お金なんてものはいくらあってもいいのよ!
御庭の拠点からの帰りは、ウスイさんが車で送ってくれた。
現金をもって電車なんか乗りたくないし、助かるね。
アパートへ戻ってきた俺たちは、すぐに草原ダンジョンへ入り食事をした。
満腹になってひとまず落ち着いたぞ。
さて――どうするか。
テーブルの上に二束の札束を乗せる。
俺は神妙な顔で切り出す。
「さて、この金をどう分けようか?」
「ゼンジさんにおまかせします」
リンはにこにこと言う。
「お任せか……うーん」
委ねられても難しいんだよな。
金のことはちゃんとしなけりゃならない。
譲り合いだけじゃダメな気がする。
ダンジョンで手に入れた品物についても、リンは欲がない。
そういうことでモメる可能性はない。
トウコがにまにまと言う。
「あたしも貰えればなんでもいいっス! なんなら体で払ってくれても――」
「誰が体で払うか! アホか!」
援助交際か!
いや、俺が援助してる交際には違いない!
たまに助けられてもいるけど……。
ん……? なにを弁明しているのだ俺は!
やましいことはなにもない!
「じゃあリン姉にもらうっス! うへへー」
「きゃっ! ちょっとトウコちゃん!?」
トウコがリンに抱き着く。
顔をうずめるな! 揺らすな!
けしからん――もっとやれ!
「勝手に体で払わすな! 金を受け取れ! 金ならいくらでもある!」
「いくらでもはないっスね!」
悪役小物みたいなことを言わすな!
「いまは四百万しかないけどな!」
「なんで急に増えてんスか!?」
「あれっ? 二百万円でしたよね? あ、別にもらったんですか?」
「言わなかったっけ? 俺が公儀隠密に入ったときの準備金としてもらった二百万がほぼ手つかずである」
数万は使ったか。
そんな程度で、大きな買い物はしていない。
急に大金をもらっても、使い道がないんだよな。
貧乏性っていうか、あまり物欲がないのだ。
趣味にも金がかからない。
だって、ダンジョン攻略だからな!
ちょっとのクラフト用資材があれば足りてしまう。
リンはまじめな顔で言う。
「でもそれはゼンジさんのお金です。私たちはさっきの分だけでも充分すぎるくらいです!」
「そうっスねえ。あたしもたくさんは要らないっス。親のカードで買い放題だし、困ってないんスよねー」
トウコはけろりとした表情で言う。
両親は金持ちだ。金だけは自由に使えている。
「……そうか」
「私は家賃とか払わないといけないので……」
リンは少し深刻な顔で言う。
リンは苦学生だ。バイトで生計を立てている。
部屋に家具は少ないし、ぜいたく品も持っていない。
引っ越したばかりのアパートの部屋はがらんとしている。
「俺もあんまり使い道はないな。ケーキとか木材とか買ったくらいだわ」
「じゃあ、こうしましょう。もともとのお金はゼンジさんのもの。残りを分けましょう」
「いいっスね、リン姉!」
「うーん。じゃあ今回の分は四等分して、各自五十万ずつ取るか」
「え? なんで四等分っスか? もう一人いるんスか? ……幽霊?」
「……いないですよ!? ……ですよね!?」
リンは顔を青ざめさせてきょろきょろと周囲をうかがう。
いるわけないだろ!
「誰だよ四人目! そんなの居ないわ! 残りはみんなの共有にするってことだ」
「ああ、よかったあ。そういうことですねー」
「貯金っスか?」
俺は現金を判断分身に数えさせ、四等分にする。
こういう自動的な作業は得意だ。
それぞれの前に五十万を置き、残りはテーブルの中央に置く。
「銀行には預けないけど、そうなるな。ダンジョンに置いといて、必要な時に使えるようにしよう」
「ダンジョンで使う品物を買ったりするんですね?」
「あ、いいっスね!」
この共有の金からクラフト用の物資を買ったりすればいい。
ダンジョン内でのことじゃなくたって、みんなで使う用途ならいいだろう。
「でも、トウコに現金を渡していいのかな?」
「え? なんでっスか?」
「あ、私もそう思っていました。トウコちゃんまだ高校生ですしー」
トウコが納得したように頷くと、胸をはる。
「ああ、そういうことなら子供扱いしないで欲しいっスね! ずいぶん前から親の金を自由に使ってるんで!」
「ああ、うん。そうか。えばることじゃないが……変なもの買わなきゃいいと思うぞ」
「そうですね。トウコちゃん、大丈夫?」
「大丈夫っス! 貯金しとくつもりなんで!」
貯金だと……!?
予想外の答えだな!
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