生存者の探索! 隠密よりスピード!
「ここにも魔力の反応はありません……」
「しずかっスねー。血も死体も見当たらないっス」
人はいない。
かといって死体もない。
血痕など、惨劇の形跡はみられない。
正月の商業施設だ。
人がいないわけはない。
この二階も客でにぎわっていただろう。
いま、ここに人々の姿はない。
かわりにモンスターがうろついている。
俺は言う。
「ダンジョンの中と似たルールなんだろうな。血や死体は塵になって消えちまう」
「人間も、ですか?」
「あたしのダンジョンで死ぬと店長やリン姉も塵になるっス……。あんまり見たくない光景っスね!」
俺もトウコがやられて、塵になるところを見た。
あれは胸にこたえる。
「ああ。そんな姿は見たくないな」
リンは顔を引きつらせて言葉を失ってしまっている。
なにかを思い出してしまったんだな。
「……! だ、だめですよ! ぜったいに死なせません!」
「ああ、探索を急ぐぞ!」
俺たちは店舗を一つずつのぞいて確認していく。
ここまで、人の姿はない。
人の気配……物音や声も聞こえない。
獣の唸り声は遠く聞こえている。
「誰もいないんスかー! おーい! 助けに来たっスよぉー!」
トウコの声ががらんとした店内に響く。
返事を返す人はいない。
帰ってくるのは獣の唸り声だ。
「……あんまり目立つなよ?」
「でも、早く見つけないと間に合わないっス!」
トウコの言うことにも一理ある。
「そうだな。敵は倒せばいいか」
「そうっ! 銃で解決すればいいっス!」
「いいのかな……?」
言い方はアレだが、実際そうだ。
強引でも急がなければ。
目立っている俺たちのもとへ、さっそく敵がやってくる。
鼻息あらく走ってくる獣にトウコは銃を向けた。
俺たちは今、長い通路の途中にいる。
左右に店舗はあるが、通路の分岐からは遠い。
だから囲まれる心配は小さい。
敵を倒して進んできているので、背後は比較的安全だ。
といっても、背後にも気を配っている。
敵が新たに湧くかもしれない。
別の通路から回り込んでくる可能性もある。
気は抜けない。
正面からやってきた敵を迎え撃つ。
距離を詰められる前に銃撃と魔法で敵を減らす。
近づかれたら分身で防いで、刀で斬りつける。
もう慣れた。
俺たちは集まってきた獣をあっさりと倒すことができた。
周囲を見回してリンが言う。
「今ので最後です! 後続ありません!」
「ふぅー。リロードっス!」
トウコはリロードし、散らばった銃弾を集める。
リンは周囲を警戒している。
俺は分身に魔石を集めさせる。
すぐに拾わないとな。
ダンジョン内と違って、魔石はすぐ塵になって消えてしまうのだ。
「リンはもう少し魔力を温存して、索敵に集中してくれ」
「はい。それにしても……もう、誰もいないのでしょうか?」
リンは心配そうな顔だ。
見える範囲の通路に敵はいない。
左右の店舗をのぞいても、人影はない。
さっきから俺たちは声をかけながら探索している。
敵に見つかることは仕方がない。
割りきろう。人命優先だ。
「さっきから犬ばっかりっス!」
敵は獣ばかり。
犬種……と言っていいのかはわからないが、多少の差はある。
体格は大型犬ほど。
茶色や灰色の体毛が多い。
この敵は物陰に潜んだりしない。
こちらを見かけるとすぐに襲いかかってくる。
五、六匹の群れで現れて多少の連携は取ってくる。
だが、頭はよくないようだな。
こういうシンプルな敵は戦いやすい。
「ここでの戦闘には慣れてきたが……生存者はいないのか?」
トウコは大きく、リンは少し戸惑いながら声を出す。
「助けに来たっスよー!」
「誰か……いませんかー?」
人気のない通路に、俺たちの声がむなしく響く。
そのとき――声が聞こえた。
「……た、助けて! 助けてっ!」
女性の声だ。近い。
しかし、その姿は見えない。
「どこにいるんだ? 姿を見せてくれ!」
隠れているのか……?
俺は周囲を見まわす。
だが、通路にも店舗内にも人影はない。
リンが言う。
「……魔力の反応があります。でも……」
「うえっ!? そっちは壁しかないっスよ!?」
リンが指さしているのは、店舗内の壁だ。
たしかに声はその方向から聞こえたが……どういうことだ?
 




