消えない塗料と、作業漏れの可能性……!?
本日二話目!
罠チェック作業を眺めながらリンが言う。
「そういえば、この塗料って消えちゃいませんか?」
「しばらくは消えないはずだ」
トウコが首をかしげる。
「なんでっスか?」
「そりゃ、俺の持ち物だからだ」
俺の言葉に少し考え込んで、リンが手をポンと打つ。
「持ち物って……ああ、なるほど! 認識ですね?」
「あっ、そういうことっスね!」
「塗料は俺の持ち物、必要なものだ。捨ててるんじゃなくて、置いてる。そういう認識をしておけば消えないはずだ」
「ごみは消えちゃうけど、持ち物なら消えないんですねー。盲点でした!」
「うへー。店長のヘリクツ力、半端ないっスね!」
「ヘリクツ言うな! ダンジョンの仕様を理解した高度なテクニックだぞ」
ダンジョンでは血などの有機物はすぐに塵になって消えてしまう。
装備品やドロップアイテムも、放置すれば消えてなくなる。
だが、必要なものだと認識している俺の持ち物は消えない。
塗料は必要なもの、俺の所有物という認識で塗る。
塗られた塗料をそう認識する。
これですぐには消えない。
俺は装備やアイテムを消えないようにチェックしている。
あまり日数を開けたら消えるかもしれないが、定期的に見て認識しておけば大丈夫。
これは拠点で実証された方法である。
もちろん、分身の作業分も俺がやっていることと同じだと認識している。
こうして、次の通路も同じように進む。
そして部屋の入口からクモを倒していく。
順調に進んでいるな。
トウコが踊るようにステップを踏みながら言う。
「店長、思ったんスけど……いまさら言うのもなんなんスけど……」
「なんだ?」
めずらしく歯切れ悪いな?
なんかハプニングか? やらかしたか!?
「あのっスね……罠がないトコもマークしたほうがいいんじゃないっスかね?」
「ん……? あ、そうだよな……うわ。めんどいな! でも、よく気づいたな!」
こういうのって、ゲーマーの感覚だよな。
俺が早めに気付くべきだったなぁ……。
いや、一人で攻略してるんじゃないからこそ、こうして気づけたと思おう!
トウコは気まずそうな顔から、笑顔になって言う。
「へへっ。えらいっスか?」
「えらいえらい」
「トウコちゃんすごいね! ……だけど、なんでダメなんでしょうか?」
リンはまだよくわかっていないようだ。
首をかしげているリンに説明する。
俺はマークのついた石畳を指さす。
「あそこは罠があるか?」
「あります」
「じゃ、そのとなりは?」
「マークがないから罠はありません」
「じゃ、あっちのは?」
俺は少し離れた石畳を指さす。
調べていないので、マークはない。
「――え? あっちはまだ調べてません。あ、そういうことですね!」
リンがポンと手を打つ。
伝わったようだ。
「罠のある石畳はマークでわかるけど、マークがないものが安全とは言えないんだ」
トウコが補足する。
「罠のと、罠じゃないのと、調べてないのの三種類あるっス!」
「今は調べた場所がわかってるから、罠だけマークすればいい。だけど明日まで覚えてられないだろ?」
「そうですね」
「だから、安全だとわかった石畳にもマークをつけとかなきゃ片手落ちだった」
次回のために塗料を塗った。これでわかっている罠は踏まない。
だけど――しるしを過信すると、調べていない罠を踏むことになる。
俺は目の間を指でもむ。
うーん。ちょっと気が遠くなる作業量だぜ。
「よくわかりましたー! でも、たいへんですね……」
「今日はこのまま進もう。次回は別の色の塗料を用意して塗っていこうか」
「リョーカイっス!」
「はーい」
現状でも、かなり安全になった。
だけど、どうせやるならバッチリにしておきたい!




