生存者の証言……脱出ルートがない!?
ひとまず生存者を見つけた。
彼女の名前はハルコ。
画像加工のように、映像をデコる能力を持っているらしいが……。
今のところ彼女から危険は感じられない。
それにしても、俺たちはいまいち忍べていない。
緊張感のない会話で打ち解けることはできたが……いいのかこれで。
話を戻す!
「つまり、壁を加工して、そこに隠れてたんだな?」
「そうです! ちょっとやってみますねぇ?」
ハルコさんは店舗の入口に向けて手をかざす。
すると、一瞬のうちに壁ができあがった。
もともとあった壁が伸びたような自然な仕上がり……。
まさに画像加工を見ているようだ。
「おお……これは!?」
今いる店舗の入口が壁になった。
つまり、外からは見えない密室になったと言える。
音もさえぎっているらしい。
外から聞こえる雑音が静かになった。
これなら、こちらの話し声も外へ漏れないだろう。
「スキルっスか!?」
ハルコさんは首をかしげる。
スキル、という言葉が通じていないのか?
「えーと、超能力、みたいな? わかるんですかぁ!?」
「ああ、俺たちはスキルとか異能と呼んでいる。その力はどうしたんだ?」
「少し前から使えるようになってぇ?」
なぜ自分のことなのに疑問形なんだ?
「ダンジョンに入って、その力を手に入れたのか?」
ここはダンジョン領域なのでダンジョンの話題をしても隠蔽されない。
俺が追放される心配もない。
「ダンジョン……? なんですか、それぇ?」
「わからないならいい。その力を誰かに見せたことは?」
ちょっと尋問みたいな口調になってしまうが、時間がないからな。
「友達に見せました。だけど、わかってもらえなくて、それに、彼女の気分も悪くなっちゃって……」
「認識阻害による頭痛だな? ……その力は人に見せてはいけないんだ。見られると大変なことになる」
「見られてもなんともありませんけど? ほら、この時計にも誰も気づきませんよね?」
彼女は腕時計をかかげて見せる。
誰でも知ってる高級ブランドの時計だ。
「いきなり自慢ぶっこんできたっス!?」
「あ、そうじゃなくて。これは盛ってるだけですぅ」
腕時計の形がぼやける。
その下に安物の腕時計が現れる。
「上に時計の映像を重ねていた……? ずっとそうしているのか?」
気にしてみれば、身につけている服も全身ハイブランドだ。
ブランドロゴが入った、これ見よがしな服である。
これも偽物の映像をかぶせているんだろうか……。
「見せちゃダメ? 別にいいですよね? 誰も損してませんよぉ? フォロワーさんも喜んでくれますし!」
彼女は必死に弁明している。
フォロワー?
写真に撮ってネットに上げてるってことか!?
俺は落ち着かせようとして言う。
「悪いことをしていると言ってるわけじゃない。不思議な力を人に知られるとペナルティがあるんだ。気を付けたほうがいい」
「ゼンジ……ゾーさんは、心配して言っているんですよ」
偽名……ギリギリセーフか?
もうやめようか、偽名作戦……。
「そ、そうですかぁ?」
「そうっス! ゼンジゾウさんは親切っス!」
「地蔵みたいに言うな! ……はあ、ちょっとボケのペース落としてくれ……」
「あはは。変な人たちですねぇ?」
もう、助けに来た人じゃなくて変な人みたいに思われてるよ……。
リンが小声で俺に言う。
「この人の場合は、ホンモノに見えるから認識阻害がかからないんですね?」
「だろうな。そうじゃなきゃ、今頃は追放されてるだろう」
ハルコさんが言う。
「あの……それより、助けに来てくれたんですよね? 家に帰れるんですよね?」
「ああ、外に出れば安全だ。一階まで送るよ」
なんとか生存者を見つけた。
だけど、俺たちが探している公儀隠密メンバーではなかった。
彼女を安全な場所へ送り届けて、先を急がねば!
「でも、下に降りられなくて! だから隠れてたんですぅ!」
「降りられない……?」
どういうことだ?




