冷蔵庫ダンジョンの間引き!
「なんだかもう眠いっス……」
「今日はよく歩いたし、おなか一杯になったからねー」
トウコが疲れたのは、水かけ祭りでハシャギすぎたからだろう。
結果、【火魔法】は水に濡れた体でも問題なく発動できた。
「よし、今日はこれくらいにするか!」
俺たちは探索を切り上げた。
俺は自宅に戻り風呂を済ませてベットに倒れ込んだ。
「ふー。疲れた」
トウコは今日もリンの部屋に泊まるという。
冬休み中だし、問題ないだろう。
今日は収穫の多い探索ができたな。
森エリアを発見して、そのまま第四エリアまで進んだ。
自律分身の偵察では第五エリアを突き抜けて、第六エリアの入口まで見た。
この先も森が続いている。
戦利品の一部はクラフトした。毒や薬だ。
これはまだ試していないので、おいおい試していこう。
それに、まだ調べていないアイテムもある。
『角鹿の角』と『角鹿の皮』だな。
毒や薬、装備品が作れるだろう。
だが今日は俺も疲れた。
……ハシャギすぎたからではない。
――翌日。
トウコの家。
俺たちは装備を整えて冷蔵庫の前に集まっている。
「さて、準備はいいか?」
俺の装備は現実の品だ。
忍び装束ではなく動きやすい洋服に腰袋。
ナタ、クギ、防刃手袋という職人スタイル。
「はい!」
リンはトレーニングウェア姿だ。
料理道具や調味料は持ち込まない。持ち込ませない。
本人は持っていこうとしていたが、俺が止めたのだ。
ゾンビ料理は食べたくない!
「オッケーっス!」
トウコは現代風のミリタリー装備に身を包んでいる。
半袖半ズボンの戦闘服。グリーン系。
タクティカルベルトにホルスター二個。
脚にはショットガン用ホルスター。
しっかりしたブーツ。
「よし、じゃあいくぞ!」
「はい。手をつないでいきましょう!」
リンが俺の手を取る。
トウコが逆の手を取る。
「あたしもあたしも! リン姉も!」
トウコが開いてる手でリンの手を取る。
「……全員の手がふさがったじゃねーか」
俺は冷蔵庫の下段、引き出しておいた冷凍庫に足を突っ込んだ。
暗転。
見慣れた冷蔵庫ダンジョンの中に俺たちは立っている。
エントランスホールだ。
「よし。んじゃ準備してすぐ取り掛かるぞ!」
「りょ!」
目的は間引きだ。
適当に敵を倒してボスを倒して出る。
かんたんなお仕事だぜ。
リンは不安げにきょろきょろとホールを見渡している。
すでにゾンビが現れて、うめき声をあげている。
リンはまだ俺の手を放していない。
「……うう、やっぱりここはちょっと怖いですねー」
「そうだな。無理せず後ろにいていいぞ」
リンは頷く。
「はい。ありがとうございます。でも、がんばりますね!」
一方、トウコは平然としている。
「あたしはもう慣れたっス! 一匹め、もらいっ!」
現れたゾンビを射殺する。
あっさりとゾンビは倒れる。
その頭部へさらに弾丸を撃ち込んで、ドロップの銃弾を回収する。
「いっちょあがり! リロードっス」
トウコのダンジョンだけあって、手慣れたものだ。
何度もここで死んでいるから、死ぬことにも慣れている。
慣れてしまっている。
俺も、それほど死を恐れていない。
このダンジョンで何回か死んだ経験もあるが、それだけじゃない。
俺は【自律分身の術】を使うとき疑似的な死を体験している。
自分が消えるという感覚だ。
自律分身は俺自身と同じようなものだ。
消えるときの感覚は、なかなか慣れない。
その記憶を受け取って、俺は前へ進んできた。
「――自律分身の術!」
さっそく切り札を使う。
このダンジョンでは温存しなくていい。
「よう、俺。んじゃ、地下倉庫で装備を集めてくるわ」
「よう、俺。まかせる」
自律分身はホールから屋外へ出ていく。
その手にはライターとロウソク。暗い場所も問題ない。
地下倉庫にはシャベルや鉈鎌。マチェットがある。
