木馬の使い道は当然アレ……?
俺たちは第四エリアを後にして、拠点へ向かうことにする。
俺は荷造りの途中だ。
伐り出した丸太のうち、形のいいものを拠点へ持ち帰る。
これは風呂の建材に使うつもりだ。
大きいまま使うので、加工せず運ぶ。
かなり重たいので運ぶには工夫が必要だ。
「ゼンジさん、なにしてるんですか?」
「丸太にヒモをかけて引きずっていこうと思ってな」
俺は丸太の片側にロープを結ぶ。
抱え上げるより、引きずっていくほうが少ない力で済む。
試しに二体の分身に引っ張らせる。
ずりずりと丸太は動くが……遅いな。
「重そうっスね?」
「うーむ。ちょっと拠点まで引っ張るには無理があるな。あ、そうだ。魔石あるか?」
狩りのついでに魔石も手に入ったはず。
リンが袋に入った魔石を差し出す。
「ありますよー。はい、どうぞ!」
「おー! けっこうあるな。助かった! これで木馬を作れる!」
リンが首をかしげる。
「きうま? どういうものですか?」
まあ、聞いたことのない言葉だよな。
俺も調べて初めて知った。
キンマとかキンバとも呼ばれるらしい。
「漢字で書いたら木の馬。木馬だ」
「木馬っスか……乗ってみたいっス!」
トウコはうきうきした表情で言う。
「多分トウコが考えてるやつじゃないぞ。揺れるやつだろ?」
「私も子供が乗るおもちゃを想像しちゃいました……」
リンもかよ!
二人が想像しているのは、ロッキングホースと呼ばれる子供用おもちゃだろう。
反った板の上に馬の形のイスが乗っている。
ゆりかごの馬版だな。
リンを乗せて揺らしてみたい気はする。
……って、なに考えてんだ俺!?
「あたしは大人が乗る三角のおもちゃを想像してみるっス!」
「してみるな! ここで三角木馬を作るわけないだろ!?」
わざと変な方向へそらすな!
「ここじゃなければ作るんスか!?」
「作らねーよ!」
リンはスルーして話を戻す。
「それで木馬って、どういうものなんですか?」
「ソリの一種で、木材を運ぶのに使う運搬具なんだが……」
知られてない道具を説明するのって、難しいんだよな。
「まあ、見てもらったほうが早い。さっそく作るぞ!」
「はーい」
「楽しみっス!」
俺は木材と魔石を材料に、作りたいものを頭に浮かべる。
――二本の長い板。
これは滑走板だ。
スキー板のように先端は上に反る。
――荷台。
左右の滑走板をつなぐ横棒みたいなものだ。
丸太や木材を乗せるので頑丈だが簡易な枠組みである。
以上! シンプル!
「では忍具作成――木馬!」
木馬は木材で作る道具。忍者が木材を運搬する道具である。
つまり忍具である。
疑いようもなく忍具!
よしいけ! 忍具作成君!
スキルが発動して、俺たちの前に木馬が完成する。
サイズがデカいだけあって、受け取った魔石はほとんど使ってしまった。
「できたぞ。これに丸太を乗せて運ぶんだ」
リンが感心したように言う。
「こういうものなんですねー」
トウコが木馬を上からのぞき込む。
「あれ? 床がないっスよ? 棒しかないっス!」
「床は要らないんだ。丸太を乗せるソリだからな」
子供が雪の日に遊ぶプラスチックの雪ソリとは違う。
「だって、これじゃ乗れないっスよ!?」
「いや、乗り物じゃないんだって。荷物を運ぶものだ」
上に木材を横たえて乗せるから床は要らないのだ。
「うぇー? 帰りはラクしようと思ったのにー!」
「むしろ、これを引っ張って帰るんだ! ラクばっかりしようとするな!」
左右に引っ張るための綱を取り付ける。
真正面や真後ろは危険だから、横から引っ張る。
お祭りのときに引っ張る山車みたいな感じでもあるな。
もちろん、引っ張るのは分身である。
分身の労働力、半端ないね!
リンが言う。
「雪じゃなくてもソリって使えるんでしょうか?」
「使えるぞ。土ソリなら泥の上を通るし、これは木ソリだな」
トウコが思いついた顔で言う。
「砂漠を通ったらサソリっスね!」
「うん。まあ、そうだな」
俺はツッコまず、スルーした。
トウコががっかりした表情を浮かべる。
「ザツっ! ちゃんとツッコんで欲しいっス!」
「話が進まないんだよ! ほら、こうやって引っ張るんだ!」
話している間に、分身に丸太を積み込ませている。
あまり満載すると危険なので、今回は少なめで様子を見る。
分身に木馬の左右から綱を引かせる。
丸太をそのまま引っ張るよりもスムーズに動いた。
「あ、ちゃんと動くっスね!」
森エリアの端なので、下はほぼ草地だ。
柔らかい土と草の上を、それなりの速度ですべるように動く。
「まあ、テストだから荷物を少なくしている。もっと乗せれそうだな」
「じゃあ、あたしが上に乗ってもいいっスか?」
トウコが木馬の上に積み上げた丸太を指さす。
俺は首を振る。
「ダメだ。丸太が崩れたら危ないだろ!?」
「へへ。心配いただきっス!」
トウコは口元を緩める。
俺は半眼でにらむ。
「お前、味を占めてわざと危険なことやろうとしてないか?」
「し、してないっス!? これは素のあたしっス!」
素で危険な行動をとるな!
「フォローになってないよ、トウコちゃん……気を付けてね」
「はは……気を付けるっス!」
トウコは白い歯を出して、悪びれずに笑った。
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