スローライフは伐倒で! 盾とは板であり忍具である!?
木を切るのはモンスターと戦うことにも似ている。
どう斬り込むか。
位置取りをどうするか。
どう打てばどう倒れるか。
安全な位置はどちらか。
そんなことを考えながら次々に伐倒していく。
ときにはモンスターも襲撃してくる。
切り倒そうとする木の上からスライムが降ってくる。
音を聞きつけてシカが走り出てくる。
だが、どちらもオノやノコギリを手にした多数の分身の前には無力だ。
分身がやられても、追加すればいいだけ。
分身が戦っている間、俺は【隠密】で気配を消していればいいのだ。
負ける要素がない!
むしろドロップアイテムが手に入って儲かるね!
俺にとっては魔石が当たりである。
「おっ!?」
【自律分身の術】が解けた。
もう効果時間が過ぎたようだ。
作業に没頭していると時間が経つのが早い。
読み取った記憶によれば、ここまで順調に進んでいる。
第五エリアの端まで行って前回の偵察に使った道具を回収した。
放置して消えるのはもったいないから、最後に置いておいたのだ。
俺は道具を使い捨てにしない。
新しいボスも湧いていないし、二人の調子も悪くない。
六階層へは進まずに五階層でシカを狩っているようだ。
危なげなく敵を倒している。
あっちも順調だ!
「伐倒はもう充分だな。次は倒した木の処理をするか!」
ちゃんとやろうと思ったらいろいろと手順はある。
枝葉を落として丸太状に切って、形をそろえる。
形や曲がりを考慮して、用途に合わせたサイズに切っていく。
これを玉切りと言う。
でもそんな工程、俺には必要ない。
ある程度のサイズに切るだけでいいのだ。
伐倒の段階で木が裂けたりしているし、太さも不揃いだ。
だが、全然気にしない。
木材を売って林業で生計を立てようってわけじゃないからな。
見栄えの問題もない。
最後の加工はスキルで行うからだ!
「――忍具作成! 作るのは盾だ!」
用意しておいた魔石と、丸太を材料にスキルを発動。
生み出すのは――盾。
別に盾が欲しいわけじゃない。
欲しいのは板であったり、加工された木材だ。
だがしかし、問題がある。
いくらなんでも、板は忍具じゃない。
【忍具作成】は忍具しかつくれない。
あるいは――俺自身が忍者道具だと認識しないとダメだ。
段階を踏んでいかないとな。
……というわけで、加工した板に近い忍具を作る!
まず、盾は忍具と言っていいだろう。
盾は古来から日本に存在する。
古事記にも書かれている。日本書紀にも書かれている。
忍者が使っていたかどうかはさておき、そうなのだ。
昔からあるなら忍者も使ったに違いない!
そうだろ? 【忍具作成】君!?
俺の無理のある思い込みにスキルが反応し――丸太と魔石が発光する。
どうやら、忍具作成君は納得してくれたようである!
光が収まると、丸太が木製の盾に変わる。
完成だ!
俺がイメージしたのは円形の盾じゃない。
長方形の盾――タワーシールドだ。
手ごろな長さの長い板をつなぎ合わせたような、戸板のようなもの。
防御力は度外視。
とにかく板っぽいものができあがったのだ!
これでよし!
盾は板である!
さらに丸太を材料に盾を作っていく。
一枚の板でも、細長い木材でも、こういうのは盾であり忍具である!
いくつかの盾を作成した俺は、単なる木材すらも作成可能になっていた。
木材は忍具である!
前にはテーブルを作ったこともある。
忍具作成台だ。
プレゼント用に紙のチケットを作ったりもした。
こうして既成事実を積み上げてしまえば、スキルの限界を超えていけるのだ!
やましいことはない!
忍具を作ってるだけだ!
加工のすべてをスキルで行うと、魔石の消費が激しい。
「デカいパーツはコストが高いから、まず大雑把に切ってから……」
一本の倒木から作るより、カットした丸太のほうが安い。
さらに小さく、板状に加工してからスキルを使えばなお良い。
拠点になら充分な魔石があるけど、全部持ってきてはいない。
まあ、たくさんあるからって無駄遣いする気はないけど。
「持ってきた魔石はなくなったな。あとは拠点で作業するか!」
残りの木材は持ち帰る。
もちろん、丸太を担いで持っていくのは大変だ。
車や重機は使えない。
人力とスキルが頼りだ。
ひもをかけて引きずって帰ればいいだろう。
持ち上げて運ぶよりずっと労力が少ないはずだ。
手押し車やソリを作るのもいいな。
そんなことを考えていると、二人が帰ってきた。
「おー!? ずいぶん切ったっスね、店長!」
「わあ! すごいですね!」
「お、いいところに帰ってきたな! どうだった?」
「順調っス! レベルも上がったっス!」
「食べ物もたくさん取れましたー!」
二人の成果もばっちりだったようだ!
 




