地道な探索! 草原ダンジョンの地図埋めもついでにやってしまおう!
「まだポイントは使うなよ? 先に残りのスキルを見てからだ!」
「わかってるっス! 次は【カーブショット】と【チャージショット】っス! あと、【ピアスショット】も取っちゃうっス」
トウコはウィンドウを操作してスキルを取得していく。
それぞれ一レベルだから、無駄づかいにはならない。
熟練度システムでもスキルレベルは上がっていく。
だから、低レベルのスキルをたくさん取るのはコスパもいい!
「そういえば、ここってどこっスか? いつのまに見なれないところにいるっス!」
「ああ、今日は未踏破エリアの探索をしようと思ってな」
「いつも同じところばっかりだから、違うところにしようって、さっきゼンジさんが言ってたよー」
トウコが銃を撃ちまくっている間にリンと話したのだ。
トウコにも伝えたけど、あんまり聞いてなかった。
新技の研究に夢中だったからそのままにしておいたのだ。
「そうなんスか。ま、あたしはどこでもオッケーっス!」
「今日は奥じゃなくて、横方向に進んでるんだ」
「なんで横っスか?」
「奥に行くほどエリアが進むだろ? 敵も強くなる。スキルの検証ならこのへんでやるのがいい」
「なるほどっス!」
「それに、地図も埋めておきたいしな」
「私のダンジョンは広いから、行ってない場所が多いんですよねー」
草原ダンジョンは平地だ。
洞窟や建物でないから、三百六十度どちらの方向にも進める。
いつもは奥へ奥へと同じ方向へ進んでいる。
拠点のある大木のある丘から離れるほど、階層――エリアが進む。
今日は奥ではなく、横方向や行ったことのない方向を探索するのだ。
奥へ進まなければ敵は強くならないはずだ。
俺のダンジョンを例に考えれば、階段を下りずに別ルートを進む感じになる。
未踏破エリアを探索すれば、これまでリンのダンジョンになかったものが見つかるかもしれない。
宝箱とかモノリスとかね。
「えー。地図埋めとか地味っスねえ」
トウコは露骨に嫌そうな顔をしている。
「ダンジョン攻略に近道はない! 地道なつみ重ねが大切なんだ」
「大切なことよ、トウコちゃん。あ、あそこにスライムさんがいまーす!」
「りょー!」
トウコはスライム相手に新しいスキルを試していく。
やることは変わらない。
ついでに探索を進めているだけだ。
こうすれば無駄がないね!
「トウコのスキルで重ねがけができるのは【ラストショット】だけだったな」
「曲げて跳弾はできなかったっス!」
【カーブショット】は弾丸の軌道を曲げる。
だが、スキルレベル一だけに、渋い効果だ。
【カーブショット】を発動すると、撃つときに想像したコースで銃弾が曲がりながら飛んでいく。
その軌道はゆるやかだ。急激に曲がったりしない。
空中の弾丸を途中で操作する、なんてこともできない。
ま、そりゃそうだ。
物理法則というか、速度の問題だな。
マンガじゃあるまいし、俺たちは銃弾を見たり避けたりできない。
俺だって【回避】やステータスがあっても無理だ。
銃口の射線から逃れて、当たらないようにするのがせいぜいだ。
発射された弾丸は目で追えない。
だから、発射した後の弾丸を曲げることもできない。
トウコが自分の弾丸を見えないし、時間もない。
「曲げてからはね返せたらよかったのにねー」
「浅い角度でしか曲げれないし、跳弾しないからな」
「カーブショットで角度をつければ、いい感じに跳弾すると思ったんスけどねー。シブいっス!」
「名案だったのにねー。トウコちゃん!」
「ピアスショットは強いんじゃないか? ちょっと派手だし」
【ピアスショット】は貫通弾を発射する。
このスキルを発動すると、ちょっと派手な特殊効果がついてくる。
「ビューンって感じで派手っス!」
「ロケット花火みたいね!」
ふつう、弾丸は目に見えない。
だが、このスキルで発射した弾丸は光の尾を引いて飛ぶ。
リンの言うように花火の軌跡にも似ている。
ただ、ものすごく速いけど。
ゲームでスナイパーに狙撃されたときに見える射線の演出とも近い。
撃たれた方向が空気のスジで見えるエフェクトだ。
現実の銃で考えれば、曳光弾である。
発光することで弾道が目で見えるようになる。
目で見て撃つ方向を変えられる。
現実の曳光弾はただ光るだけ。
威力や貫通力が上がったりしない。
あくまでも、似てるというだけの話だ。
「これで壁抜きはムリっスねー。木でも貫通できないっス!」
「そう言うが、木って硬いからな?」
試したのはそれなりの太さのある立木である。
乾燥した木材と違って、生えている木はそうそう貫通しない。
ガンアクション映画とかでも木の陰に隠れたりするし。
「しょぼー! 思ってたのと違うっス!」
「でも家の壁とかなら抜けると思うぞ。トウコのダンジョンでなら使えるんじゃないか?」
普通の銃弾でもドラム缶や木製のドア、石膏ボードなどは撃ち抜ける。
「店長の家の壁は薄いっス! リン姉は寝るとき壁にぴったり……」
「トウコちゃん!? あ、あっちにスライムがいるわよ!」
リンがあわた様子で言うと、トウコは銃を構えてキョロキョロする。
「え、どこっスか!?」
「ほら、あそこ! ……その、ゼンジさん。へんな意味じゃないので気にしないでくださいね!」
「あ、ああ……わかった」
寝るときは各自の部屋で寝ているが、寝室はとなり合っている。
その薄い壁に……いや、へんな意味ではない。
コップを壁に押し当てて音を聞いたりするのは忍者の仕事である。
へんな意味ではない!




