現代ダンジョンは防音工事で!?
本日二話目!
時系列はクリスマス後、年末大掃除前です。
アパートの部屋で調べものをしているとチャイムが鳴った。
二人が帰ってくるにはちょっと早い。
頼んでおいたクラフト用の資材が届いたかな?
俺はドアを開ける。
そこに居たのは配送業者の人ではなかった。
作業着に身を包んだ若い男が立っている。
「はい?」
「お世話になります。本日より一階で工事を担当させていただくものです」
若い男は作り笑顔を浮かべて名刺を差し出す。
知らない会社だ。
といっても、工事業者の名前なんて知らないんだが。
こんな年末に工事を始めるのか?
「そうですか。それで?」
「年末年始の時期に申し訳ありません。騒音等でご迷惑をおかけするかもしれませんので、こちらお詫びの品です」
男は紙袋を差し出す。
中身は見えないが軽そうだ。
「わざわざどうも」
とりあえず俺は受け取らないで様子を見る。
近所で工事をするのでご挨拶――というのは詐欺の可能性があるからな。
挨拶のふりをした営業行為は禁止されている。
セールスの場合は社名を名乗って、勧誘であることを明示しないといけない。
男は笑顔を崩さない。
手にした袋をもう一度掲げる。
「オーナー様から申し付かった品ですので、お受け取りください」
今回は社名も理由も明らかだから詐欺ではないかな?
俺は紙袋を受け取る。軽い。手拭いかタオルだろうか。
「はい。それで、工事はいつまで?」
「年内には完了いたします。補修と防音工事を予定しています」
一階って、シモダさんかな?
俺たちが騒がしくて耐えられなくなったのかも。
だとしたら申し訳ないな……。
「防音工事って、この下の部屋ですか?」
「いえ。そのお隣の部屋です。新年より入居が決まったそうで、急ぎ工事する次第でして……恐縮です」
ずっと空室だった部屋だな。
シモダさんの部屋じゃないのか。よかった。
いや、いいのか悪いのかはわからんけど。
「ご興味がおありでしたら……」
やっぱりセールスか!?
そもそも俺の部屋には入って欲しくないんだよな。
なんせ、デカい穴がある。
俺がバットでぶち抜いた壁の穴だ。
賃貸だから面倒なんだ。
修理代を払う金はあるけど、追い出されたりしたら困る。
いっそ、このアパートを買ってしまおうか?
まだ買えるだけの金はないけど、この調子で稼げば可能だろう。
うーん。いま思い付いただけだけど、いい考えかもしれない。
「いや――」
俺が断ろうとすると、階段を上る足音が聞こえる。
そしてひょいと、シモダさんが二階に顔を出した。
シモダさんは俺を見て言う。
「ようクロウ。その話、ちゃんと聞いとけ。貸主が払ってくれるってよ」
「え? そうなんですか?」
俺はシモダさんへ聞き返す。
シモダさんは鋭い目つきで言う。
「ああ金はかからない。俺は天井の防音工事を頼んだが、効果は限定的だってよ」
「そうですか」
シモダさんが工事をすると決めたってことは、信用できる。
あやしい業者ではないだろう。
シモダさんは行動力と神経質さを兼ね備えた人だからな。
神経質なのに気弱じゃないとか、隣人としての攻撃力が高い!
「だから、お前にもお勧めしておくわ」
言葉からにじむ威圧! コワい!
「……検討してみます」
「おう。頼むわ。んじゃ、言いたいことはそれだけだ」
シモダさんはひらひらと手を振りながら去っていった。
少し間をおいて、業者の男が言う。
……業者の笑顔がちょっとひきつっている。
「あ、説明が前後してしまいましたが費用はアパートのオーナー様ご負担になります。クロウ様のご負担はございません」
「そうですか。資料いただけますか? 即決はできないので考えてみます」
ボロアパートの補修。しかもタダ!
めちゃめちゃいい話だ!
こんな申し出は、ここに住んではじめての出来事だ。
俺はオーナーって奴を見直したね!
世の中のオーナーって奴はたいてい、ろくでもないからな!
店のオーナーのせいで、俺のオーナー感は地に落ちている。
風評被害みたいなもんだ。疑いすぎたぜ!
ダンジョンがなかったら、迷わず頼んでいいと思う。
だけど……俺のクローゼットはダンジョンだ。
一般人が見ても普通のクローゼットにしか見えないとはいえ……不安はある。
変に刺激を与えないほうがいいんじゃないか?
たとえばクローゼットの扉や床を工事してもいいのかって話。
ダンジョンに影響を与えないのかが心配だ。
入れなくなったら困る。
でも、影響はないはずだ。
ダンジョンの入り口を壊したらダンジョンが消えるなら話は簡単だ。
悪性ダンジョンもそうってことだからな。
もし可能なら、入り口になった場所――衣装ダンスとかを壊せばいい。
冷蔵庫なんかぶっ壊してしまえばいい。
御庭は悪性ダンジョンを潰す方法として、これを挙げていなかった。
だから、簡単な解決方法はないはずだ。
うーむ。
だとすれば防音工事はアリだよなあ。
ダンジョン関連の話題はなるべくダンジョン内でするんだけど、完全じゃない。
たまには室内で話すこともある。
そういう声が漏れて、世界の隠蔽に触れては困る。
もうちょい考えるとするか。
そろそろ二人も帰ってくるから、相談してみよう!
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