ボス戦は突然に!? VSボス戦! 森林エリアは大鹿で!
本日は二話投稿予定!
「キュォォォォォ!」
巨体のツノシカが甲高い声を上げる。
周囲の空気がびりびりと震える。
口の端からよだれを垂らした大きなシカが、俺たちをにらんでいる。
凶悪なその表情は捕食者のそれだ。
――くそ、いきなりかよ!?
こいつはおそらく、ボス個体だ!
ここはまだ第四エリアだってのに!
第五エリアにはボスがいると予想していた。
なら、エリアの境界線近くにいたって不思議じゃない!
そこで俺は、はっと我にかえる。
呆けている場合じゃない!
反省はあと!
今は目の前の敵に対処するんだ!
もう大鹿は俺たちに飛びかからんと、走り出している!
「散れっ! 動けっ!」
「は、はいっ!」
「ちょっ!? これ、ボスっスか?」
リンは素直に、トウコは疑問を口にしながら距離を取る。
俺は背後へ飛びのいて距離を取りながら、術を放つ。
「――分身の術!」
生み出した分身を、すぐ前に出す。
これはおとりだ。
大鹿の目の前に突っ込むように走らせる。
目の前に現れた分身に驚いたように、大鹿は向きを変えた。
狙い通り、大鹿は分身へと突撃する。
分身はひとたまりもなくはね飛ばされ、すぐに塵となってしまった。
でも、これで時は稼げた!
「立て直せ! たぶん、こいつはボスだ! ……まずは落ち着け!」
「は、はい……どうすれば?」
リンは不安げに俺を見ている。
俺は方針を伝える!
「逃げるのは難しい! ここで倒すぞ!」
トウコはにやりと笑ってショットガンを獣に向ける。
「なら、とりあえず撃ちまくるっス!」
トウコが勢いよくショットガンの引き金を引く。
残しておいた二発目――最後の弾丸が発射される。
【ラストショット】が発動して、派手な発砲炎があがる。
はじける様に飛んだ散弾が大鹿に命中する。
だが、獣はうるさげに身震いをしただけで、ダメージは小さい。
「硬いぞ! リン、全力で行け!」
「はいっ! ファイアボォール!」
リンは両手を突き出すようにして大きな火球を放つ。
着弾した火球が大鹿を燃え上がらせる。
しかし、その炎はすぐに鎮火してしまった。
「ヒットポイントだ! 魔法の効果が弱められている!」
「は、はい!」
「リロッ!」
トウコはショットガンに弾を込めている。
俺は大声を上げながら、前へと踏み出す。
「おいっ! こっちだバケモノめ!」
それと同時に二体の分身を生み出して先行させる。
リンとトウコを狙わせないように気を引く。
それが俺の役割だ。
大鹿の左右に分身が走りこむ。
俺はその後ろを駆けていく。
「ギュアァ!」
大鹿は吠え声をあげると、左の分身に狙いを定める。
俺は突進に巻き込まれないようにかわしながら、刀を振りかぶる。
狙いは足だ。
太くたくましい足が地を蹴って土煙を上げる。
奴の動きも速い!
だが、届く!
「ファストスラッシュ!」
すれ違いざまに斬り付けた刃が大鹿の足をとらえる。
重い手ごたえ。
くっ! 刀が手から吹き飛びそうだ!
「うおおっ!」
俺は痺れる腕になんとか力を込める。
なんとか、刀を取り落とさずにすんだ。
くそ!
なんて硬さだ!
正面からぶつからないように斬りつけたってのに!
俺は半ばはね飛ばされながらも、手をついてなんとか着地する。
かなり無茶な姿勢になったが、【受け身】スキルのおかげだな!
「店長っ! あぶない!」
「なにっ!?」
はっと顔をあげると、すぐそばに大鹿が迫っている。
巨体に似合わぬ俊敏さで、身をひるがえして突進してきたのだ!
体勢を崩している俺は回避できない!
「ッッ――!」
大鹿が高々と振り上げた前足が、俺の頭蓋をかち割らんと迫る!
その直前、俺は準備しておいた術を発動する。
「――入れ替えの術ッ!」
対象は残っている分身。
分身を二体出しておいたのは、このためだ。
俺と分身との位置が入れ替わる。
それと同時に、分身が踏みつぶされる。
あぶねえ!
再び俺は二体の分身を左右に放ち、背後へと飛ぶ。
【入れ替えの術】は連続して使えない。
次に使えるのは数秒後だ。
大鹿がいまいましげに、俺に向き直る。
「くらえっス!」
「ゼンジさん!」
その背中に、銃弾と火球が命中する。
だが大鹿は意に介さず、ぶるる、と大きく息を吐く。
生臭い息が、俺の顔にかかるほどの距離だ。
分身の手ごたえのなさにイラついているのかもしれない。
それとも、何度倒しても立っている俺が不思議に思えるのか?
そんなことを考える知能があるのかはわからないが……。
大鹿はぐっと姿勢を低くして、飛びかかろうと力を蓄えている。
毛皮の上からも見て取れるたくましい筋肉がふくれ上がる。
速さ比べか? 望むところだ!
なんにせよ、俺を狙ってくれるなら好都合だ!
「よし、来い!」
強敵との戦いに気分が高揚する。
俺は口の端をにやりとゆがめると、大鹿をしっかりと見据えた。




