」
「トウコちゃん……言い方っ」
サタケさんが黙っちゃったぞ。
エドガワ君もひいて――ないね?
顔を上げて、晴れやかな顔だ。
「そう、ですか。でもおかげで気分がはれました! ざまあみろ、ですね!」
「マホ太郎も頭をぶっ飛ばしてやったっス!」
サタケさんが聞き返す。
「まほ……なんだって?」
「手から光を出す魔法使いの男ですね。はは……」
「やっぱり伝わらないよトウコちゃん」
「私はキバオとマホタロウ、ダサかわいくてイイと思いますよぉ?」
ハルコさんはもう受け入れている。
なんだかんだ、俺もその呼び名で定着してしまいそうだ。
脱線してしまったな。
「それでこのトイレまでたどり着いたんですね? エドガワ君、続きを聞かせてくれ」
「はい――」
俺たちが合流する直前までの話になるはず。
彼の異能がどういうものかわかるだろう!
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