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社畜辞めました! 忍者始めました! 努力が報われるダンジョンを攻略して充実スローライフを目指します!~ダンジョンのある新しい生活!~  作者: 3104
四章 副業は公儀隠密で!

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生存者の少ない理由!? ……悪党にかける慈悲はない!

 俺たちは隠れて、聞き耳を立てている。

 ここから相手の姿は見えない。


 人気(ひとけ)のないショッピングセンターに、声が響く。


「しかし、今回はずいぶん長くかかるな。収穫(しゅうかく)はまだ終わらねえのか?」

「俺に聞くんじゃねえ。一緒にいるんだ。わかるわけねえだろ?」


 男の声。二人で会話している。


「そうだがよ。こんなに待たされるとは聞いてないぜ。それにこう犬ばっかりじゃつまらねえ!」

「ああ、もっと人間を(むさぼ)りてえな! 俺も狩り役がよかったぜ。はあ……」


「オイ、なにか聞こえたぞ? 犬じゃねえ!」

「人間の足音だ!」


「まだエサが残ってたな! ……いたぞ!」


 俺の姿を見つけたらしく、そいつらが喜びの声を上げる。


「よし、俺がちょっと味見を……いや、様子を見てくる! ここはまかせた!」

「おい! ふざけるな! 持ち場を守れ!」


 一体が、()()姿()を追いかけてきたようだ。


 足音は一人分。

 つまり、もう一人は元の位置にとどまったままだ。


 やつらに見せた()()姿()は、もちろん分身である。

 釣りだし成功だ!



 通路の角から、声の主が姿を現す。

 人間のような姿をしているし、服も着ている。


 だが、人間ではない!

 目は血走り、牙が口元からのぞいている。


 その姿を見ただけで、背筋がぞっとする。

 嫌悪感(イヤな感じ)敵対心(ムカつき)だ。


 これはモンスターを見たときの生理的な反応である。

 十中八九、モンスターだ。


 不意をついて暗殺する手もあるが……。


 しかしこいつらは、会話する知性を持っている。

 ゴブリンや鬼とはちがう。


 会話を試みるべきだろうか?


 なにも友達になろうってわけじゃない。

 情報を聞き出すとか……尋問するとかでもいい。



「おい待て、そこの人間!」


 男が分身の背に声をかける。


 俺は分身を操作して振り返らせると、恐怖に(すく)んだようなポーズをとらせる。

 表情はぎこちなくなるが、マスクで隠しているのでバレないだろう。


 男はあざ笑うような笑みを浮かべて言う。


「なんだ? おびえて声も出ないのか? つまらんな。じゃあ、悲鳴を上げるのを手伝ってやるぜ!」


 そういうと男……いや、人の姿をしたモンスターは大きく口を開く。

 口には長く伸びた犬歯――牙がある。


 分身におおいかぶさると、首筋に牙を突き立てた。


「う……うぎゃぁぁあ!?」


 叫んだのは分身ではない。そう、分身はしゃべれない。


 分身が塵となって消える。

 それと同時――牙の生えた男の胸から刀の切先(きっさき)が飛び出す。


 俺は男の背後から言う。


「――悲鳴を上げたのはお前のほうだったな?」

「な……なんだ、てめえは!?」


 男は狼狽(ろうばい)した言葉を吐き、振り返ろうとする。

 俺は刀をひねり上げてそれを許さない。


「質問するのはこっちだ。お前はなんだ? ここで何をしている?」


 さらに刀に力を込める。血が噴き出す。

 男が苦悶の声を上げる。


「ぐあ……あああっ! に、人間ふぜいが……調子に乗りやがってぇっ!」


 そう言うと、男の体がふくれ上がったように見えた。

 いや、実際に大きくなっている!


 筋肉が盛り上がり、服が裂ける。

 背中から胸まで貫通させている刀が、肉に締めつけられている。


 このままでは刀がからめとられる!

 抜くしかない!


 男の体は、さらに筋肉でふくれ上がっていく。

 背中の傷までも、ぴたりと閉じてしまう。


 ――だが、相手の変身を待ってやるつもりはない。


「うりゃあっ!」


 男の背中へ刀を振り下ろす。

 返す刀でもう一撃!


 ちゃんとダメージはある!

 大きな傷から、血が噴き出す。


 返り血を浴びる前に、俺は位置を変えている。


 男はよろけて、膝をつく。


「ぐあっ! て、てめえ! 卑怯(ひきょう)――」

「動くな。振り返るな。妙な真似をすると斬る! だが、質問に答えれば命は助けてやる」


 窓から差し込む光が床に影を落としている。

 背後で刀を振りかぶっている俺の影に、男がちらりと目線を送る。


 男が大声でわめく。

 わざとらしく両手を上げて降参のポーズだ。


「わ、わかったぁ! た、助けてくれ! 俺はここで……そこのエスカレーターで……」

「エスカレーターでなにをしていた? ほら、早く言え!」


 男の爪が鋭く伸びる。

 あざけりの声で、男が言う。


「――お前みたいなマヌケな人間を待ってたんだよ! いまだっ! コイツを()れっ!」


 その声を合図に、通路の角からもう一人の敵が現れる。

 話し声のもう一人だ。


「おうっ! マジックアローッ!」


 男の手が強い光に包まれている。

 その手から、なにかが放たれた。


 魔法だ!


