重いコンダラ……いや、軽い!? 罠発見マシーン!
没タイトルシリーズ
■この世に存在しない道具!? ないものは作るしかない!
俺は用意した道具を手にとる。
朝練で作成しておいたものだ。
もうテストも済んでいる。
地ならし棒をダンジョン用に改良した品だ。
トンボと整地ローラーのいいとこ取りした品である!
「よく見てくれ。これはただの地ならし棒じゃない!」
俺が手にした道具の先端をトウコが指さす。
「あっ! 先っぽにローラーがついてるっス!」
「でも、それにしては大きいですね?」
見た目としてはトンボに近い。整地ローラーとのあいの子だな。
トンボの先端にローラーをつけて押す感じだ。
「ただ転がすだけならもっと小さくていいけどな。これは重さも重要なんだ」
整地ローラーとは違う。
あちらのローラーはかなり大きくて重い一つのパーツである。
それを引っ張って、重さで地面を平らにする。
……いや、引っ張っちゃダメなんだっけ?
自分が平らにされちゃう事故が起きてしまう。押さないとダメだ!
実際使ったことはないけど、たぶんドラム缶を横に転がしてるみたいなサイズ感だと思う。重さ数百キロはあるらしい。
だが、これは小型である。
大きなローラーひとつではなく、小さなローラーが複数ある。
筋トレするときに使うダンベルやバーベルをイメージすると近い。
横棒に脱着可能な円盤状の穴の開いた重りを通すアレだ。
横棒を軸に、車輪のように複数のローラーが並んでいる。
さらに、ローラーはそれぞれが独立していて、軸に対してぴったりとくっついていない。
俺は棒を前に構えて、石畳の上を転がす。
ローラーが床の上を転がる。
手ごたえは少し重い。
この重さによって、床を押す――罠を踏むことができるのだ。
ある程度の力をかけないと罠のスイッチは作動しない。
表面を撫でただけじゃダメである。
リンは感心したように言う。
「なるほどー。このローラーの重みで床を押すんですね!」
トウコは先端を指さす。
「でも、なんかガタついてるんじゃないっスか?」
「そりゃわざとだ。遊びを多めにしてあるんだ」
棒とローラーの間には少しスキマがある。
トウコが横からローラーと棒のスキマをのぞき込む。
「あ、たしかに穴がちょっと大きいっスね!」
「石畳はでこぼこがあるからな。ぴったりしてると、へこんでる石畳を見逃す場合があるんだ」
リンが言う。
「あっ、浮いてしまってスイッチを押せないんですね?」
「そうだ。高い部分だけに乗って、低い部分を押せなくなる」
ローラーが長い一本ではなくて、複数のパーツに分かれているのもポイントである!
リンが拍手する。
「よく考えてますねー。さすが先生!」
「この形になるまでに、けっこう試行錯誤したんだ」
ただの熊手では軽すぎてスイッチが押せない。
重くて大きい整地ローラーだとコストがかかってしまう。
そもそも、デカくて重いものをダンジョン内で使うのは無理がある。
ある程度の重さがあり、それでいて持ち運べる軽さ。
段差にも有効な構造。
バネでローラーが引っ込む方式も考えたけど、没にした。
複雑なので作成コストが増えてしまう。
トウコがローラーの先端を押す。
弾力があって少しへこむ。
「このローラー、ゴム製なんスか? ちょっとやらかいっスね」
「表面はゴムで覆ってある。そうしないと音がうるさくなるからな」
リンがローラーを手で回す。
「小さくしたらマッサージローラーみたいですねー」
「顔をコロコロするやつ? いや、コリをほぐすやつか? 言われてみれば似てるな」
顔の輪郭を補足する美顔ローラーとか小顔ローラーと呼ばれる品かと思ったけど違う。
俺の作ったものとは似ていない。
ヨガローラーとかヨガポールとか筋膜ローラーなんて呼ばれる品のほうだ。
筋膜リリースとかコリほぐしなんかに使う。
リンが笑顔で頷く。
「コリをほぐすほうです! ヨガの教室に置いてあるんです。あれ、気持ちいいんですよー」
「へえ、あたしやったことないっス! 筋膜処女っス!」
「……ツッコミにくいボケはやめろ!」
「膜だけにっスね!」
「トウコちゃん……ちょっと!」
さすがにリンまでツッコんだ!
品性! 品性が足りないよ!?
トウコが床に寝そべる。
「――トウコ、なにしてんだ?」
「そのゴムのついた先っぽでグリグリしてほしいっス! さあどうぞ!」
「どうぞ、じゃないわ! あんまり気を抜くなよ!」
敵がいないとはいえ、ダンジョンの中だ。
おふざけが過ぎるぞ!
「あ、でも帰ったらマッサージ用のローラーって作れませんか?」
「リンまでなに言いだすんだよ……多分作れるけど」
最初にマッサージローラーを作ろうとしたら無理だろう。
だけど、すでに類似品を作った実績がある。
【忍具作成】君もイヤとは言うまい。
段階を踏めば、多少、ほんのちょっぴり忍具っぽくないものも作れてしまう。
世の中に存在しない品なら、こうやって作るしかない。
「じゃあ、帰ったらお願いしてもいいですか……?」
上目遣いで頼まれちゃ断れない!
でも普通に売ってる品だったら買ったほうが早い。
幸い、それを買うくらいの金はあるんだし。
「いいけど、美容器具なら買えばいいんじゃないか?」
「その……ゼンジさんが作ったものがいいなって……ダメですか?」
リンは頬に手をやって、顔を赤らめる。
断る理由なし!
「よし作ろう!」
トウコが手をあげる。
「じゃあじゃあ、あたしも! 電動でマッサージするやつを作ってほしいっス!」
「作らん! ていうか電気で動くものは作れん!」
忍具かどうか以前の問題だわ!
■修正履歴
コンダラ(整地ローラー)は押して使うのが正しいので「引く」描写を「押す」に修正。
■補足
罠探しローラーの挿絵を活動報告に載せました。
ローラーの数は四つにしたほうがよかったかもしれない。




