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幽霊の正体見たり、窓女!

 窓の外で白い顔が笑っている。


 口は耳元まで裂けている。

 血走った眼玉が、ぎょろぎょろと室内を探している。


 その目が尻もちをついて倒れているリンを見つけて止まる。


 巨大な女……窓女が顔をくしゃりと歪める。

 裂けた口から空気のような音が漏れる。


「……ハ……ハハ……」


 これは……笑っているんだ。

 陰気な笑みが、耳まで裂けた口をさらに吊りあげる。


 なんなんだ、こいつは……?

 俺はそれを、あっけに取られて見入っている。


 二階に届くほどの巨体。

 巨体に見合った腕力。


「トウコ、無事か!? 返事をしろっ!」


 だが返事がない。

 さっきから、倒れたまま動かない。



 どうする……!?

 いや……考えるな! 動け……!


 動かすのは頭じゃなくて体だ!


 俺は叫ぶ。


「――リン! 立て! 下がれっ!」

「あっ……ああ」


 リンは立ち上がろうとして、動けずにいる。


 窓の外で窓女が動く。

 逆側の手を突き入れようとしている!


 トウコはまだ倒れたままだ。

 リンは座ったままじりじりと後ずさっている。


 【危険察知】がうるさいほどに反応している。


 落ち着け……! 心を乱すな!


 俺は危機感を振り払うように、術に集中する。

 窓の外から巨大な手のひらがリンを掴もうと伸ばされる。


「――入れ替えの術!」


 術が発動してリンを後方へ送る。

 さらに分身を操作して槍を構えて窓女へと走らせた。


 だが、分身は間に合わない。

 巨大な腕は、もう俺の目の前だ。


 俺は回避するために足に力を入れて、【回避】で安全地帯を探る。


 安全な場所――回避する余地は――ない。

 避けることはできない!


 巨大な腕が俺の視界いっぱいに迫り――

 俺の意識は一撃で刈り取られた。




「あぐっ……!」


 俺は背中をしたたかに打ち付けて、うめき声を上げる。


 ……ここは?


 俺は周囲を見回す。


 ……トウコの家のキッチンだ。

 もう館の中ではない。


 巨大窓女の一撃で俺は死に、冷蔵庫の前に排出されたんだ。

 吐き気と混乱が俺を襲う。


 心臓がばくばくと脈打つ。

 冷や汗が流れて、呼吸が苦しい。



「落ち着け……もう大丈夫だ」


 やっぱり死ぬってのは……こたえる。

 なかなか慣れない。



 俺はよろよろと立ち上がり、考える。


 さっきのは……なんだ?

 窓の外に急に現れたように思える。


 巨大な……窓の外に立つ女。

 モンスターでしかありえない。


 だが、これまで何度も繰り返した冷蔵庫ダンジョンの攻略で現れたことはない。


 ダンジョンの悪性化が進んだのか……?

 いや、そうならないために間引きしにきたんだ。


 まだ、そうなってはいない。



 なら、違いはなんだ?


 リン?

 いや、前回もリンは参加していた。


 場所か?

 二階の寝室。何度も戦った場所だ。


 窓? 窓が割れたことか?

 それから……何があった?


 なにを話してたっけ……?

 窓女。二階。強敵。大きい。


 リンがおびえて――


「ああ! まさか、思い込みのせいなのか……!?」


 だけど思い込みやイメージで、モンスターが変わったりするか?

 スキルなら、そういうことはある。


 俺のダンジョンではモンスターはイメージで変化したりしない。

 だが……このダンジョンだったら、どうだ?

 冷蔵庫では……あり得るかもしれない。



 俺がはじめてこのダンジョンに潜ったとき、トウコは窓の外に女が見えたと言った。

 二階なのに、と。


 あとで俺が窓女と戦った話をしたとき、俺の話を意外そうに聞いていた。

 トウコは幽霊みたいだと思っていたと言ったんだ。

 宙に浮いているとでも思ったのかもしれない。



 あのとき俺は、窓女を幽霊だと考えなかった。


 話を聞いて、()()()()()二階の窓からでものぞき込めると思った。

 つまり俺は、壁を()う窓女を想像したんだ!



 リンが想像したのは、また違う。

 二階に届くほどの大きさだと考えた。


 さらに俺が、窓女はいると言ってしまった。

 強敵だ、と言ったんだ。


 俺が強敵だと考えるような、大きな敵。


 リンはそのたぐいまれなる想像力と魔法の力を強めるほどのイメージ力で、そう思い込んだ。


 そうか……これが巨大窓女の正体だ。


「はあ……マジかよ」


 そして窓女の出現には、おそらく複数の条件がある。


 まず、霧だ。


 室内では急に新しいモンスターが現れたりしない。

 霧の立ち込める外に出たときだ。

 あるいは、霧が吹きこんでいる場所。


 そして二つ目は想像力。

 俺たちが頭で考えた内容だ。



 この二つの条件がそろうと、俺たちが考えた敵が具現化する。


 たとえば――

 俺が過去の攻略で屋外に出たとき、ゾンビがたくさん湧くと想像したことがある。

 そのときは妙にゾンビの数が多くなった。



 地下倉庫には目なし女がいる。

 ここも地下とはいえ、屋外に接している。

 霧も流れ込んでいるだろう。


 目なし女はトウコには何もしない。

 無視するように、遠巻きにするだけだ。


 トウコの想像。あるいは恐れる対象を反映しているのかもしれない。

 学校や家で無視されたり、ないがしろにされることを恐れているのかもな。


 俺の場合、目なし女は誘惑するように絡みついてくる。

 ……これは、なんだろう?



「ふう。落ち着いてきたな。リンとトウコが出てこないな……」


 考えもまとまったし、死亡の混乱からも立ち直った。

 だが、二人は出てこない。


 まだ中で戦っているなら、待っていても仕方がないだろう。


 なら、もう一度中に入るか!

死亡回、反省回は不人気だけど……!?

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 俺のイメージので変化することはなかった。
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