 さらに牙男が振り返りながら、鋭い爪で俺を切り()こうとする。

 魔法と爪の同時攻撃。


 刀で受けるのも、避けるのも難しい。

 勝利を確信した牙男の顔が狂喜に歪む。


 だが、牙男の腕は空をきる――


「――え!? どこ行った!?」


 狙った位置に俺はいない。

 俺が無策に足を止めているわけがない。


 俺と牙男の位置はもう、()()()()()()()()


 魔法で()()()()()()へ攻撃を放ったもう一人が、警告の声を上げる。


「ば、ばかな! ――避けろ!」

「な、なに!? ぎ、ぎやぁぁーっ!」


 振り返った牙男の目前に、魔法の矢が迫っている。

 すでに回避は不可能!


 避けるいとまもなく、牙男は魔法に撃ち抜かれる。

 そして塵となって崩れ落ちた。


 黒い魔石が床に落ちて、軽い音を立てた。


 俺は言う。


「マヌケはお前だったな。――そしてやはり、お前らは敵だ!」


 俺はもう一人の敵に刀の切っ先を向けて、宣言する。

 もう一人の男がうろたえたように言う。


「なっ……! ――だ、だがお前ひとりくらいこの俺が……」


 男の手が輝きはじめる。

 さらに魔法を準備しているようだ。


 準備を待ってやるほど親切ではない……のだが。

 もうちょっと情報を引き出したい。


 期待はしていないが、いちおう言ってみる。


「話し合いに応じるなら、逃がしてやってもいいぞ。どうする?」

「ちっ! そいつを()ったくらいで、いい気になるなよ!」


()ったのはお前だけどな!」

「うるさい! (だま)ってくたばれっ! マジックアローっ!」


 男の手から魔法が放たれる。

 当然、俺を狙っている。殺す気の一撃だ。


 魔法の矢。

 何本もの光の矢が飛んでくる!


「ふう……やはり、話は通じないか」


 俺はあわてずに、それを見ている。


 想定通りの展開。

 回避コースも見えている。だが、避ける必要すらない。


 こちらの準備もできているからだ。

 わざわざこの位置に釣り出したのは、幻の壁からの射線を取るためだ!



 ――壁の中から声が聞こえる。


「ファイアァ――ランスーっ!」

「チャージショットォ!」


 炎の槍が、壁の中から放たれる。

 それは男の魔法(マジックアロー)を包み込み、そのまま押し返して消し飛ばす。


 同時に――大きな銃声が響く。

 目に見えない速度で飛んだ弾丸が、男の頭部をふき飛ばす。


 空中にはビームのような軌跡が残っている。

 トウコの銃撃のエフェクトだ。


 魔法を使った男の体がぐらりと背後にかしぐと、ゆっくりと倒れる。

 そして魔石を残して塵となった。


 俺はそれを引き寄せて、腰袋へしまう。


「よし、やったな!」



 壁から出てきたハルコさんが興奮気味に言う。


「す、すごいですね……!? 二人のバケモノをこうもあっさりと……!」

「みましたか! ゼンジさんの活躍! かっこよかったですねー!」


 あ、偽名。


「相手がアホでよかったっス!」

「話は聞けなかったけど、いくらかはわかったな」


 知性のある相手を殺すのは気が引ける。

 人型のモンスターに見えても、元人間の変異者の可能性があるからな。


 変異者だとしても、敵なら倒すしかない。

 かつて戦った大鬼は、どこか悲しい存在だった。


 だが、こいつらは明らかに道を踏み外している。

 自ら望んで、楽しんで人を殺していた。


 ならば、かける慈悲はない。

 罪悪感も覚えない。


 こいつらを逃がして、人を害するのは目に見えているからだ。



「この人たちがハルコさんの言ってた、人を殺してるヤツか?」

「そ、そうだと思います。たぶん?」


 まあ、逃げながら人の顔なんてまじまじ見てられないよな。


「どうやらこいつらは、誰かに指示されてここに居た……収穫とやらが終わるのを待っていた……そして、人間を襲ってたんだ!」


 会話の断片から、それがわかる。

 ――収穫、持ち場、狩り役。


 誰かの指示で、この場所――エスカレーターを封鎖していたんだ。

 もちろん、上にも下にも行かせないためだろう。



 リンとトウコが俺を見る。


「これで、通れるようになりましたねー」

「上に行くっスか? 一階に戻るっスか?」


 そうだな――

 俺は考えをまとめる。

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