丘の上の露天風呂の致命的な欠陥……!?
「次はトウコのリクエストで作った――」
「――お風呂っスね!」
トイレの先に風呂と脱衣所を作った。
見晴らしが悪くならないように距離は離している。
「まずは目隠しを兼ねた脱衣所だ」
「おおーっ! 本格的っス!」
大きめの棚と柵を用意した。
囲っているのは片側だけ。
反対側は丘を一望できる眺望である!
「脱衣所から風呂場へはウッドデッキになっているぞ」
「これなら足が汚れなくていいですねー」
草地を裸足で歩けば足が汚れる。
露天風呂ではあるが、室内のような清潔さを意識している。
ちなみに露天風呂の定義はこうだ。
――屋外にあって、屋根や囲いがないこと。
とはいえ普通、囲いはある。
「この先は風呂場だが――」
「おー! 結構広いっスね! これなら三人でも入れそうっス!」
説明前にフライングすな!
「最初は木桶風呂にしようかと思ったけど、こっちにしたんだ」
丸い木桶は細かいパーツが多い。
大きく作るのは難しそうだったからこうなった。
長方形の湯船である。
「旅館の露天風呂みたいっス!」
「大きいですね! ゼンジさん、これってスキルで作ってるんですよね?」
俺は大きく頷く。
「まあ、そうだ。スキルと手作業の合わせ技だな! 【木材加工】では難しすぎて【忍具作成】には大きすぎるから苦労したぜ」
【木材加工】は俺の手作業を助けてくれる。
知識や加工技術の補佐である。
【忍具作成】はスキルの力で完成品ができるが、魔石を消費する。
「忍具作成さんは大きいと難しいんでしたよね?」
「そうなんだよ。大きさや複雑さでコストが違ってくるんだ――」
俺は二人に風呂作りで苦労した点を力説する。
リンは笑顔で頷いている。
トウコは話半分で、そこらじゅうをのぞき込んだり触ったりしている。
湯船の素材には、大きな丸太から切り出した板材を使った。
大きな一枚板だ。
材料はなるべく大きなパーツを使う。
これが工夫の一つだ。
普通のヒノキ風呂だと、小さな板を組み合わせて作る。
これは高度な技術で木を継ぐのだ。
【木材加工】でやるには難しい。
そこは【忍具作成】で作ってしまう。
接合するためのパーツを作るのだ。
大きな板を接合する小さなパーツをスキルで作り出す。
こうすることで、コストを小さく、精巧なパーツを作れたのだ。
複雑なパーツとはいっても、加工の容易な木材である。
忍者刀、つまり日本刀に比べれば難易度は低い。
刀の技術力って、とんでもないからな。
俺の作った刀なんて、現実の名刀と比べたら、足元にも及ばない。
まあ、折れても曲がってもスキルで直せる強みで、無理やり使っている。
当然、頼れる相棒として気に入っているけどね。
おっと、脱線したな。
「というわけで……風呂を一発で作ろうとしたら魔石がいくつあっても足りない」
「魔石はあたしたちがたくさん取ってきたっス!」
「ああ、助かったぞ」
レベリングのついでに魔石を集めるように頼んでおいたのだ。
食べきれないほどの食材を取っても仕方がないしね。
トウコが胸をそらせて威張る。
「ははっ! もっと感謝してほしいっス! さあさあ!」
「おい、調子に乗るな! お前のリクエストした風呂を作ったんだぞ!」
トウコははにかむ。
「へへ。ちゃんと感謝してるっスよぉー。というわけでお礼に背中を流してあげるっス!」
「そんな礼はいらん!」
「じゃあたしの背中を流させてあげるっス!」
「いらん! なんで洗わせられるんだよ!?」
「じゃあ、前がイイっスか?」
「しつこい!」
「でもこのお風呂、お湯が入っていませんね?」
「そうそう! それが課題なんだよ!」
当たり前だが、風呂にはお湯が必要だ。
それがここにはないのだ!
もちろん、考えはある。
一人ではちょっと難しいけどね!




