ハイスラッシュ? そんなスキルはありません!?
「でもちょっとさみしいっスねー」
「え、トウコちゃん、どうしたの?」
「クーラーボックスはもういらないって言ってたことっス」
「食品収納の中だと時間経過がないから、冷やす必要ないだろ?」
「なにがさみしいの?」
トウコの目線はリンの胸元へ向かう。
「だって、もうリン姉のパイスラッシュが見れな――」
俺はトウコのわき腹をつついて小声で警告する。
「しっ……やめないかトウコ!」
本人に言ったらバレ……失礼に当たるだろう!
トウコは俺の合図に気づいて、雑にごまかした。
「あっ……なんでもないっス!」
さすがに、リンが聞き返す。
「ハイスラッシュ? そういうスキルがあるんですか?」
本当にありそうな技だ!
俺に効く!
「そ、そうっス! 上段からナナメに斬る技っス! 破壊力バツグンっス!」
トウコは目を泳がせながら、しどろもどろに答える。
余計なことを言うな!
リンの胸に目線を送るな!
それを見てリンはいたずらっぽく俺に聞く。
「へえ、そうなんですか? ゼンジさん?」
おっと、さすがに鈍いリンでもこれは気づいたな……!
俺は目をそらして言う。
「うんまあ、必殺技の一種だろうな。ん……?」
そらした視線の先に、気になるものが映った。
「――あれはなんだ?」
俺は木の根元を指さす。
そこにあるのは――
なにも話題をそらそうと適当なことを言ったわけじゃない。
俺が指さした先には、これまで見かけなかったものがある。
リンはそれを見て言う。
「あれは……キノコですね!? シイタケみたい……でも大きいですねー?」
「おーっ!? これ、食べられるやつっスか?」
トウコは走りよると、さっとキノコに手を伸ばす。
俺は静止の声をあげる。
「おい、不用意に触るな! 毒があるかもしれん!」
「あ、もう取っちゃったっス! 別になんともないっスよ!」
トウコが悪びれもせず、手の中のキノコを示す。
もう、むしり取ってしまっている。
それはシイタケに似ているがもっと大きくて肉厚だ。
傘の部分は俺の手のひらほどもある。
店で売っているものに比べると、よく育っている。
触って大丈夫かわからないってのに……。
勇気があるというか……怖いもの知らずめ!
「じゃあ鑑定してみますねー」
「どうっスか? 食べるとエッチな気分になるやつっスか?」
お約束のファンタジーキノコじゃねーか!
そんなキノコは現実にはあり得ないぞ!
「その可能性があると思うなら、最初から触るな!」
「その可能性にワンチャンかけてみたっス! 二人がかりで慰めてくれることを期待したっス!」
トウコはにやにやしている。
「悪質だよお前! やめろ、そういうの!」
リンはスルーして鑑定結果を告げる。
言葉は楽し気にはずんでいる。
「茶色キノコ、だそうです! 毒はありません。食べられますよ! さあ、もっと集めましょう!」
そういうとリンは目を輝かせて、木の根元に座り込んだ。
木の根元にはキノコが群生している。
うーん。みんな欲望に忠実だな!
夢中でキノコを集める二人の後姿を眺めながら、そう思った。
「あ、こっちに赤いキノコもあるっス! 食べたらレベル上がるかもしれないっス!」
ヒゲの配管工おじさんの残機が増えるのは緑色だろ?
「まて! 触るな! いかにも怪しいぞ!」
赤いのはスーパーなキノコだ。
これは体が大きくなる……じゃなくて!
アレだ! 有名な毒キノコに似ている!
たしか……ベニテングタケだ。
毒々しいほどに赤い傘。
キノコの頭は卵のように丸い。
その傘には白いイボのようなツブツブが散りばめられている。
柄は白くて、しっかりしている。
「気を付けてねトウコちゃん!」
「う、分かったっス!」
俺たちの剣幕に、トウコはおとなしく引き下がった。
危険な冗談はダメだ。
「触れるだけで毒に侵されることもあるからな」
「鑑定してみていいですか?」
「触らずにできるか?」
「やってみますね!」
リンはこわごわと赤いキノコに手を伸ばす。
なにか背徳的な絵面だが……というか、ちょっと待て。
危険を冒して鑑定しなくてもいいじゃないか!?
「待てリン! システムさんに【物品鑑定】を頼んだほうがいい」
「ああ、そうですね! そうします!」
システムさんがキノコに近づいてくるくると回る。
<名称:赤色キノコ。カテゴリ:素材>
「色しかわからないか。しかし、食材じゃなくて素材だな?」
「茶色キノコは【食材鑑定】だと食べられるものでした。どうですか、システムさん?」
リンは茶色キノコを差し出す。
<名称:茶色キノコ。カテゴリ:食材>
「む……なら茶色キノコは主に食用ってことになる。赤いのは食用以外の使い道があるってことだぞ?」
「あやしくなってきたっスね!」
トウコはなぜかわくわくした表情を浮かべている。
期待してもダメだ! エッチな展開にはならないからな!?




