自律分身の記憶――第五エリアの偵察結果!
赤色キノコは鍋に入れてもおいしい。
口に入れて噛みしめると、よだれがあふれる。
味が濃いというよりはうま味が濃い。
味が舌に張り付くような感じ。
さらにその状態で別の食材を口に入れると、その味すら増すような……。
ヤバすぎる! 美味すぎる!
「店長……顔がゆるんでるっス!」
「おいしそうに食べてくれてうれしいですね!」
おっと。
キノコに夢中になりすぎた!
俺は咳払いして話題を変える。
「ああ、そういえば自律分身の偵察結果を話すぞ」
「お、そういえばもう時間っスね」
「どうでしたか、ゼンジさん?」
俺は考えをまとめながら話す。
「まず、第五エリアは引き続き森だった。まあ、第四エリアから見えてたからな」
「そうですね」
「霧も出てたっス」
「奥に行っても同じだな。濃くはないけど、遠くは見えない感じだ」
「モンスターさんはどうでしたか?」
「住んでるモンスターも変わらない。シカとスライムだ。シカはニ体か三体でまとまっている」
「ボスの前に第四エリアで戦ったヤツっスね!」
「そうそう。で、シカとスライムは争うことがある。自律が見たときはシカがスライムを食ってたらしい」
「えー? 口に入れたら大変なことになるっス!」
スライムは酸性の消化液のようなもので触れたものを溶かしてしまう。
洋服だけ溶かすようなやさしいものじゃない。
生きた人間の肉を傷つけるのに充分な強さだ。
「トウコちゃん、食べようとして失敗しちゃったよねー」
「そうっス! 逆に食べられちゃうかと思ったっスよ!」
「で、シカがどうやるか、だが……ムリヤリ食ってた」
「はぁ? なんスかそれ」
トウコはあきれた顔になる。
「我慢して食ってたってことだ。口を焼かれてでも食うんだな」
「シカさん……すごいですね」
リンは感心する。
「すごいっていうか、なにも考えてなさそうだけどな」
「そんなので、消化できるんスかね? あたしのときは、ノドをやられそうだったっス」
「噛んで核を壊してるようだったな。粘液を食ってるわけじゃない」
「我慢すれば、あたしも食べられるんスかねえ? やらないっスけど!」
「うん。やめとけ!」
「シカさんは核を食べてるんでしょうか?」
「そうだと思う。シカがしばらく口を動かすと粘液のほうは塵になって消えてた」
「あたしが魔石食べるときは、口の中でふわっと消えちゃうっス」
「シカの口の中で核はそうやって吸収されているのかも。【捕食】の効果でさ」
口の外にある粘液は吸収されずに塵になって散る。
まあ、想像でしかないけど。
「そうなんですねー」
俺は話を続ける。
「ちなみにボス個体には出会わなかった。俺たちが倒したからな」
第五エリアにいたボスは四階層まで入ってきた。
二匹目のボスはいないのだ。
「すぐにはリポしないんスねー!」
「それは残念ですー」
リンは眉を寄せる。
戦いたいってことじゃなくて、ドロップの肉が手に入らないからだな。
「俺のダンジョンだと、ボスコウモリは三日おきにリポップしてた。ここでも毎日は湧かないんじゃないかな?」
「でも、もしかしたら生まれるかもしれません! 明日にでも様子を見に行きましょう!」
「そうっスね!」
二人のやる気がすごい。
だけど明日は予定がある。
「いいけど、明日は冷蔵庫の間引きに行くぞ」
「そのあと、ここの第五エリアへ来ればいいっス! あと、キノコも!」
トウコの言葉にリンも頷く。
「場所は覚えているので大丈夫です。すぐ生えるんでしょうか?」
「普通なら、すぐには育たないと思う……でもダンジョンだからわからんな」
キノコって水だけあれば育つんだっけ……?
俺はキノコ博士じゃないからわからない。
「肥料をあげたらどうでしょうか?」
「うーん。魔石をまくってことか? やってみる価値はあるよな」
「やってみるっス!」
おっと。食べ物の話になるとすぐ脱線する。
俺は偵察結果に話を戻す。
「でだな……第五エリアの森には小川が流れている。歩いて渡れるくらい浅い。ちなみに魚はいなかった」
「そうですかー……残念ですねー」
たしかに、残念である。
美味しい魚料理を食べられたかもしれない。
「川にモンスターはいないんスか?」
俺は首を振る。
「いない。小川沿いに歩いたが、生き物もモンスターも見かけなかった。俺のダンジョンにも水場はあるけど、同じだな」
地底湖にも魚やモンスターはいなかった。
「キノコや花畑はありましたか?」
「花畑は見かけなかった。キノコはチェックしていない。自律の記憶にはなかったな」
自律分身の記憶は、意識して残そうとしたこと以外は曖昧になる。
強い印象を持ったものしか残らない。
「えぇー? なんでキノコチェックしてないんスかー!」
「無理言うな。キノコを見つけたのは自律分身を出した後だろ? あっちの俺はキノコを知らないんだよ」
「そうでしたねー。それに、分身さんは一人で大変でしょうし」
「隠れながら進むから、あまり余裕はなかったな」
自律分身は索敵したり隠れたりと忙しいのだ。
なにしろスキルがないから【隠密】できない。
だから、自力でこそこそと動いているのだ。
それに頭上からは、いつスライムが襲ってくるかわからない。
かなり慎重に進む必要があったんだ。
その時点で存在を知らなかったキノコになんて注意は向けていない。
「で、店長二号は戦ったんスか?」
「スライムだけな。シカはやりすごした」
シカは目立つので、先に発見できる。
自律分身は大きく迂回することで接敵を避けた。
戦闘はスライム相手に数回だけ。
被弾はない。
「分身さんは無事だったんですよね?」
「ああ、無事だったよ。時間いっぱいまで探索して、第六エリアまでたどり着いたぞ」
そう。自律分身は第五エリアのついでに、第六エリアまで調査してきたのだ!
さすが自律!