最速で行けば、モンスターに邪魔されずに手に入る。
自律分身を見送ったトウコは疑問を口にする。
「あれ? 店長二号の分の武器は用意してないんスか?」
「忍具収納に入れられる数には限りがあるからな。今回持ってきたのは槍だ」
俺は収納から十文字短槍を三本取り出して、トウコに見せる。
「あれ? カタナは使わないんスか?」
「刀はロストしたくないから、ここでは使わない」
冷蔵庫ダンジョンへは現実の装備を持ち込める。
壊れても失くしても、外に出れば入場時の状態に復元される。
でも収納の中身は別ルールだ。
中で壊れたら、そのまま。
さらに、置いて外へ出れば戻ってこない。
つまり、収納の中身を出したまま死んでダンジョンから出されたら――
「収納の中身がなくなっちゃうんですよね?」
「リン、正解。だから槍とポーション二種を持ってきている」
「へー。そうなんスねー! ――うらっ!」
そう言うとトウコは二階から現れたゾンビを撃ち抜く。
命中。階段を転げ落ちたゾンビが塵に変わる。
「分身の術! スキル調整バージョン!」
俺は三体の分身を生み出し、槍を手渡す。
この【分身の術】はスキル調整をかけたものだ。
二種類の調整を行っている。
この二種類は併用可能だ。
まずは【分身の術】の調整によって、時間を延長。
さらに【忍術】のスキル調整。距離と発動を下げて、消費を上げる。
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【分身の術】
威力 :
距離 :-
発動 :-
時間 :+
CD :
消費 :+
--------------------
距離は俺の体から離れた距離に影響する。
発動は、スキルが発動するまでの時間だ。
どちらも事前に出しておく場合にはデメリットにならない。
ずらりと並んだ三体の分身。そして突き出した槍。
ゾンビに対しては効果的だろう!
「わあー! すごく頼りになりますね!」
「勝ち確っスねー!」
有利ではあるが、絶対はない。
「油断せずやるぞ」
「最初のときから分身をたくさん使えばよかったんじゃないっスか?」
トウコが言うことは正しい。
【分身の術】を連発すればこのダンジョンの攻略はたやすい。
だが、初めて来たときはそれができなかった。
当たり前だが、手を抜いていたわけじゃない。
最初の攻略では魔力を節約して戦う必要があったのだ。
今はスキル調整のおかげでコストが低くなっているから術を連発できる。
それに、ボスを倒せば脱出できることもわかっている。
「あのときは脱出方法がわからなかったからな。戦い方も違ってくるんだ。武器も装備もなかったろ?」
「あ、そっスね! 靴やホルスターがあるとだいぶ楽っス」
装備があるだけでも、攻略の難易度が違ってくる。
さらにトウコのレベル上げや弾丸稼ぎなども手探りでやってたからな。
「今はトウコのレベルも違うし、スキルも育ってるだろ?」
トウコが納得顔で頷く。
「たしかにそうっス!」
「今回はリンもいる。二回目だし、リンも慣れてきただろ?」
前回は怖がりすぎて失禁までしていたからな……。
恐怖が突き抜けて、ゾンビをゴブリンだと思い込んだ状態だ。
今回は問題ないといいが……。
リンは自信なさげな表情で言う。
「はい……大丈夫です。たぶん……」
「リン姉もいるし、あたしも必殺技があるっス! 余裕っスね!」
今回もリンは怖がりすぎ、トウコは油断しすぎている……。
うーむ。
生まれ持った気質というのはそうそう治らないな。
俺が細かすぎるのだって、死んでも治らない。
今回はもっと、大胆に戦ってみるか?
そうだな。それもいい。
復活があるし。
「じゃ、弾を集めたら、さっさとボスを倒しちまおうぜ!」
「は、はーい」
「リョーカイっス!」
ここでなら思いっきり戦える!




