マヨネーズでなんとか……なりませんね!?
クモを駆除してゴブリンを蹴散らす。
罠を解除して堅実に進む。
探索は順調だ。
通路を進む。
その先に見えてきたのは――
「あっ! 階段っスよ!」
「これで八階層へ降りられそうですね。ゼンジさん、どうしますか?」
「ふむ……」
俺は地図に階段のしるしを書き入れる。
階段にはたどり着いたが、七階層を制覇したわけじゃない。
地図上にはまだ未探索の通路がある。
でも、先に八階層を見ておきたい!
「魔力と弾丸はまだあるよな?」
「充分あるっス!」
「私の魔力も大丈夫です!」
二人ともまだ戦える。
俺も問題ない。
「よし! じゃあ、ちょっと休憩したら八階層の様子を見てこよう」
そうと決まればじっくり休もう。
階段の踊り場で休息をとる。
リンが持ってきたサンドイッチを食べて、やる気も充填!
「トウコ、魔石はやっぱり食べられないか?」
俺は手の平にいくつかの魔石を乗せて差し出す。
トウコはうげっと舌を出す。
「それ、ぜんぜんおいしそうじゃないんスよねー」
「味付けがわるいのかなー? お塩振ってみる?」
リンが持ち歩いた塩の瓶を取り出す。
この頃はいつも調味料を持ち歩いているらしい。
「うえぇ? 味の問題じゃないっスよ!」
「石に塩ふってもなぁ……。味というより質の問題か?」
「質っスか?」
「ゴブリンさんやクモさんの魔石だからダメってことですかー?」
「マズそうっス!」
「それと……悪性ダンジョンと私たちのダンジョンの違いもあるのかなー?」
「じゃあ今度、ボスの魔石を試してみるか」
「でも、おいしそうだったらっスよ!? マズいのはイヤっス!」
トウコはいやいやと首を振った。
「たしかにマズいものを食べるのは嫌だよなぁ……」
「レベルも上がらないし、スキルも手に入んないっスよ!」
この数日、トウコは魔石を食べようとチャレンジしたのだ。
結果として、食べることはできた。
でも食べたくないほどマズイのだ。
魔石を前にしてもおいしそうだと感じない時点で結果はほとんどわかっていたが――ひどくマズいらしい。
感想を聞く限り、俺が魔石を食べたときと似ている。
強い苦みとエグみ……普通の食材ではありえない味だ。
味というか、なにか違う感覚というか……とにかく食えたもんじゃない。
じゃりじゃりとした噛み応え。ぼふっと広がる塵。
塵を吸い込むとむせてしまう。
絶対食べモノじゃない!
【捕食】があるトウコでもこれは変わらない。
しかし――
「マズくてもスキルが手に入るなら……数の問題かもしれないぞ?」
「いやっス! マズいのをたくさん食べるとか拷問っス!」
「おいしくないのに食べたくないよねー?」
「……無理か?」
トウコはぶんぶんと首を振る。
うーむ。力が手に入るなら頑張ればいいのに……。
「そんなに言うなら店長が食べてみたらいいっス!」
「一回食べたじゃねーか。それに俺に捕食はないんだが……」
「捕食と関係ない可能性もあるっスよ?」
「少しでもおいしくなるように、マヨネーズかけてみますか?」
リンがマヨネーズを差し出す。
使い切りの小袋のやつだ。
俺はそれを受け取る。なんか、流れができてしまった。
「あ、ああ。じゃあ、食べてみるか……」
「うえっ!? 店長、マジっスか!?」
少しでも食べやすいように、とがっていない魔石を選ぶ。
かみ砕いちゃえば意味はないけど……心理的な圧力が違う。
「……人に食べさせて自分が食べないのもなんだしな」
「あたしは食べないっスよ!?」
トウコが冷や汗を浮かべて後ずさる。
「いや、トウコは食べなくてもいい」
「……そっスか?」
「嫌がることを無理強いする気はないからな」
トウコはにやける。
「ムリヤリしても許されるのはエロいこと限定っス!」
「許されねーよ! それ、一番許されねえよ!」
「……そ、そうよ! ダメよ!」
リンが頷きかけて、首を振った。
俺は見逃さなかったぞ!
ダメでしょうが!?
いや待て。リンは嫌がっていない!
ということは無理強いじゃない。
……この場合は許されるのか?
いやいや。最初から合意じゃんそれ。
ムリヤリじゃないから話が違ってくるな?
脱線した。……なに考えてんだ俺は。
「さて、ゴブリンの魔石からいくか!」
「うわあ……店長チャレンジャーっス!」
どうせなら斥候のスキルを狙いたい。
探知系や罠系の能力を持っていそうだ。
だけど、混ざってどれかわからない。
モノリスに入れれば勝手に分別されるから、拾った時点では分けていないのだ。
魔石を食べることでスキルが得られるなら、次からは選別するとしよう。
「すーっ」
俺は深く息を吸い込む。
前回、御庭の疑惑をそらそうと食べたとき、塵を吸い込んでむせた。
だったら、呼吸を止めていればいいのだ!
そして魔石を口に放りこんで一気にかみ砕く。
じゃりっとした歯ごたえ……!
