森のお友達? そんなにかわいいものじゃない!?
俺たちは森エリアを進んでいく。
道に迷わないように木にナタであとをつけていく。
帰り道の確保は探索の基本だ。
森は深く、道はない。
後ろを振り返っても木が生い茂っていて森の外は見えない。
これは方向感覚を失いやすいな。
樹上のスライムを落として倒すのはトウコの役目だ。
これはドロップを弾丸に変えるため。
もし森で迷子になっても、リンの【食材】があれば飢え死にの心配はない。
安心感があるね。
まあ、迷うつもりはないけど。
リンが警告をあげる。
「あれ? なにかいます! 大きいです!」
「分身、前へ!」
俺は周囲に展開している分身を前進させる。
リンが示す方向からは、大きな足音が聞こえている。
地を蹴って走る獣の足音だ。
「来たっス!」
やぶをかき分けて現れたのは大きな四足獣だ。
「――うらっ!」
その姿を見るやいなや、トウコが銃撃を放つ。
「キュァッ!」
甲高い叫び声をあげ、その獣に弾丸が命中する。
だが、その動きは止まらない。
前に出していた分身をはね飛ばし、なおも突進してくる。
獣の頭部には大きな一本の角が生えている。
そこへ分身がとびかかる。
獣は大きく首を下げると、勢いよく首をはね上げる。
とびかかった分身は鋭い角に貫かれ、宙に放りあげられた。
獣はそのままトウコに向かって突進する。
「かわせっ!」
「りょ!」
トウコは横っ飛びして、そのまま転がる。
膝立ちで止まり、すばやく射撃する。
獣はトウコの弾を胴体にかすめながらも、俺たちのいた場所を突き抜けるように走り抜けていく。
「な、なんだ?」
獣は俺たちの背後のやぶを突き抜けて走り去った。
「いまのはウマっスか? ユニコーン!?」
「シ……シカさんでしょうか?」
ウマやシカに似た四足の獣だ。
角は一本。額に生えている。
角ウサギよりも立派で、もっと太い。
「……なんにせよ、後だ。戻ってくるぞ!」
足音は遠ざかっていかない。
再びやぶを突き抜けて獣が現れる。
リンが準備していた魔法を発動させる。
「ファイアウォール!」
目の前に炎の壁が現れ、獣との間をさえぎる。
獣は火を怖がるはずだ。
だが――
「キョアァ!」
「えーっ!?」
獣はひるまずに、そのまま火の壁を突き抜けるように突っ込んでくる!
リンは動けない。
俺は収納から取り出しておいた刀を握って前へ踏み込む。
踏み込みながら峰に返した刀を一閃する。
「――フルスイングッ!」
すれ違うように振りぬいた刀の峰が獣の頭部を強打する。
ノックバック効果が発生して、突進のコースがずれる。
身をすくめたリンのすぐ横を獣が走り抜ける。
そして背後の木にぶつかるようにして獣が動きを止める。
獣はすぐに身をひるがえして、再びこちらへ向き直る。
その目は血走っている。
「ピアスショット!」
銃口から派手な発砲炎が噴出し、弾丸は曳光弾のように光の線を残して飛ぶ。
獣の首に突き刺さった弾丸が反対側へ突き抜ける。
「キョッ!?」
「ファイアボール! ファイアボールっ!」
動きを止めたところへ、リンの放った火球が連続で炸裂する。
顔面を炎上させた獣が地に倒れる。
そのまま塵となって消えた。
「ふう。倒したな……」
「なんスかあれ! やたらと頑丈な奴だったっスね!」
「こ、こわかったです!」
俺は新たな分身を周囲に配置して警戒する。
この分身は威力を下げてコストを強化したものだ。
戦うためというよりは、おとりと索敵である。
今回も攻撃面では役に立っていないが、おとりとしては役に立っている。
「あれ、シカっスかね?」
「うん。でも普通のシカとは違うよな? 角が一本だし、デカい」
リンが宝箱を拾い上げる。
中身は魔石だ。
「では、鑑定してみますね!」
<名称:角鹿の魔石。カテゴリ:魔石>
「やっぱりシカ……なのか」
普通の鹿にはツノがある。
枝のような角が特徴だ。
角は左右に二本はえている。
今のモンスターは角が一本。
まっすぐで太い角で、少し反っている。
一角鹿と言われたらしっくり来るけど……。
ウサギもツノは一本で、名前は角兎だしな。
「シカってこんな狂暴っスかね?」
「ぜんぜん可愛くなかったですねー」
戦闘中はじっくり見ていられなかったが、言われてみれば鹿の特徴がある。
四足で、首が長くて、角が生えている。
「日本のシカとは違うな」
「デカいっスね!」
「角も一本で立派でしたね!」
体は大きくて、どっしりとしている。
ウシやウマよりは小さいが、ニホンジカよりは大きい。
ボス以外ではこれまでで最大サイズの敵だな!
 




