森と狩猟! もみじ肉パーティ!
「しかし、炎を怖がらないのは驚いたな」
「はい。ビックリしました! まさか突き抜けてくるとは思いませんでしたー!」
これまでのコウモリやクモは炎を怖がる。
よけきれない場合を除いては突っ込んでこない。
「やっぱシカだからバカなんスよ! 猪突猛進っス!」
「それってイノシシじゃないか?」
「シカさんはもっと臆病だと思ってましたー」
「どうだろうな。あんまりシカに詳しくないけど……」
すぐ逃げるようなイメージはある。
このモンスターはむしろ好戦的だった。
「まあモンスターっスからね! 同じとは限らないっス!」
「でも、シカさんは食べられますよね? もみじ肉って言いますもんね!」
リンは早くも食べることを考えているようだ。
「ああ、食えるはずだよな。俺は食ったことないけど」
「ジビエ料理っスね! ウサギよりおいしいかもしれないっス!」
トウコが口元をぬぐう。
「ちょっと狩ってみるか。戦いやすい場所を探してみよう」
「はい!」
「りょー!」
さっきは急な遭遇戦になったから有利に戦えなかった。
俺たちの長所が活きる地形を探そう!
俺たちは少し開けた場所に陣取った。
やぶを焼き払って視界を確保する。
樹上のスライムも倒しておく。
スライムは木の上だけでなく、足元に潜んでいることもある。
だが気をつけてさえいれば倒すのはたやすい。
分身をおとりにしてモンスターをおびきよせる。
まもなく森の奥からべきべきと枝をへし折る音がした。
つり出し成功だ!
「来たぞ! 迎撃準備!」
「オーケーですっ!」
「チャージ開始っス!」
トウコは銃に魔力を込め、リンは魔法に集中する。
森の奥から分身が走ってくる。
その後を追いかけて獣――ツノシカが現れる。
そこへトウコはじっくり力をためた銃を向ける。
「チャージショットっ!」
ずどん。
大きな銃声と共に放たれた弾丸が、シカの胸元に命中する。
べこりと大きな傷ができて、シカが倒れる。
「一発っス!」
「もう一匹きます! ファイアボール!」
リンの放った火球も、じっくりと魔力を練り上げた大玉だ。
向かってくるシカに着弾し、燃え上がらせる。
「キョアァァ!」
だが、燃え上がりながらもシカは足を止めない。
タフだな!
俺は前へと走り、刀を振るう。
狙いは前足。
シカはろくに前も見ずに走ってくる。
その足を切り飛ばす。
シカはたまらずに転倒する。
倒れたシカは立ち上がれずにもがく。
そのまま炎に焼かれて燃え尽きた。
あとには宝箱が残される。
「よし! 勝ったな!」
「周囲に反応ありません! 安全です!」
「ふー。楽勝っスね!」
分身に宝箱を回収させる。
「さて、中身は――魔石と、肉か!」
ドロップした肉は小さい。
ウサギの肉と変わりないサイズ。
スーパーで売っている切り身の肉くらいだ。
大きなモンスターを倒しても、大きな肉が手に入るわけじゃないようだ。
トウコは両手を上げて喜ぶ。
「やたーっ! ごはんっス!」
リンは肉に手をかざす。
「さっそく鑑定しますね! ――食べられます! 毒もありません!」
さらにタコウィンナーが現れて【物品鑑定】の結果を言う。
<名称:角鹿の肉。カテゴリ:食材>
「おお、カテゴリが食材か!」
「いつもは素材っスよね? なにが違うんスか?」
スライムゼリーは素材扱いである。
こっちは食材。
なにか違いがあるのかな?
「システムさん、どう違うんですか?」
<食材は食用に適します。素材はクラフトスキルの対象となります>
「つまり、食材はクラフトに使えないのか?」
「どうですか?」
<食材カテゴリの場合でもクラフトスキルの対象となりえます>
「ふーむ。厳密な分け方じゃないのか」
「どうなんスかね? 肉を使ってクラフトしないんじゃないっスか?」
「主な用途が食べることだと食材になりますか?」
<はい>
「素材でも食べられますか?」
<はい。素材カテゴリの場合でも食用に適する場合もありえます>
「スライムゼリーは食べれるけど、クラフトの材料になるってことだな」
「地味な違いっスね!」
「ま、ちょっとすっきりしたよ」
「そうですねー」
話しながら、リンは荷物から料理道具を取り出している。
「では、さっそく料理してみましょう!」
「おう。トウコは周囲を警戒してくれ」
「りょー」
この場所は視界も取れて、比較的安全だ。
追加の敵が現れたら倒せばいい。
むしろ肉が増えたらうれしいくらいだ。
リンはフライパンに薄く油を引いて肉を焼いていく。
塩コショウで焼いただけのシンプルな料理だ。
「できましたー。焼き具合はこれくらいでいいですか?」
脂が少ない赤身の肉だ。
ミディアムレアくらいの焼き加減である。
「いいんじゃないかな?」
「一個食べてから考えるっス!」
肉によってベストな焼き加減は違う。
食べてみないとわからないしね。
「では、どうぞー」
「おお、いい匂いだ! いただきます!」
「いただきまーっす!」
一口大にカットされたサイコロステーキ。
ほかほかと湯気が上がっていて美味そうだ。
口の中に入れた肉をかみしめる。
うすい味付けで、素材の味が活きている。
「ちょっと臭みがあるっスね! でもおいしいっス!」
「思ったよりやらかいな」
「さっぱりしてますねー。もうちょっと味をつけたほうがいいかもしれません」
少し臭みがあるけど、いやな感じはしない。
赤みが多くて脂身がほとんどないのに、かめば肉汁が出てくる。
「うまいな!」
「おかわり欲しいっス!」
「ゼンジさん、おねがいしま……あ、来ましたよ!」
俺がつり出すまでもなく、お肉は向こうからやってきた。




