料理人に必要なのはスキルよりも愛情です!?
草原ダンジョンの拠点にて、俺たちはリンの料理に舌鼓を打っている。
リンが選んだスキルは【食材】。
そのスキルを使ってサラダを作ったのだ。
「うまっ! 野菜なのにうまいっス!」
「うん。味はいつも通りだな!」
手作りの料理と変わりない、すばらしい味だ!
リンはほっと胸をなでおろす。
「よかったー。なんだか手を抜いたみたいで心配だったんです!」
このサラダの下ごしらえには【食材】スキルが使われている。
まずリンは家庭菜園から採れたての野菜を持ってきた。
そして泥のついた野菜に手をかざすと、汚れが消え去ってしまった。
【食材洗浄】の効果だろう。
ダンジョンで血や汚れが塵に変わるのに似ている。
そして【食材加工】あるいは【解体】。
包丁を軽く当てると、野菜は瞬時に切り刻まれたのだ。
ニンジンなら皮が剥かれて千切りに。
レタスなら食べやすいサイズに手でちぎったかのように。
あとは盛り付ければ完成。あっという間だ。
「まるでリンが手作業で作ったみたいに見えるな」
「そうですね。私がこうしたい、と思った通りにできるみたいです」
「じゃあ、あたしが作ったらどうなるんスかね?」
トウコが【食材】スキルを持っていた場合ってことだろう。
「トウコの頭の中のサラダができあがるんじゃないか? だけど、作り方知ってるか?」
「そりゃ、野菜を切ればいいっス!」
やっぱ雑なイメージしかないな。
「野菜を切ればサラダってわけじゃないが……」
切ったり洗ったり、食べられない部分を取り除いたり……。
下ごしらえにもいろいろある。
こういう手順をイメージできなければ、あやしいサラダができるかもしれない。
複雑な料理なら、もっと違いが出るだろう。
【食材】と【調理】の違いはこのあたりかな?
【調理】はたぶん技術や知識が手に入るのだろう。
もともと知らないことを、さも知っていたかのように理解できる。
技術のインストールのようなもの。
俺の【体術】もこのタイプのスキルだ。
リンは、もともと料理の知識も技術も持っている。
ある意味【調理】いらずだ。
それに料理に大切なのは技術や手順じゃない。
食べてもらう人への気持ちだ。
愛情だとか手間が味を変えるわけじゃないけど、伝わるなにかはある。
食べやすいサイズにカットされているとか。
熱すぎたり冷めていたりしないとか。
小さな積み重ねが、おいしい料理を生み出す。
幸せな食卓を生み出すんだ!
【食材洗浄】【食材加工】は結果だけを得る効果だ。
切ったり、洗ったりする工程を省略できる。
魔法のように全自動で料理が完成するわけじゃないようだ。
今作ったのはサラダだけど、もっと複雑な料理でも試してもらいたいね。
「うえぇー? 切るだけじゃダメなんスか?」
リンはトウコに微笑みかける。
「トウコちゃん。今度一緒に作りましょうねー」
「二人の共同作業っスね!」
ケーキ入刀みたいに言いよる!
「家事は日常の作業だろ!」
「店長が仲間になりたそうに見ている……仲間にしてあげるっス!」
「そんな目で見てないわ!」
「やらしい目で見ているんスね!」
「ちがうわ!」
リンが言う。
「じゃあ、三人でやりましょうねー」
「ん……? ああ――」
俺は一瞬、判断に迷う。
リンはワンテンポ遅れた返事をしただけだ。
料理の話。……そうだよな?
「つまり、三人でのやらしい共同作業っスね!」
「やめい! 健全な家事の話だよ!」
品位が問われる!




