薬漬けのダンジョン攻略? そんなものは望まない!
さて、作成可能な薬のリストのもう一方を見ていこう。
「士気高揚薬って、ハイになる薬か? ヤバくね?」
キノコっていうのは古来から呪いや薬に使われてきた。
宗教の儀式とか、シャーマニズムとか。
このキノコはそういうのに使えるってことだよな?
北欧のヴァイキングもキノコでパワーアップとかやってたよな。
「しかし……これって、気軽に使っていいもんか?」
ダンジョンの攻略をしていると恐怖や痛みを感じることがある。
冷蔵庫ダンジョンでは実際に死ぬこともある。
これはかなり精神に来るものだし、すぐに立ち直るのは難しい。
そんなときに、この薬を使えば……。
たぶん、効果はあるだろう。
でもな……薬に頼っていいんだろうか。
どうしようもない状態であれば、悪くない選択かもしれない。
だけど、なにか違う気がする。
忍者だって毒も薬も利用している。
医薬品として似たような効果の薬も処方されることがあるだろう。
悪いことじゃない。
だけど、ダンジョン攻略では?
俺が使う場合はどうだ?
薬漬けでの攻略はダメだ。
特に、精神に作用するようなものはダメ。
薬に依存して、それがないと戦えなくなったら嫌だからね。
あくまで俺はストイックにダンジョンに向き合う。
チートなし。
自分の力で戦う。
よし! この薬は使わない!
俺はそう決める。
自ら可能性を狭めているとしても、これはしょうがない。
こんな薬に頼っていては、今後の攻略は続けられないだろう。
俺は士気高揚薬は作らないと決めた。
無毒化していない赤色キノコは残り一本。
次は【毒術】だ。
【薬術】と同じようにスキル調整で威力を高める。
作成可能リストは――
――視覚阻害毒
――嘔吐毒
威力を上げてもリストは変わらないようだ。
どっちを作ろうか?
まあ、もう心は決まっているんだけど。
嘔吐毒は使いたくないんだよな。
だって、吐くんだぜ?
自分が吐くわけじゃないけど、見るのも嫌だ。
ゴブリンなりシカなりがげーげー吐いてるスキに攻撃する?
そりゃニンジャなんだから汚い手も使うさ!
しかし物理的に汚いのはちょっと……。
スキを作るなら麻痺毒で充分だ。
それに嘔吐毒は『アカシアの枝』でも作れるし、もう作った。
でも、まだ使ったことがない。
結局のところ使いどころが難しいんだよな。
と言うわけで作るのは目つぶしである。
「毒術! ――視覚阻害毒を液体で!」
器の上に毒液が作成される。
どろりとしたその液体を小瓶に移す。
ラベルを貼って、薬と混ざらないようにする。
これで毒のあるキノコはなくなった。
一応、無毒化されている赤色キノコを試してみるか。
できないと予想するが、試す意味はある。
【薬術】と【毒術】を試してみる。
「……やっぱ無理か」
無毒化すると毒にも薬にもならないらしい。
できないことがわかるのも進歩である!
さて、作った毒と薬を試そうか。
しかし、暗視薬を試すには草原ダンジョンだと明るすぎる。
暗い場所じゃないとな。
目つぶし毒にしても、実験相手が必要だ。
スライムは視覚があるかあやしい。
ウサギは逃げる。シカはじっとしていない。
となればゴブリン君である!
ならば、試験場は俺のダンジョンだ。
普通ならクラフトしたアイテムはダンジョン外へ持ち出せない。
ダンジョン産のアイテムは持ち出せないのだ。
だが問題ない。
ポーション手拭いのように、布にしみこませる裏技を使えばいい。
【忍具収納】の抜け道である。
などと考えていると、俺を呼ぶ声が聞こえる。
「ゼンジさーん! ごはんの用意できましたー!」
「おっ! いま行く!」
俺は作業を中断して食卓へ向かった。




