怪獣大戦争勃発!?
俺たちは二階へ向かった。
寝室からは激しい戦闘の音が聞こえている。
俺は寝室のドアをくぐる。
「トウコ! 無事か……!?」
寝室に踏み込んだ俺は絶句する。
まず見えたのは、窓の外の巨大な女。
片目には槍が突き立って、閉じられている。
残った眼がぎょろりと俺をにらむ。
だが俺が驚いたのはこちらではない。
リンは愕然とした顔で言う。
「と、トウコちゃん?……トウコちゃんなの!?」
生きている。
だが、正常な状態とは思えない。
トウコは呼びかけには答えず、獣じみた叫び声を上げる。
「――ウゥああッ!」
目は赤く変色し、むき出した犬歯は鋭い。
白髪に変わった髪を振り乱して唸っている。
まるで……だが、やはりトウコだ。
その手にはショットガンが握られている。
銃口が火を噴く。ほぼ同時に二発。
散弾が窓女の腕に着弾する。
白い腕の肉がはじけて白い靄となって飛び散る。
「ハハ……」
窓女は窓の外で乾いた声を上げると、腕で部屋の中をなぎ払う。
「――ウあァ!」
トウコが跳ね飛ばされる。
だが壁に叩きつけられる直前で姿勢を変えて壁に着地する。
バネのようにたわめた足を踏み切って、弾丸のように跳ぶ。
その先には振りぬかれた白い腕。
そこへ勢いよく、ショットガンを叩きつける。
鈍い打撃音。
その衝撃でショットガンは砕け、塵となって散る。
トウコの動きは止まらない。
両腕で窓女の腕にしがみつく。
「らあアァ!」
トウコは大口を開ける。
そして、窓女の腕にかじりつく。
「ア……!」
窓女がかすれたような悲鳴を上げる。
トウコは白い腕の肉を噛みちぎると、それを咀嚼する。
窓女は傷ついた腕をめちゃくちゃに振りまわす。
トウコは腕を離れて、回転しながら着地。
新たなショットガンを手の中に生み出す。
銃を窓女の顔面へと向けると、トウコは笑い声をあげた。
「ははッ! アハははッ!」
その表情は……狂喜だ。
一片の恐れも、ためらいもない。
ただ戦いを楽しんでいるようだ。
自律分身がバルコニーから叫んでいる。
「おい、俺! トウコは【狂化】してる!」
「ああ……そうか。【復活】したんだな!?」
「そうだ! 近づくなよ!」
――【復活】!
トウコがダンジョンの外に出てこなかったのは、このせいだ。
死んでいないから、じゃなかった。
死んだあと、スキルの効果で復活したんだ。
そして、死亡をきっかけにして【狂化】が発動した。
「トウコちゃん! 私だよ! ゼンジさんもいるよ!」
リンが声を張り上げるが、トウコは振り向きもしない。
窓女との戦いを続けている。
自律分身が言う。
「俺もさっきから話しかけているが、反応はない。近づくと攻撃されるから気をつけろ!」
「そ、そんな……」
リンは肩を落とす。
「こっちに回り込めるか!?」と自律分身。
「ああ、ちょっと待ってろ!」と俺。
部屋にはトウコがいる。
すり抜けてバルコニー側へ行くのは難しい。
近づけば、俺たちもトウコに攻撃されるだろう。
自律分身がそうだと言ったなら、俺は信じる。
「でも、トウコちゃんが……!」
リンは暴れまわっているトウコを心配そうに見ている。
トウコは今も血だらけで戦っている。
ケガなど恐れない捨て身の戦い方。
俺は振り切るようにトウコから視線を外して、リンに言う。
「今、してやれることはない! まずは自律と合流して作戦を立てる! いくぞ、リン!」
「は、はいっ!」
俺はリンの手を引いて廊下を走る。
別ルートから回り込む。
すでに次のウェーブが始まっている。
道中のゾンビを蹴散らし、自律分身のいるバルコニーへ入った。
バルコニーの入口には判断分身が一体、槍を構えている。
二体はやられてしまったようだ。
自律分身が言う。
「来たか!」
「おう! 状況を教えてくれ!」
そう言いながら俺は新たな分身を生み出して、転がっていた槍を持たせる。
もう一本の槍は窓女の目に突き立ったままだ。
「まず、お前が死んで――」
自律分身は状況を語り始める。
俺は話を聞きながら、バルコニーのハーブで薬を作って傷を癒す。