魔石が砕けると、塵が口の中いっぱいに広がる。
「……っ!」
「だ、大丈夫ですかっ!?」
大丈夫じゃないです!
口の中いっぱいに広がるエグみ! 苦味!
匂いとも違うけど、鼻の奥までピリつくような感覚がある。
トウコが俺を指さして笑う。
「ははっ! 店長、鼻からチリ出てるっス!」
……コイツ!
自分が食べないで済んだからって面白がってやがる。
俺は涙目でトウコをにらむ。
「……」
「トウコちゃん……笑い事じゃないからね!」
俺は今ツッコめない。
塵を吸い込まないように息を止めているからだ。
しばらく口を閉じていれば塵は消えてしまうはず。
その間、マズい味が持続する。
……かなり気持ち悪い。
口の中から塵が消える。
体に吸収されたのか、どこかへ消えてしまったのかはわからない。
「ふう……はあ、マズいな」
「ゼンジさん。無理しないでください!」
リンは心配そうに言うけど、調味料渡してきたじゃないか……。
しかし、マヨネーズではごまかせなかった。
感じてるのは味じゃないのかもしれない。
「どうっスか? 経験値になったりスキルもらえたりしたっスか?」
「体感はないな」
俺はステータスウィンドウを確認する。
「スキルは……いや、増えてない」
「ちぇー。意味なかったっスねー」
「意味がないかはわからないぞ? せっかくだからクモの魔石も試しておこう」
「味も見ておこう……ペロリっスね!」
変わり者の漫画家かよ!?
「味が気になってるわけじゃないわ! クモのほうが相性がいいかもしれないからな」
「相性……? クモさんが好きってことですか?」
「いや、見た目は嫌いだぞ。そうじゃなくて、能力的にさ」
「あ、言われてみればそうです!」
「ヒモの武器使うからっスか?」
「ワイヤーな。俺の防具はクモの巣を参考にした構造で編んであるんだぞ」
クモの糸は切れにくい。
独特の構造が衝撃を分散させているのだ。
それを参考に作ったワイヤー帷子は重宝している。
鎖分銅もからめとる糸という点では似ている。
でっぱりがあればワイヤーを絡めてスイング移動もできる。
さんざん練習したからな。
「私の服も同じなんですよね!」
リンはうれしそうに服をひっぱる。
ぴっちりした全身タイツのようなくノ一装束が伸びる。
露出度は少ないのに体のラインは全部出る、忍ばない服である。
と言っても光沢のない黒色は、暗い洞窟での視認性を下げてくれる。
ちゃんと意味はある。
見えにくくても俺には【暗視】があるし問題ないね!
このくノ一装束にもワイヤー帷子――蜘蛛織を使っている。
薄くて柔らかいが、最低限の防御力があるのだ。
「あ、あたしもおそろいの服が欲しいっス! つやつや光る素材にしてほしいっス!」
「そうだなあ。トウコ用の服も考えておくよ」
「やたーっ!」
トウコは両手を上げて喜ぶ。
光沢素材にはしないと思うけど。
そういうのは観賞用である。画面映えよりも実用性が大事だ。
「ともかく、クモの魔石ならいける! 脱線したけど、思い込みは大切だからな!」
「そうですね! ゼンジさんならできますよ!」
「そういうもんっスかね……?」
リンは無条件の応援を。
トウコはうろんげな視線を送ってくる。
質の違い……ゴブリンの魔石とクモの魔石では違うかもしれない。
スキルは認識や本人の資質の影響を受ける。
俺は忍具に糸――ワイヤーを使う。
クモのほうがゴブリンよりも相性がいいはずだ。
「俺はクモに似ている! なんならほぼクモだ! いざっ!」
「店長、いったーっ!」
俺は魔石を口に放り込む。
こういうのは勢いだ!
魔石をかみ砕く!
「ゼンジさん、どうですか?」
「ぐはっ……!」
結局、クモの魔石も食べられたものじゃなかった。
「そりゃ無理っスよねえ……。あたしが食べたときはそんなにチリでないっス!」
「あ、たしかにそうね。トウコちゃん!」
「だったら早く言えよ!」
「店長のチャレンジ精神がすごくて止められなかったっス!」
いや、俺もうすうすわかってたけどね!
トウコの場合と俺の場合で、食べられない理由が違う。
トウコの場合は口からあふれるほどの塵は出ない。
おいしく食べられた大鬼の魔石でも、マズいというゴブリンの魔石でもそうだ。
ちゃんと吸収できているってことかもしれない。
「なら、トウコもチャレンジしたらどうだ? 効果あるんだろ?」
「我慢できないほどマズいのは同じっス! ムリムリ!」
トウコは顔をそむけた。
まあ、マジでマズい。
効果があるとしても強制はできないわ。
リンがとりなすように言う。
「私が料理人のスキルを取れたら、また違うかもしれませんねー?」
「そっちに期待するか」
「そっスね。それと、大鬼のみたいにおいしそうな魔石があったら食べてみるっス!」
結果、俺は魔石を食べられないとわかったのだった。
できないことを知るのも経験だね!
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