我が家のパソコンが不正アクセスされた件……!
「ちなみにハカセ。検閲するほうじゃなくて情報を流すシステムもあるのか?」
「ご明察。そういうシステムもあるよー。俺っち達が作ったわけじゃないけどー」
「やっぱり、あるのか……」
「でもここで使えるのは読み取るほうだけ。ガッカリしたかなー?」
ハカセは俺の顔をのぞき込むように見ている。
「……いや、使いたいわけじゃない。できるか知りたかっただけだ」
「流したい情報があるなら、俺っちがやったげるよー?」
ハカセは指先で空中のキーボードを叩くような動作をする。
情報発信用のシステムを使わなくても、人力でできるってことだろう。
さすがは凄腕ハッカーさん。
「今やりたいわけじゃないんだ。まだ考えているところでな」
「へえ? そりゃ気になるねー? 聞かせてみ?」
「ダンジョンや異能についての情報を、それとわからずに流せればと思ってな」
「そんな情報を流したら隠蔽に即BANされちゃうよー?」
リンが首をかしげて、俺に聞く。
「えっと……バンってなんですか? 撃たれちゃうんですかー?」
「銃声のバンじゃなくて、ゲームで使う用語だな。アカウント停止みたいな意味だ。サービスから追放されるってことだな」
つまり世界から追放されちゃうわけだ。
「……じゃあ、あぶないじゃないですか!」
「うん。だから、禁則事項に触れないようにうまく流すんだ」
「どういうやり方を考えているのかなー? ここが霊場だからって、ネット上へ流したら隠蔽は食らうからね?」
この場所でも、外部への情報流出は罰をくらう。
そう都合よくはないか。
「世界の隠蔽の仕組みってどうなってんだ? インターネット上の情報とか、電子的なものまで対象なんだよな……」
「それこそ、頭の中でも検閲してるんじゃないかねー? 知らんけどー」
世界の隠蔽は考えたり喋ったりしたことすら監視されている。
それこそ神や世界そのものといった、大きな存在を疑わざるを得ない。
まあ、規模が大きすぎて、どうしようもない話だ。
気を付けるしかない。
「俺の見たサイトで、ダンジョンのことをそれとなく書いてるものがあったんだ。それを読むと頭痛がするし、認識阻害も受ける」
「はー? クロウっちはダンジョン持ちっしょ? なんで認識阻害を受けてるんだよー」
異能者やダンジョン保持者は認識阻害の影響を受けにくい。
リヒトさんのリアダンの情報は、俺にも影響を与えていた。
これは、なんでだ……?
「ゼンジさん。あのとき、ひどい頭痛で気絶してましたよね? ……今は大丈夫なんですか?」
「ああ、大丈夫だ。ここでならリアダンについて考えても頭痛はしない」
ハカセが首をかしげる。
内輪ネタのような会話に、少し苛立たしげだ。
「リアダン……? クロウっちが何度か検索していたワードだよねー?」
「そうだぞ。ハカセも読んだんだろ? リアル・ダンジョン攻略記だよ。どう思った?」
俺の検索履歴を調べたなら、読んだはずだ。
あの攻略ブログはダンジョン関連の情報が詰まっている。
こういう情報から、俺がダンジョン保持者だという確信も得られたんじゃないか?
でもハカセの反応は思っていたものと違った。
「読むって、なにを? そんなサイト――リアル・ダンジョン攻略記なんていうサイトはネット上のどこにも存在していなかったよ?」
「は? いや、そんな馬鹿な!?」
「いや、俺っちも気になって調べたんだ。クロウっちがアクセスした痕跡もない。通信のログから見て、検索したあとクロウっちはネットワーク上で動いてないんだ」
ウェブサイトへアクセスすれば、通信が発生する。
足跡のように記録が残る。
俺のパソコンだけじゃなく、サーバなどにも残るだろう。
検索した形跡はある。
だけどサイトへのアクセスした形跡がない……?
「あるはずだ……。何度も読んだし、内容も覚えている――記憶はあやしくなってるところもあるけど」
「いま検索してみるけど……ほら、ヒットしないよ?」
「ゼンジさんはちゃんと、あのサイトを読んでましたよ! メモして、忘れないようにしたんですよね?」
くそ、認識阻害め!
記憶があやしいと、なにを信じていいのか分からなくなってくる!
ましてや他人に信じてもらうなんて……。
「そうだ。俺のパソコンのお気に入りにも登録してある」
「へえ? ちょっと見てみるけど、かまわないよねー?」
「俺のパソコンは今、電源入ってないぞ?」
「ま、大丈夫なんだなー、これが!」
ハカセはキーボードを軽やかに叩く。
カタタタターン。
わざと大げさに打鍵している感じだな。
かくして、本人の目の前で不正アクセスが行われたのだった!
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