様々な可能性と、シンプルな回答!
トウコをもとに戻す方法はいろいろ考えられる。
まずは時間切れ。
これは確実じゃない。
どれだけ待てばいいかわからない。
だが俺たちには時間がない。
トウコのキッチンは絶賛炎上中だ。
物理的に燃え上がっている!
早く外に出て消化しないと火事になってしまう。
冷蔵庫が燃えたら、中の俺たちはどうなるかわかったものじゃない。
魔力切れ。
これは期待できない。
魔力によって【復活】や【狂化】しているとは限らないからだ。
愛と希望でトウコを目覚めさせる?
真実の愛とか熱いキスで魔法が解けるって?
ないない。
それで治るなら自律分身がもうやっている。
トウコの意識はない。理性を失っているのだ。
トウコを倒す手もある。
復活できないように倒せばいい。
トウコはゾンビの職業を持っている。
なら、ゾンビと同じように倒せるはずだ。
頭部を完全破壊すればいい。
もちろん、そんなことをするつもりはない。
腐ってもトウコである。
【忍具収納】にある状態異常回復薬を試すのもいい。
スキルの効果が状態異常と言えるかは試さないとわからない。
単なるバッドステータスとは言えないから、効かない気はするが試す価値はある。
だが、窓女との戦闘中に使うわけにいかない。
仮にポーションが効いたら、トウコが無防備な状態になってしまう。
結局、シンプルな解決方法だ。
窓女を倒す!
俺はリンと自律分身へ作戦を伝える。
窓女もしょせんはモンスターだ。
無敵でもなければボスでもない。
ただデカいだけ。
「リンは窓女をどうイメージした?」
「大きくって、強いって……。あっ!? もしかして私がそう考えたからこんなことに……」
「いや、気にするな。俺とトウコのイメージも反映されている」
壁を這うかもしれない。
幽霊のように浮く可能性もある。
窓女がモンスターとして具現化したきっかけは室外の霧だ。
あのとき、俺とトウコのイメージも反映されただろう。
だが一番強いイメージはリンのものだ。
でも、最強無敵の倒せない敵というイメージではない。
ないはずだ。
「どれくらい強いと思ったんだ? 俺より強いと思うか?」
リンは首を振る。
そして当然のように言う。
「いえ、そんなはずありません! だって、ゼンジさんが勝ったんですよね?」
リンは強敵だと言った俺の言葉を信じた。
だから、窓女は強い。
だけどそれ以上に、リンは俺の強さを過大評価している。
俺が負けるイメージはない。
「そうだ。倒した。つまり、アレは俺より弱い、背が高いだけの窓女だ」
「えーと……そうなるんでしょうか……?」
過大評価した俺より弱い、という程度のもの。
つまり、倒せる相手だ。
リンのイメージする俺の強さが、ちょっと読めない。
まあ、イメージした分だけ敵が強くなるとも限らないからな。
「倒せる。自律もいるから俺は二人いる。リンもいる。ああなっちゃいるけど、トウコだって戦うだろ?」
「そうですよね! じゃあ、やっつけちゃいましょう!」
俺は館の外壁を走る。
「うお、外から見るとデカいな!」
当たり前だが、窓女には顔と腕以外もそろっている。
ちゃんと全身あるんだな……。
見た目は俺が戦った壁を這う窓女と似ている。
白いぼろ布を身にまとっていて、手足が長い。
だが、外から見た窓女は想像以上にデカい。
建物の二階よりなお高いその長身。
巨人と言ってもいいだろう。
巨大な窓女は片手を窓に突き入れ、中を覗き込んでいる。
壁面の俺には気づいていない。
室内から銃声が聞こえる。
トウコが応戦している。
弾丸が顔面に命中し、窓女が顔を押さえてのけぞる。
そこへ俺は渾身の力でナタを投擲する。
狙いは目玉。
槍の突き立っていない、残った目玉だ。
「……アガッ!?」
命中。
目を押さえて窓女がよろける。
これで両目を破壊した。
もはや、窓女は何も見えない。
だが安心はできない。気は抜かない。
バケモノが目を使って周囲を見ているとはかぎらないのだ。
俺は壁面で、自律分身から受け取った鉈鎌を抜き放つ。
そして、機が熟するのを待つ。
バルコニーに立つリンは魔法の準備を終えている。
手の中で、火球が大きくなっていく。
「――ファイアボールっ!」
放たれた火球が闇を照らしながら飛ぶ。
狙いたがわず、窓女の顔面にぶち当たる。
「ハ……ァァ!?」
窓女が顔を押さえて叫ぶ。
炎は消えず、そのまま頭部を炎に包みこむ。
「ハハッ! アハはは!」
トウコが笑い声を上げながら、窓から銃を撃ちまくる。
銃を撃ち尽くしたトウコはそれを投げ捨てると、窓から飛び降りる。
着地したトウコは、窓女の白い足に飛びつき、かじりつく。
うめき声をあげ、窓女は足元のトウコへ手を伸ばす。
チャンス!
窓女はかがみこんでいる。
後頭部ががら空きだ!
俺は壁を蹴って空中へ。
回転する力を打撃力へ変えて、鉈鎌の峰をぶち当てる。
「うりゃあっ!」
【フルスイング】が発動。
窓女の頭部へノックバック効果が生まれる。
上から横回転して叩きつけた力は、下へと向かう。
大きく体勢を崩した窓女は顔面から地面へと倒れこむ。
「燃えちゃえーっ!」
リンがさらに火球を放つ。
窓女のまとうぼろ布が燃えがる。
それだけではない。
さらに放った炎が、中庭の花壇を、植え込みを燃え上がらせる。
中庭が炎で明るく照らされる。
熱が生み出した上昇気流が霧を吹き払う。
俺は壁に手を伸ばし、建物の壁面へと着地する。
「作戦通りだな! これで明るくなった!」
このダンジョンは暗闇では力を増す。
妙な不運が続いて、敵の湧きも激しくなる。
リンの炎なら、闇も霧も問題にならない!
トウコが、倒れた窓女の頭部へと駆け寄っていく。
窓女は炎にまかれているが、トウコはひるまない。
大口を開けて、鋭い牙を立てる。
「らァァ!」
「アアア……!」
窓女がかすれた悲鳴を上げる。
そして、その声が途切れる。
窓女の巨体が塵へと変わって崩れ落ちる。
トウコが大きな笑い声をあげる。
「あはッ! ははハハハッ!」
トウコは窓女の魔石を拾うと、口に入れて咀嚼した。
バルコニーでリンが歓声を上げる。
「やった! 作戦通りに行きましたね!」
「まて、まだ終わってない!」
バルコニーから身を乗り出しているリンを、自律分身が引き戻す。
「うああァッ!?」
トウコがバルコニーに銃を向ける。
【狂化】は解除されていない!
ここからが本番だ!
祝! 五百話!




