時間をかけずに偵察する方法! 俺ならではのやり方とは……?
本日二話目!
「では、帰りましょうか?」
「ああ。だがその前に――自律分身の術!」
目の前に自律分身が現れる。
俺はクナイと鎖分銅を手渡す。
「よう俺! んじゃ俺は第五エリアを偵察してくるわ!」
「よう俺! まかせる!」
自律分身は第五エリアの霧の中へと消えていく。
俺は背を向けて帰る方向へ歩き出す。
「よし、帰ろう!」
「あれ? 分身さんを待たなくていいんですか?」
首をかしげているリンへ言う。
「ああ、効果時間いっぱいまで偵察させる。帰りは待たなくてもいい」
【自律分身の術】は一時間ほど持続する。
それだけあれば、第五エリアをある程度は偵察できる。
「店長二号は消えても、ちゃんと戻ってくるんスよね?」
「そうだ。離れていても自律分身の記憶と経験は俺にフィードバックされる」
効果時間が切れるか、倒されれば【意識共有】が発動する。
ダンジョンの外にいると無理だが、ダンジョン内なら問題ない。
俺のダンジョンでは階層が違っていても回収できている。
リンが心配そうに言う。
「でも分身さん一人だと、危ないんじゃないですか?」
「もしやられたなら、それだけ危険だってことがわかる。あいつだってちゃんと考えて動くから大丈夫だよ」
「そうですか……」
「店長二号はスキル使えないっスよね? 大丈夫なんスか?」
「【隠密】はできないな。だから普通にこそこそ隠れたりするんだよ。正面から戦ったりしない」
「ハードモードっスね!」
【自律分身の術】はもう一人の、自分で考える俺自身を生み出す。
考える頭が二つになるのは、便利だし強い。
そして、自律分身の経験を俺に共有する【意識共有】。
この二つが揃うことで真価を発揮するのだ!
「たしかにハードモード、縛りプレイみたいだな。俺の経験と記憶は持っているし、ステータスはある」
「あぁ……聞けば聞くほど心配になっちゃいますー!」
「ま、武器も持たせた。そこそこやれるさ。それに難しい攻略をした経験は俺にかえってくるんだ」
トウコがうえっと舌を出す。
「店長、マゾいっス!」
「さすがゼンジさんはまじめですね……!」
俺はスキルを使ってダンジョンを攻略している。
自律分身ではスキルを使えない。
つまり【隠密】や【壁走りの術】を使えない。
そうなれば、動き方は変わってくる。
じっくりと足元を見定め、敵に気づかれないように立ち回る。
そして、その苦労、その経験は俺の糧になる。
もし死んだとしても、その命がけの経験が手に入るのだ。
このダンジョンでは死んだら終わりかもしれない。
復活がある保証がない。
だから、自律分身はある意味では死ぬ可能性のある冒険ができる。
こんなことを言うとリンが余計に心配するから言わないが。
残念ながら、【自律分身の術】と【意識共有】は成長させられない。
スキルポイントを振って育てることができないのだ。
これはたぶん【エラー】にぶら下がっているスキルだからだ。
【エラー】の正体は、まだ取得できない上位のスキルなんだと思う。
――つまり【上級忍術】だ。
条件さえ満たせば、スキルを成長させられると期待している。
その条件とは、三つ目の職業だ。上級忍者である!
俺のレベルももうすぐ二十になる。
近づいてきたぜ!
俺たちは森を歩きながら話を続ける。
来た道と平行するように、違うルートを通っている。
帰り道も地図を埋めているのだ。
シカやスライムは襲ってくる。
ボスを倒したからって敵が減るわけじゃないからな。
とはいえ、行きに倒した分だけ周辺の敵は減っている。
トウコがうらやましそうな顔で言う。
「店長のもリン姉のも使えるスキルでいいっスよねー」
「私はトウコちゃんの【捕食】も、すごく便利だと思うよー?」
「そっちはいいんスけど、【復活】と【狂化】は死にスキルっス!」
「それは使わないに越したことはないさ。保険と考えようぜ」
試してみたい気持ちはあるけど、命がけになってしまう。
賭けるのはトウコの命だから、試せるわけがない。
「ちぇー」
トウコは口をとがらせた。
隣の芝は青く見える。
トウコの【復活】スキルが俺にあれば、死ぬリスクを考えずに戦えるんだけどな!




