七階層攻略! 転がす! 光る! 踊る……!?
没タイトルシリーズ
■七階層攻略! 準備があれば恐れるに足らず!?
「これを分身に持たせて罠を調べれば安全に進める」
「安心ですね、先生!」
おっ? リンが助手モードに入ったな!
「店長これ、名前はなんて言うんスか?」
「名前なんてつけてないが……罠探し棒、かな?」
「うーん。わかりやすいけど、なんだかしっくりきませんねー」
柄は棒だけど、本体はローラーだもんな。
「コロコロローラーでどうっスか?」
「それ、呼びにくくねーか? 早口言葉みたいで舌を噛みそうだ。」
「かわいいけど、知らない人には伝わらないかも?」
知らない人とダンジョンに潜るかはさておき、伝わりにくいかもな。
世の中に存在しない道具を作ると呼び名に困る。
「罠ローラー? ローラー棒? ……難しいな」
「じゃあ、先っぽくるくる棒!」
「間をとって、罠探しローラーがいいかなー?」
「お、それいいんじゃね? さすが助手だ!」
「ふふ、ありがとうございます先生!」
トウコは少し不満げな顔で言う。
「間をとるなら、先っぽ探しローラーっス!」
先っぽって言いたいだけだろ! 話進まないわ!
「探すのは罠だ! 先っぽじゃねえ! ……とりあえず罠探しローラーと呼ぼう!」
二人は頷いた。
「はーい」
「りょー」
これで罠対策はバッチリだ!
休憩は充分! 先へ進むぞ!
というわけで、俺たちは七階層の攻略を開始した。
階段周辺はもう俺が罠を調べてあるので、先へ進む。
判断分身に罠探しローラーを持たせて先頭を歩かせる。
罠の作動を感知したら、素早く後ろへ下がるように条件をつけておく。
これで罠探しローラーは壊れないし、分身もやられない。
その後ろにもう一体の分身がついていく。
こちらは大きな木製のかごを背負わせている。
俺たちはその後ろを進む。
「お、反応したぞ!」
ローラーが石畳をガコっと押し下げる。
罠のスイッチだ!
「トゲっス!」
分身は罠探しローラーを引き寄せながら、素早く後退する。
わずかに遅れて、スイッチの石畳の周囲に鋭いトゲが飛び出す。
「分身さん、あぶないっ!」
リンは毎回、分身を心配してくれる。
判断分身に痛覚や自我はないけど……俺の心配みたいなものだから、ちょっとうれしい。
「――ふう。ちゃんとよけれましたね!」
「先っぽローラーも壊れなかったっスね!」
「うまくいったな。――で、見つけた罠にはマークを付けるぞ!」
罠のスイッチを発見したら、今度はマーキングだ。
トゲはもう引っ込んでいる。
罠は作動させるとしばらく動かなくなるが、一定時間で復活する。
俺のダンジョンは配置が固定なので、罠の位置も固定。
罠のスイッチになっている石畳にハケで塗料を塗る。
地道な作業だが、判断分身にやらせているから作業はサクサクだ。
マーキングしておけば、次回以降が楽になるというわけだ。
二体目の分身がかがみこんで、罠のスイッチに印をつける。
「ちょっと光ってますね。夜光塗料ですか?」
「うん。蓄光塗料とも呼ぶ、光るやつだ。暗くても見える」
厳密には夜光塗料と蓄光塗料は違う。
夜光塗料は自発光する放射性物質が微量に含まれている。
健康被害があるため、一般には使用されない。
これは市販の蓄光塗料だ。
ざっくり言えば、光を蓄えてゆっくり放出するような仕組みだ。
赤色で、ぼんやりと光る。
それほど強い光じゃないけど、見えないほどじゃない。
「ブラックライトで光るやつっスか?」
「それは蛍光塗料だな。あれはブラックライトがないと光らないからダメだ」
機械はダンジョン内では使えない。
紫外線がないと光らないのだ。
「へー。そうなんスねー」
これを入れた投げモノ――蓄光塗料玉も用意してある。
コンビニとかで強盗や万引き犯に投げつけるやつだな。
今のところ作ってみただけだが、使い道はあると思う。
隠密や透明化する敵がいるかもしれない。
ストーカーと戦ったときは苦労したからな。
分身が地道に通路の安全を確保していく。
通路の幅全体をやってはきりがないので、中央を念入りにやる。
端っこなどの未確認の床は、帰りや次回に確認していく予定だ。
トウコがじれったそうに言う。
「通らない部分はいいんじゃないっスか? 早く進みたいっス!」
「戦闘になったらどうするんだ? 前みたいになるぞ」
「安全第一よ、トウコちゃん!」
戦闘中は罠に注意を払えない。
安全を確保した足場から出られないのでは回避に支障が出るし。
トウコはうっと息を詰まらせる。
前回罠に引っ掛かりかけたからな。
「……じゃああたしも手伝って早く終わらせるっス!」
そういうとトウコは前に飛び出す。
その直前に俺は襟首をつかんで止める。
「うえっ!? なんスか店長!?」
「ちょい待てって! どうやるつもりだよ!」
トウコはむせながら言う。
「そりゃ、素早く踏んでそのまま走り抜けるっス!」
「トウコはトゲをよけれるだろうけど、判断分身が誤動作するからちょっと待て」
「どうなっちゃうんですか?」
「たぶん、最後に発見した罠だけ印をつけるんじゃないかな」
「あー、それはまずいっスね!」
今の条件は、罠の作動を見たらスイッチに塗料を塗る。というものだ。
トウコが次々に罠を作動させると、条件が次々に満たされる。
判断分身は機械的に判断するから、最後の罠しか印をつけられない。
罠の位置を全部覚えておいて、順番に処理するようなことはできない。
ちょっと不便。
「条件を変えて、一体目の判断分身が作動させた罠に塗料を塗る、にしとく」
「あれ? それだとあたしの分は無視っスか?」
少し寂しそうな顔でトウコが言う。
いや、無視とかじゃないから。
「トウコの分は俺が塗るんだよ」
「へへ、そうっスか! ――じゃ、いくっス!」
「その間、リンは索敵警戒たのむぞ」
「はーい!」
トウコはケンケンパのように、目の前の石畳を踏みながら進む。
敏捷のステータスのおかげもあって、素早い。
「おっと、罠っス!」
トウコが踏んだ石畳が沈み込む。
罠が作動するよりも早く、トウコが飛びのく。
余裕の回避だな!
トゲが飛び出し、再び戻る。
そこへ俺がハケで塗料を塗っていく。
ハケは忍具作成で作成したものだ。コストも安い。
「なんかトウコちゃん、踊ってるみたい!」
「高難易度ダンスゲームっス! どうスか?」
たしかに、ゲームセンターにある足元のパネルを踏むゲームみたいだ。
トウコは調子に乗って上半身に無意味な振りつけを加える。
踊りながらもペースは落とさずに進んでいく。
「器用だなあ……俺は地味な作業だ」
素早く踊るトウコの後ろを中腰でついていく変な絵面。
ちゃっちゃと床に印をつけていく簡単なお仕事。
「でもこれで、私も安心してすすめます!」
「帰りも通るし、この後も何度も通ることになるからな。ま、焦らずいこうぜ!」
こういう積み重ねでダンジョンを攻略していくのだ。
俺だけなら壁走りするか、駆け抜ければいいんだけどね。
「なんか楽しくなってきたっス! あたしのステップは革命だっ!」
これはこれで楽しいし、ヨシ!
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