ラブアンドマネー!? 案外堅実な未来計画!?
「貯金? なにも買わないのか?」
「ちょっと考えてみたけど、別に欲しいものないんスよねー」
あれ?
くだらないもの買うと思ったのに。
「その割に、やたら給料にこだわってたじゃないか?」
「そりゃそうっス! 愛とお金はいくらもらったっていいんスよ! ラブアンドマネーっス!」
トウコはドヤ顔で言い切る。
バカげたことを言っているようで、これは真理だ。
金で愛は買えないけど、金がないことで愛情がさめることもある。
貧すれば鈍する。
人間の心なんて、衣食住が足りていなけりゃマトモに機能しない。
仕事に追われて余裕のない生活をしていては、恋愛もできない。
「……まあ、そうかもしれん」
「でしょでしょ? というわけで、たっぷり愛してくれていいっス! さあどうぞ!」
トウコは両手を広げて目をつむる。
「どうぞじゃねえよ!」
「愛と欲望は多いほどいいっス!」
俺はトウコの頭に手を置いて言う。
「それはどうなんだろうな? 適量があるだろ?」
それでもトウコは目を細めて、気持ちよさげに笑う。
「あたしの適量はもっと多いんスけどねー。店長はヘタレっス!」
「うっせえ。で、貯金してどうするんだ? でかい買い物でもするのか?」
「後々のためっスよ。高校卒業したら家を出るから、そのために取っとくっス!」
トウコは平然と言う。
家を出る……つまり親元を離れて自立するってことだよな?
でも、それでいいのか?
「進学も就職もしないつもりなのか……?」
「学校はつまんないし、働きたくないっス! 働いたら負けっス!」
いや……まあ、そうだが。
俺は働くこと自体は嫌いじゃないんだよなぁ。
ブラック労働が嫌なだけで、適量は問題ない。
「そりゃそうだが……じゃ、なにするんだ?」
「そりゃ、公儀隠密でお賃金もらえばいいんスよ。あたしはこっちが向いてるっス!」
トウコは指を銃のように構える。
つまりはダンジョンとの闘い。――ダンジョン生活。
公儀隠密は十年後もその先も存在すると御庭は言った。
それは俺たちの働き次第ともいえる。
悪性ダンジョンを潰し、報酬を得る。
不安定に思えるその生活だけど、現に大金を支払われている。
それに、異能やダンジョンがこの世から消えるなんてことがあるだろうか?
おそらく、ないだろう……。
家があれば火事が起こり、消防官は必要となる。
人がいれば犯罪が起こり、警察官が必要となる。
ダンジョンがあれば悪性化して、俺たちが必要になる。
なくなることなんてない。
きれいさっぱり解決できる問題じゃない。
ゴールのない問題なんだ。
「……そうだな。トウコには向いているかもな」
「でしょでしょ!」
「だけど高校はちゃんと行っとけ。すぐに将来を決めるんじゃなくて、よく考えて――」
――前にも言ったけど、ダンジョンだけの人間になっちゃだめだ。
トウコは、まだ十六歳なんだ。今は学校がつまらなくても、変わるかもしれない。
選択肢は残さないとな。
俺の言葉を最後まで聞かず、トウコが言う。
「わかってるっス! 店長がうるさいからちゃんと卒業するっスよー! それで文句ないっスよね?」
「文句なんて言ってない。注意とか教育ってやつだぞ」
トウコが口をとがらす。
「ちぇー。注意は文句っス!」
「注意は愛情だぞ!」
俺はトウコの頭をなでる。
トウコがフリーズする。
「……うぇっ!? な、なんスか急にっ」
「適量の注意を与えてるんだ」
「注意は愛情っスね! それならもっと物理的に注入してくれてもいいっスよ! さあ!」
トウコは両手のてのひらを上に向け、指をくいくいと動かしてる。
カモーンのポーズだ。
「さあ、じゃねえよ! 物理的な注意は体罰だよ!」
「店長のヘタレっ!」
トウコは口をとがらせる。
リンが感心したように言う。
「でもトウコちゃん……ちゃんと将来のことを考えてたのねー」
「たしかに、貯金とはなぁ……驚いたわ」
「なんで驚くんスかね?」
「いや、くだらないものを買うのかと思ってた」
トウコは横目で俺をにらむ。
「店長もしかして、あたしのことアホだと思ってないっスか?」
俺は頷く。即答だよ!
「もしかしないでも、そう思ってるぞ」
「店長ひどくないっスか!? リン姉ー?」
トウコが愕然として、リンに救いを求める。
が、リンは目をそらした。
「あれっ!? リン姉まで……?」
「だけど、トウコちゃんはいい子だから……」
トウコはがっくりとうなだれる。
逆に、どう思われてると思ってたんだよ!
「いつもそういう風に思ってるんスね……」
「そりゃそうだろ」
トウコが上目遣いで言う。
「いつも?」
「まあ、そうだな」
トウコの表情が明るくなる。
「つまり……いつもあたしのこと考えてくれてたんスね!」
「ムリヤリ前向きにとらえたな!?」
「じゃあ、いいっス! あたしもいつも二人のこと考えてるっス!」
「うん! 私もそうよ。トウコちゃん」
リンは優しく微笑む。
トウコはやらしくにやける。
「いつも二人のあれこれを妄想してるっス!」
「うん。私も……あっ……」
「いつもはやめろ! 変な妄想はやめろ!」
あれ? 今、リンも同意しかけてた!?
まともなやつはいないのか!?
俺は……まともだ。いつもじゃないし!




