荒れ寺での初詣とアポなし訪問!
本日二話目!
俺たちは荒れ寺へ来ている。
御庭の拠点だ。
荒廃しているが、いちおう本堂もある。
信仰心なんてないから、寺でも神社でも、荒れていてもかまわない。
もう正月の三が日は過ぎたが、初詣である。
ダンジョンに入り浸っていると季節感が狂うんだよな。
年が明けても、パンデミックは収まっていない。
人混みには行きたくない。
ここなら人もいないし、ちょうどいい。
俺はジャケットを着てはいるが、下はジーンズ。
リンは長めのスカートとコート姿。
トウコは戦闘服の上にフードつきの上衣を羽織っている。
初詣はついでなので、フォーマルな格好ではない。
ま、文句を言う参拝客も、寺の人もいない。
荒れた本堂には賽銭箱などは置かれていない。
割れたガラスのスキマから中をのぞいても、拝むべき仏像なども見当たらない。
まさに伽藍洞。なにもない。
だから、詣でても、ご利益があるかもあやしい。
ま、こういうのは新年の儀式みたいなもんだ。
やることに意味がある。
それらしい場所で、俺は無言で手を合わせる。
リンは目を閉じて手を合わせ、まじめな顔をしている。
トウコはパチパチと手を叩きながら言う。
「三人でずっと一緒にいられますよーに!」
「……願い事って口に出していいんだっけ?」
口に出したほうがいいとも聞くし、出してはいけないとも聞く。
正しい作法なんて俺は知らない。
「口に出さないと伝わらないっス!」
「失礼のないようにお願いすればきっと聞いてくれますよー」
トウコの態度は普段よりはマシ。
願いの内容も不純ではないし、大丈夫かな?
「リン姉はなに頼んだんスか?」
リンははじらうような表情ではにかむ。
「それは……秘密です」
「恥ずかしいお願いしたんスか!? くわしく!」
リンはやたらと長い間、手を合わせていたけど……。
不純な願い事なんてしてないよな?
「おいおい。無理に聞こうとするなよ?」
「じゃあじゃあ、店長はなに頼んだんスか?」
「だから聞くなって」
「無理にじゃなくて、さりげなく聞いてるっス!」
そういう問題じゃないけど。
ま、隠すことなどない。
「俺はなにも頼まなかったよ」
トウコはにやにやと、下からのぞき込んでくる。
「欲がないっスねー。ホントっスかー?」
「ウソついてどうする! ……でもトウコの言うように、ずっと三人で居られたらいいな」
こういうのは神仏に頼むことじゃない。
自分でつかみ取るものだ。
そして、その手を離さなければ願いはかなう。
「うっ……店長はすぐ不意打ちしてくるっス!」
「大丈夫です! きっとかないますよ!」
俺は二人の手を取る。
二人はその手を握り返して、笑った。
事務所のほうからウスイさんが歩いてくる。
俺たちの来訪を知って、出てきたんだろう。
俺は出迎えてくれたウスイさんへあいさつする。
「あけましておめでとうございます。ウスイさん」
「おめでとうございます。クロウさん……今日はどうしたんですか?」
ウスイさんはスーツ姿だ。
くたびれたサラリーマンみたいに見える。
「今日は仕事――公儀隠密の仕事をしようと思ってたんですが……」
そこで俺は言葉を切る。
ウスイさんがひきとって言う。
「つまり、悪性ダンジョンを潰しに行くのですね?」
近いが、違う。
「いや、もう行ってきたんです。御庭から聞いていた場所へ。だけどそこには――なにもなかった」
「ダンジョンがなかったんですか……?」
ウスイさんは困惑している。
俺は御庭から進行の遅い悪性ダンジョンの情報を渡されていた。
急がない案件。
異能者には手が出しにくい案件である。
進行が遅く、モンスターやダンジョン領域があふれ出るのが遅い。
だから俺たちがそこへ向かった。
ダンジョンの中に入って潰すためだ。
しかし――
――そこにはダンジョンも異変もなかった。
二件目の案件も同じ。もぬけの殻。
ある意味、異変がないのは平和でいいとも言えるが……。
ウスイさんが言う。
けげんそうな面持ちだ。
「では、御庭さんに呼ばれたわけではないのですか?」
「呼ばれたわけじゃない。アポイントは取ってないけど……」
もちろん、連絡はしたんだが――
「居るんスか? 電話にもメールにも返事がなかったっス!」
「お忙しいんでしょうか? 押しかけてご迷惑でしたら――」
ウスイさんは首を振る。
「いえいえ。少し立て込んでいまして……ご案内します」
そう言うとウスイさんは先に立って歩いていく。
立て込んでいる?
返事ができないほど忙しいんだろうか?
 




