料理人のスキル――【食材】とは?
【食材】について、リンがノートに書き出していく。
俺より字がうまい。
丸文字でかわいい感じ。
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【食材】
食材を扱う。得られる量や質の向上。
含まれるスキルは以下。
【食材鑑定】【食材加工】【食材洗浄】【食材無毒化】
【食材調達】【食材保存】【解体】【採集】【園芸】
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「こっちは料理を作るんじゃなくて、素材関連なんだな」
リンは笑顔で言う。こっちのほうが好印象みたいだな。
「このスキル、食べ物が手に入るみたいですね!」
トウコが【食材無毒化】の文字を指さす。
「あっ! こっちにも無毒化があるっス!」
【調理】の【料理無毒化】は、完成済の料理から毒をとりのぞく。
こちらは素材から毒をとりのぞくんだろうな。
「鑑定もあるじゃないか!」
「私はもう【物品鑑定】を持ってるんですが……似てるけど違うんでしょうか?」
スキルの説明文は不親切で、詳細はわからないことが多い。
「こっちは食べ物だけ鑑定できるんスかねー?」
「取ってみないとわからないよなあ、こういうの」
リンが何もない空間に視線を向ける。
「システムさん。どうですか?」
タコウインナーのようなマスコット――【サポートシステム】が姿をあらわす。
<専門分野において【食材鑑定】は【物品鑑定】より詳細な情報が得られます>
「お、めずらしくシステムさんがまともなことを言った!」
「食べ物にだけ詳しい鑑定なんスね!」
「ありがとう。システムさん!」
「てことは、鑑定はかぶっても損はないってことだな」
「そうみたいですねー」
「全部鑑定できるチート鑑定が欲しいっスね!」
「普通、そうだよな?」
「ケチくさいっス!」
俺とトウコは異世界スキルあるあるで盛り上がる。
リンは首をかしげている。
「ふつう? こういうものじゃないんですか?」
「鑑定スキルといえば強スキル! なんでもわかっちゃうんスよ!」
「システムさんも普通ならもっと万能のお助けキャラだよな!」
「そ、そうなんですか」
リンはタコウィンナーに気遣うような視線を向ける。
「あたし、異世界に転生したら最初に取るって決めるっス!」
「転生しないでもスキルは手に入るけどな!」
チートなスキルはぜんぜん手に入らないけど!
渋いよ! 俺たちのスキル!
「システムさんはちゃんと助けてくれてますよ。ねー?」
リンがタコウインナーに微笑みかける。
システムさんはくるくるとリンの周りを回っている。
「他のスキルはどうなんだ?」
「切ったり洗ったり毒を抜いたりは予想できるっスね!」
「【食材調達】は、敵を倒したときに食材が手に入る……らしいですよ!」
「あたしの【弾薬調達】の食べ物版っスね! 仲間ーっ!」
「つまりドロップアイテムが変化する。魔石じゃなくて食材になるわけだ」
「私のタンジョンだとハズレが……じゃなくて! 魔石が出なくなるのかもしれませんね!」
リンは声を弾ませている。
俺は魔石や素材も欲しいから、なんとも言えないな。
ドロップアイテムのルールはダンジョンごとに違う。
俺のダンジョンだと魔石しか出ない。
調達系スキルを使えば、これは食材や弾丸に変わる。
リンのダンジョンだと素材、魔石、食材が宝箱に入っている。
いずれかが宝箱から確率で出てくる。
これが食材だけに固定されるのかもしれない。
「【解体】はアレだよな?」
「強スキルっスね!」
リンが俺たちを交互に見る。
「解体って動物さんを切り分けることじゃないんでしょうか?」
「現実的に考えたら、食肉業者や狩人がやるものだよな」
「二人ともよくわかってるみたいですけど……これもゲームで有名なんですか?」
「ゲームやラノベじゃ有名っス! 敵を十七分割したり!」
それ解体スキルだっけ?
「一撃で敵をバラバラに引き裂いたりできるんだよな!」
「腕をもぎ取ったりするっス!」
「バラバラ? う、うでを……?」
リンは顔を青ざめさせる。
「ああ、生きているモンスターに有効な場合もあるな。それに、素材が多くとれたりする!」
「シッポを切り落としたりとか! はぎとり回数アップっス!」
リンは引きつった顔で言う。
「な、なんか怖いスキルなのね……?」
おっと、怖がらせてしまった。
方向修正しないとな!
「いや、怖くなんかないぞ。手順を省略するタイプかもしれない!」
「皮をはいだり内臓を取り出す作業がパッと終わるやつっスね!」
トウコがナイフを突き立てるようなジェスチャーをしながら言う。
ぎこぎこ手を動かすな!
「えっ……そ、そうなんですねー?」
グロい方向へ持ってくんじゃない!
変な印象がつくだろ!
「トウコ……ふざけるのはほどほどにしておけ」
俺はトウコの頭に軽くチョップをくれる。
トウコは頭を押さえて舌を出す。
「あだっ!? あたし、なんかやっちゃいましたー?」
「お前はいつもやらかしてるよ!」
「な、なんとなくわかりました。その、【解体】は強いんですね!」
「ああ、まちがいない!」
俺は自信満々に――無責任に頷いた。
いろいろと並べ立ててみたが、それほど都合のいいものではないだろう。
【解体】もどうせ地味な効果だ。
だが、あえて大げさに言っている。
……トウコはわざとじゃなくて天然というか、思慮不足だろうけど。
思い込みはスキルを強める。
リンは特にその傾向が強い。
スキルが簡易モードだからそうなのか、本人の資質なのか。
俺は天賦の才 だと思っている。
天才。スキルを使いこなす才能。思い込む力。
だが、残念なことに闘志や負けん気、戦う心構えが伴わない。
リンは優しすぎる。
戦いに身を置くべき人ではない。
おいしい食事を作って笑って食べる……そんな生活が似合っている。
「【採集】【園芸】は平和そうだな?」
「そうですねー! これは家庭菜園がはかどりそうです!」
「【園芸】って、農業とか、農民みたいな職業のじゃないんスか?」
「シェフ自ら畑仕事をすることもあるってことじゃないか?」
同じスキルでも、いろんな職業で選べてもいいだろう。
【忍術】みたいな専門的なものと違って【投擲】とかはいろんな職業で選べるはずだ。
「【採集】って、植物を集めたりするんスよね?」
「植物限定じゃないだろう?」
昆虫採集なんてのもあるけどな。
食材スキルだし、虫を集めても……。
いや、昆虫食もあるか。あんまり考えたくはない。
言わないでおこう。
「ハチミツとか……素材っスかね?」
「定番だよな! 【採集】はおいしいものを集めるスキルってことだ」
それを聞いて、リンは目を輝かせる。
「そうなんですね! いいですね【食材】! 花蜜スライムさんを狩りに行きましょう!」
「リン姉。急にやる気出たっスね!」
「じゃあ、取っちゃいますねー」
リンが空中に指を走らせる。
ウィンドウを操作している!
おいおい! まだ早いって!
「リン、ちょい待ち! その前に【調理器具】も見ておこうぜ!」
説明の途中でいきなり決めないで!?
昨日は二話更新しました(手動でやろうと思って自動更新になってしまった……)




