クローゼットダンジョン・第三階層。突破!?
分身を先行させて進むことで、進行速度も速くなる。
正面からゴブリンが来ても、分身をおとりにすれば隠れる手間もない。
コウモリに不意打ちされることもない。
どんどん進むことができる!
しかし、分身の術のレベルを上げた弊害もある。
消費魔力が大きいのだ。
四体目の分身を出したあたりで疲労感を感じ始める。
「ん……。レベルが高いほど魔力消費は多いんだな。まあ、当たり前か」
体感ではレベル1に比べてレベル3は三倍ほど魔力消費があるようだ。
強いスキルは相応にコストもかかる。
レベル1の感覚で連発するのは危険だ。
あまり連発すると、魔力切れで体調不良になるかもしれない。
この場で頭痛や眩暈になるのは危険だ。
抑えめにしながら進むことにする。
ゴブリンを相手にする場合は分身を使わずに倒す。
【壁走りの術】で壁を登り、やり過ごしてから背後を取る。
ゴブリンは基本的に前しか見ていないんだよな。
いつでも油断しているというか……。
スキだらけのゴブリンを蹴散らして、魔石を回収する。
「……コイツら、よく今日まで生きてこれたな」
外敵がいないから無事だっただけか?
俺が入り込んだだけで、ゴブリンは絶滅の危機かもしれない。
不思議と、モンスター同士で争うということはない。
いまのところ、ゴブリンとコウモリが争う姿は見ていない。
コウモリに襲われたら、ゴブリンは勝ち目がないだろう。
腹が減っても食べられないほど、ゴブリンはマズイのか?
ある意味、食べてもおいしくないというのは無敵かもしれない。
そういえば、コイツらは何を食って生きているんだろう。
この階には水場がある。しかし一階層には水場もエサもない。
ダンジョンから栄養供給されているんだろうか。
謎だな……。
食事が必要ないなら、俺を襲ってくるのはなんでだ?
単に憎いんだろうか。
そういえば、最初のゴブリンを見たとき「こいつは敵だ!」と感じた。
理由のない生理的嫌悪感。
見ただけで話し合いの余地もなく、敵だとわかる感覚。
モンスターから見れば俺は「敵」として認識されているんだろう。
モンスター同士では「味方」と認識されるのかな。
コウモリはお互いに連携している感じはする。
少なくとも、群れのうちの一匹を攻撃するとみんな一斉に飛び立つ。
群れとして襲ってくる感じだ。
三階層でのゴブリンは連れ立って歩いているけど、お互いをカバーするような動きは見られない。
ゴブリンは団体行動をする頭がないのかもしれないな。
仲間意識が薄いのか。頭が悪いのか。
種族による差なのかもしれない。
連携したり群れたりしていることも、コウモリの強みだ。
ゴブリンには弱みしかない……悲しい連中だ。
壁沿いの物陰を見つけて、隠れ潜んで魔力の回復を待つ。
使った魔力は時間経過で回復する。
魔力が回復する時間はざっくりとしかわかっていない。
一晩寝れば全回復している。
しかし、ここで一晩待つわけにはいかない。
熟練度を上げるためにスキルを連発していた経験でわかっていることだけど、時間を置きながらスキルを使ったほうが疲れづらい。
連続して使わなければ、魔力はもっと持つ。
魔力がゼロに近づくことで体調が悪くなるわけではないってことなんだろう。
短い時間で連発することが問題なんだ。
ちょっとずつ休みながら使えば大丈夫だ。
物陰で動かずにいれば、コウモリには探知されない。
岩や床と区別がつかなくなるんだろう。
岩はデコボコしているから、反射も乱れて把握しにくくなる。
コウモリの種類によっては、葉の裏の虫や水中の魚すら探知するらしい。
ここのコウモリは、そういう能力はないようだ。
……少なくともこれまでのコウモリはそうだった。
油断できないな。
ゴブリンが通りかかっても、いつもどおり気付かれない。
【隠密】さんは頼りになるぜ。
少し休息して、探索を続ける。
避けられる戦闘は避け、必要があれば戦う。
手裏剣の残弾も減ってくる。
なるべく進行方向に向かって投げて、進みながら回収している。
それでも全部は回収できない。
たくさん持ち込めばいいのだが、身軽に動けなくなるのは困る。
敵を間引いたら、荷物を運んで中間基地を作るか。
クラフトすれば手裏剣も作れるけど、材料が足りなくなるんだよね。
コウモリと交戦しても、分身がいれば難なく倒すことができる。
この階層での攻略方法も確立できたな。
「おっ? あれは階段か!?」
降り階段を発見した。
四階層へ続く階段だ!
位置としては、二階層への階段とは逆側あたり。
円形の広い部屋の反対側ってことか。
「……思ったよりあっさりと三階層をクリアできてしまったな。ちょっと物足りないような気もする」
いや、この考え方はおかしい。
自分で言ってなんだが、ケガ無く無事に突破できたことを喜ぶべきだ。
いろいろと工夫して慎重に進んだ結果だ。
準備に時間をかけた甲斐もあるってものだ!
無策で中央突破して敵を蹴散らしてきたわけじゃない。
もしそれをやったら無事では済まない。
それで突破するのはただのゴリ押しだ。
手ごたえを感じるために無駄な危険を冒すのは違う。
弱い敵を力の差でねじ伏せるのも違う。
俺は戦闘狂じゃない。
戦わずに進めるならそれでいいのだ。
なるべく安全に。なるべく見つからず。
気づかれずに敵を倒す。
これこそ忍者の進む道ではないか。
入念な準備が実って、こうして楽ができる。
楽をするための苦労なら、どんどんやっていく。
「さて、四階層はどうなっているのかな……?」
俺は先へ進む階段へ足をかけた。




